記者の目:争点隠れた名護市長選=三森輝久(毎日新聞那覇支局)

2006-01-31 08:23:50 | 沖縄
 沖縄県名護市長選は、米軍普天間飛行場(同県宜野湾市)のキャンプ・シュワブ沿岸部(名護市辺野古)への移設(沿岸案)に柔軟姿勢の島袋吉和氏(59)が、移設反対を訴えた2候補を破って初当選した。取材記者としては、市民の選択に異論を挟むつもりは毛頭ないが、私は言いようのないむなしさを感じている。それは、最大の争点であるはずの「普天間移設」が、選挙戦では堂々と語られず、かすんでしまったからだ。

 名護市民が置かれた環境を整理しておきたい。普天間飛行場の移設を争点にした市長選は98年2月、02年2月に続いて3度目。97年12月の住民投票を含めると、市民は国の安全保障にかかわる問題を、8年余りの間に4度も突きつけられたことになる。辺野古に住む男性は「基地に賛成か反対かで身内でけんかした。この9年で、力のある建設業、商業の人たちの『容認』の声が強まり、反対派の人たちは声を上げられなくなっていった」と反基地感情の潜在化を指摘する。

 「3人とも(沿岸案に)反対を訴えているが、誰が本音を語っているのか分からない。もう疲れた」と、再三浮上する移設問題にあきらめに似た声も漏れた。

 辺野古は人口が集中する市街地から山を隔てて約10キロも離れている。多くの市民にとって、基地被害はそれほど身近ではない。市中心部に住む女性(51)は告示日「米兵にも会わないし、辺野古は遠くて、自分の問題として感じられない」と話した。こうした背景のもとで市長選があった。

 99年12月に普天間代替施設の建設を容認した岸本建男市長の後継指名を受けた島袋氏は「沿岸案に反対」の点では他の2候補と一致していた。島袋氏だけが政府との修正協議に応じる意向を示したが、具体的には「地元、岸本市長、県知事と相談する」と繰り返した。一方で、99年の移設受諾と引き換えに始まった北部振興策で市内の雇用が500人増えるなど、振興策の実績を前面に打ち出した。

 私がむなしさを感じたのは、島袋氏が最後まで、市長候補者として自らの主体的な考えを語らなかったからだ。政府の振興策は、普天間の移設受け入れと引き換えなのは誰の目にも明らかなのに「アメ」の部分だけを強調した。この結果、他の2候補との間で「基地」が論戦にならなかった。

 逆にクローズアップされたのは、医師不足で昨年4月から休止したままの名護市の県立北部病院産婦人科の再開だ。「4月には産婦人科の先生を派遣したい。防衛医官の派遣をお願いし、快諾を得ている」。告示前にあった島袋氏後援会女性部総決起大会に招かれた小池百合子・沖縄・北方担当相がそう話すと、約1000人が埋めた会場は沸いた。県立病院の難題を国が解決すると小池氏が宣言したその時、普天間の移設は「最大の争点」から外れ、島袋陣営の作戦が奏功したのかもしれない。

 島袋氏の得票率は52・15%だった。移設に明確に反対した2候補の得票合計との差は、1381票。市民が置かれた環境や選挙戦の実態を考え合わせると、市長選の結果に移設の賛否がどれだけ反映したか、疑問だ。むしろ普天間の移設に対する名護市民の微妙な感情が総体として表れたとみるべきではないか。安倍晋三官房長官は島袋氏の当選に「我々が進めてきた米軍基地再編が評価された」とコメントしたが、的外れだと思う。

 今後、政府は地元振興策を示して説得に乗り出すとみられる。市民は目の前の「アメとムチ」に、再び揺さぶられることになる。

 一方、基地を巡る県民感情はこの10年で大きく変化した。少女暴行事件によって反基地感情が高揚した95年には「沖縄の人が嫌なものは本土の人も嫌なはず」と基地の本土移転を望む声はほとんど聞かれなかった。しかし今は違う。基地が動かない現状と、沖縄からは無関心に見える本土の意識にいらだちが募っている。

 8万5000人が集まった95年の「県民総決起大会」から10年を記念して宜野湾市で昨年開かれた集会で、ある主婦がこう言って拍手を浴びた。「日本人は自分たちの荷物(基地)を取りに来なさい」

 沖縄の基地問題が問うのは、日本という国の公正さだ。在日米軍再編協議で返還の方向性が示された普天間飛行場など4基地が仮に全面返還されたとしても、沖縄にはなお全国の70%もの米軍専用施設が残る。戦後60年にわたって押しつけてきた負担を大胆に軽減するために、長期的な戦略を練るのが政府に課せられた義務だと思う。

毎日新聞 2006年1月31日 0時25分

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