同時テロ10年 ブッシュ氏のパニック/朝日新聞・山中季広(ニューヨーク支局長)

2011-09-04 13:53:03 | アメリカ
米同時テロ10年の節目に合わせたかのように8月末、チェイニー前副大統領の著作「わが時代」が刊行された。この機に、ブッシュ前政権を支えた人々の回顧録を7冊買いそろえ、一気に読んでみた。

 副大統領の本のほかに、ブッシュ大統領の「決断のとき」、ラムズフェルド国防長官「周知の事実と未知の事実」、リッジ国土安全保障長官「試練の時」、ローブ補佐官「勇気と結末」。あわせてローラ大統領夫人の「真心からの言葉」と母親バーバラさんの「回想」も斜め読みした。

 女性ふたりの著書は飾らない筆致で好印象だったが、男性陣の5冊は題名だけでなく中身も脂っこかった。共通するトーンは過剰な雄々しさ、みなぎる自画自賛。立て続けに読むとちょっと胸焼けがする。

 とりわけ興味深かったのはテロ当日の大統領の慌てぶりとその釈明である。

 《朝》大統領はフロリダ州の小学校を視察中だった。補佐官からテロ発生を伝えられ、取材陣の目の前で動揺する。ところが大統領の回顧録によると、自身は冷静だったという。〈危機管理の第一は平静さ。私がショックに陥ってはいけない。慌てたらパニックの波を国中に送ってしまう〉と自制したそうだ。ものは言いようである。放心し、恐怖にとらわれるまでの一部始終が放映されたことをお忘れらしい。

 《昼》大統領はなぜか首都へ戻らず、10時間あまり雲隠れした。副大統領の本によると、「首都に戻ると危ない」と大統領を諭し、遠くネブラスカ州で退避させたそうだ。どう考えてもあの局面で大統領が身を隠すのは賢策ではない。「臆病」「役立たず」と批判されたゆえんである。

 《夜》ようやく首都に戻り、大統領は眠りについた。まもなく「敵機襲来」の声に起こされる。夫人の回顧によると〈大統領は、近視の私にコンタクトを着けるいとまも与えず、寝間着のまま2人で階段を駆けおりた〉。敵機でなく米軍機と判明するのだが、その動転ぶりたるや尋常ではない。

 こうしてみるとテロ初日、ブッシュ氏は朝から晩まで逃げてばかりいた。まるでパニックに陥っていたかのようだ。

     ■   ■

 大災害でパニックを起こすのは一般大衆ではなく、権力を持つエリートの方だという研究がある。米災害社会学で「エリートパニック」と呼ばれる現象だ。

 日本でも大震災の後に散見された。どなりちらす首相、放射線情報を隠す原子力当局、乱立した政府対策本部。どれもパニックと言ってよい迷走ぶりだった。

 この分野に詳しい米コロラド大学のキャスリン・ティアニー教授を訪ねた。

 「大衆は危機に直面するとパニックを起こすもの、と思い込んだ政府機関の長たちが恐怖にとらわれ、自らパニックに陥る現象です。安全じゃないのに『安全です』と繰り返す。手にした有益情報を隠す。はては被災者に銃を向けることもある」。6年前、ブッシュ政権が「秩序回復のため」と称してハリケーン被災地に部隊を投入したのが典型という。

 米国の災害学者たちは、地震やテロなど数十年分の惨事における大衆の動きを調べ「市民の圧倒的多数はパニックなど起こさない」という結論を得た。ティアニー教授自身、95年には神戸を、今年6月には東北を実地調査に訪れ、被災者がいかに冷静だったか学会で発表している。「むしろ問題が多いのは公的機関の動きの鈍さや連携のなさ。どの国でも、国難に直面して動転し、機能しなくなるのはエリート層です」

     ■   ■

 9・11の後、パニックを振り払うかのようにブッシュ氏は強権的な策を打ち出す。盗聴やおとり捜査を野放図に認め、テロ容疑者を「水責め」の拷問にかけさせた。会見で自ら「次はテロリストが農薬散布機から何かまくだろう」と不用意なことを口走ったこともある。

 今さら言っても仕方ないが、イラク戦争自体、ブッシュ政権の早とちりで始まったようなものだ。ありもしない大量破壊兵器を「ある」と思いこんで突き進んだ。

 さしもの大統領もこの点は歯切れが悪い。〈イラクが破壊兵器を隠していると信じたのは私だけではない。世界の全員が間違ったのだ。兵器が見つからずに世界で最もショックを受けたのはこの私だ〉

 厚顔な言い訳に満ちたその回顧録を読んで思い出したのは、州知事だったころのブッシュ氏だ。11年前、大統領選に向け米国記者たちとともに密着取材した。気さくで偉ぶらない姿勢には好感を持ったが、とにかく短気でそそっかしかった。「自宅の水槽にウオツカを注いで金魚を死なせた」「10代で父親の車を運転して壊した」。その種の失敗談をいくつも聞いた。

 退任後、ブッシュ氏は「重要案件はしばしば勘で決断した」「最後は自分の直観を信じた」と述べている。その勘やら直観やらは、生来のそそっかしさと9・11以降のパニック心理の産物ではなかったか。この人物にもう少し思慮深さがあれば、米国は武断主義に陥らず、テロ10年後のいま、世界ははるかに静穏だったことだろう。
2011.9.4朝日新聞・朝刊コラム

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アフガン 誤爆、米は謝罪せよ〈米同時多発テロから10年〉

■アフガン西部で子ども4人を失った、グル・アフマド(56)

 暑い夜だった。村では若者たちがいつものように、熱がこもる家の中を避けて屋根の上にあがり、風を受けながら眠っていた。

 2008年8月22日の未明、アフガニスタン西部ヘラート州のアズィザバード村。グル・アフマド(56)は、突然の爆発音ではね起きた。近所に住む弟が飛び込んできて、「米軍の空爆だ」と叫んだ。爆撃が続くなか、アフマドは弟たちと隣村まで逃げた。

 この日、米軍は空と陸から村を攻撃した。現地調査をしたアフガン独立人権委員会によると、爆撃で村人ら91人が死亡。うち75人は女性と子どもだった。

 アフマドも、14歳から20歳までの4人の息子と娘を失った。朝になって村に戻り、無残な姿の子どもたちの遺体を集めて回った。

 「子どもたちのことを思い出そうとすると、目に浮かぶのはあの時の光景。楽しかった記憶は消えた」

 なぜ村が攻撃されたのか。アフガン当局の調査で、ある男が米軍に「反政府武装勢力タリバーンが集結している」とうその情報を流したことがわかった。

 男は、米軍などが使う空軍基地の拡張を請け負う外国企業に、地元の労働者を警備員などとして派遣する仕事にアフマドの一族と共に携わっていたが、利益配分をめぐってアフマドたちと対立していた。

 攻撃があった夜、その警備員らが自動小銃を手に村に来ていたこともあり、米軍はタリバーンと誤認したとみられている。

 01年9月の米同時多発テロ後、米国は当時のタリバーン政権が国際テロ組織アルカイダの最高指導者オサマ・ビンラディン容疑者をかくまっているとして、アフガンでの軍事作戦を始めた。アフガンには巨額の外国資金が流入するようになり、アフマドもその恩恵にあずかった。「仕事のチャンスが増え、収入も伸びた」。反米的な感情を持ったことなどなかった。

 だが、誤爆の日から人生は一変。外国企業には契約を打ち切られた。「米軍の不当行為を、政府や人権委員会に何度も訴えた。それで、米軍が企業に圧力をかけたに違いない」

 生き残った息子のドゥル・アガ(20)は米兵に捕まり、後ろ手に縛られ目隠しされ、「タリバーンはどこだ」と頭に銃口を突きつけられた。恐怖が消えず、原因不明の頭痛に悩む。

 巻き添えで家族を失った村民からも反感を買った。「私のせいで米軍に狙われたと思われた」

 アフガン政府は村民に最大約20万円の見舞金を支払ったが、米国からは謝罪も補償もない。当初は、米側は民間人の犠牲も認めなかった。やがて誤爆は認めたが、犠牲者を5~7人と発表。批判を受けて33人と修正したが、アフガン側の指摘とは大きく隔たる。

 米国の姿勢にアフマドは失望を隠せない。「誤った情報に基づくとはいえ、真偽を調べずに人を殺したのは確かだ。米国は人権を尊重する国だという。今からでも村に来て、せめて謝罪をしてほしい」(敬称略)(ヘラート=五十嵐誠)

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8 コメント

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精神科医 (宮地 達夫)
2011-09-04 14:51:09
9/11に関して。まだ陰謀論が跋扈していますが、反陰謀論の幾つかをコピーしておきます/TATSUO/article/):11文書/Debunking 911 Conspiracy Theories and Controlled Demolition Homepage.pdf/TATSUO/article/):11文書/Enough of the 9_11 Conspiracy Theories, Already | AlterNet.pdf/TATSUO/article/):11文書/911 Links - Links for 9:11 Research.pdf
精神科医 (宮地 達夫)
2011-09-04 14:57:38
前にあげた文献、あけられないようなので、文献のアドレスをコピーしておきます 今日はindependentにFisikがコメントを出していました

http://www.popularmechanics.com/technology/military/news/1227842
http://www.alternet.org/story/41601/
精神科医 (宮地 達夫)
2011-09-04 15:43:02
時系列をとだるならば、陰謀論の根拠が崩れるのがわかります
ラディンは、アフガンでお払い箱になった後、次第に反米に傾き、アルカイーダを組織し、アルジェリア、モロッコ、ケニアの米大使館を爆破します。CIAは早くから内偵し、本土攻撃を2度ブッシュに警告していますが、当時のブッシュは先端機械好きのネオコンの情報(多くは無人飛行機、偵察衛星など)に頼ってCIAの警告を無視しました。陰謀論で奇妙なのは
まず、リークがないことです。米国のように二重三重にセキュリティシステムを構築している国では、皮肉な事にリークが多くなります。ウオーターゲートしかり、トンキン湾事件しかりです。内部爆破説については、通常のコンクリート熱で
幾つかのビルが溶融していたことが判明しており(陰謀論者は通常のコンクリート熱では、建物は溶融せず、従ってWTC地地下での爆破は内部犯行であると断定していますが、、むしろ
地下の発電機にコンクリート溶融の熱が触れて爆発したと分析する方が理にかなっています)

 反陰謀論の幾つかを追加しておきます
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2007/feb/20/comment.september11

http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2007/feb/06/comment.film
精神科医 (宮地 達夫)
2011-09-04 19:11:31
9/11前後のブレアとブッシュの秘密のやりとりはよく知られており、公式的には今年秋、チルコット委員会での報告が待たれます。ブロク「イラク戦争何だったの」にコメントした報告をコピーしておきます精神科医 (宮地 達夫)
2011-08-30 05:15:17
GuardianにBlair and Bush planned Iraq war without second UN vote, letter showsというリークが載りました
アドレスをコピーしておきます
http://www.guardian.co.uk/politics/2011/aug/29/tony-blair-iraq-un-resolution
精神科医 (宮地 達夫)
2011-08-31 19:08:55
秋 公開予定のチルコット委員会報告にむけてGuardianはリークを続けるつもりのようです
Dick Cheney autobiography heaps praise on Tony Blair

http://www.guardian.co.uk/world/2011/aug/30/dick-cheney-autobiography-tony-blair
http://www.nytimes.com/aponline/2011/08/30/us/politics/AP-US-Cheney.html?scp=2&sq=cheney&st=nyt
精神科医 (宮地 達夫)
2011-08-31 19:24:32
NYTでもDick Cheneyのメモを巡って論争を紹介しています
http://www.nytimes.com/2011/08/26/books/dick-cheney-tells-his-side-in-memoir-in-my-time-review.html?sq=Dick%20Cheney&st=cse&scp=3&pagewanted=all
精神科医 (宮地 達夫)
2011-09-01 13:18:09
WPに、How the U.S. and the world can help Iraqというコメントが載っており、そこにhuman right watchやTransparency Internationalの引用がなされているので、イラクの秘密拷問とか知ることができます
http://www.washingtonpost.com/opinions/how-the-us-and-the-world-can-help-iraq/2011/08/30/gIQAIPZxsJ_story.html?hpid=z3
精神科医 (宮地 達夫)
2011-09-01 14:39:18
Huffington postに、war wireと題する 主にcheneyのメモに基づいた記事が掲載されているのでアドレスをコピーしておきます 一部残酷な写真(拷問)が掲載されています。
http://www.huffingtonpost.com/news/warwire
http://www.huffingtonpost.com/2011/08/31/dick-cheney-book-tour-2011_n_942871.html?ref=warwire#s344478&title=How_Can_You
9/11の時にブッシュが慌てたのは当然。なにしろネオコン信者だったのですから。今日、アメリカでの反イスラム運動の指導者の会見を見ました。彼女は、攻撃された理由について答えイスラムは「悪」で「彼らには言論の自由を与えない」:と言ってました。こういう運動が米国の67%の支持を得ています。そういえば、9/11のあと、市民へのインタビューで「私たちは何も悪いことしてないのに」という言葉が残っています。真珠湾攻撃だけ覚えていて、その後の自国の行動に対する驚くべき無知。
精神科医 (宮地 達夫)
2011-09-05 04:40:27
guardianにCan the United States move beyond the narcissism of 9/11?というコメントが載ってました。
チェイニーの著書にも触れています
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2011/sep/04/narcissim-america-reality-failure/print
精神科医 (宮地 達夫)
2011-09-05 05:25:42
ブッシュのあわてぶりを伝える記事が載ってました
September 11: schoolchildren remember George Bush's reaction

 http://www.guardian.co.uk/world/2011/sep/04/september-11-schoolchildren-george-bush
精神科医 (宮地 達夫)
2011-09-07 06:04:44
9/11が近づいているので、欧米のメディアは、特集を色々組んでいるようです。
9/11 anniversary: how the Guardian reported the attacks

http://www.guardian.co.uk/world/from-the-archive-blog/2011/sep/06/9-11-attacks-guardian-archive
で、だからどうなの、山中さん? (竹内雅文)
2011-09-07 23:12:44
エリートパニックというのは確かに本当にあることだろうとは思うけれども
しかし、こういうことを偉そうに書き続ける朝日の記者っていうのに多くの人が本当にうんざりしているんじゃないだろうか。
他人のことをグダグダ書く前にさっさと自己分析せよ。

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