ハリソン君の素晴らしいブログZ

新旧の刑事ドラマを中心に素晴らしい作品をご紹介する、実に素晴らしいブログです。

『新宿警察』#09

2020-05-25 20:20:53 | 刑事ドラマ'70年代









 
前回は比較的軽めのエピソードを取り上げましたが、今回のはちょっとヘビーです。基本的に『新宿警察』はヘビーな番組なんです。

ただし、ヘビーなんだけど湿っぽくならないのも『新宿警察』の特長で、私はそこが気に入りました。特に『刑事コロンボ』の初代声優さんとしても知られる、小池朝雄さんの乾いた個性、抑えた芝居が醸し出すリアリズムが素晴らしい!

まさに和製ピーター・フォークここにありで、小池さんのことをよく知らない方は、コロンボ刑事と置き換えて読んで頂いても全然オッケーかと思います。


☆第9話『新宿はやり唄』

(1975年オンエア/脚本=尾中洋一&真田喜助/監督=齋藤武市)

仙田主任(小池朝雄)が帰宅途中、若い女性(吉野あい)が車に跳ねられる現場に遭遇します。見ず知らずの子供が道路に飛び出し、誰もが咄嗟に動けない中、彼女だけが夢中で助けようとして代わりに跳ねられたのでした。

仙田主任は女性の勇気に感嘆すると同時に、彼女の顔に見覚えがあるせいもあり、病院まで付き添うことにします。

奇跡的に女性は軽傷で済みました。が、医者は彼女の腕に日常的な注射痕があり、麻薬中毒者である可能性が高いなんて言うから主任は戸惑います。しかも、ちょっと眼を離したスキに彼女は病室を脱け出し、姿をくらませてしまった!

仕方なく自宅へ戻る道すがら、無意識に口ずさんだ『東京流れ者』という歌謡曲に、仙田主任はハッとします。そう、彼女はかつてその曲を唄ったプロの歌手=松井信子なのでした。

そして後日、風俗営業法違反で結城刑事(藤 竜也)が署に引っ張って来たストリップダンサーが、松井信子その人だったからまた主任が驚いた!

信子はストリップ劇場に歌手として雇われてたんだけど、恋人でもあるマネージャーの清(林ゆたか)にどうしてもと頼まれ、仮面で顔を隠すことを条件に渋々ストリップの舞台に出てみたら、運悪く結城たちのガサ入れを食らってしまった。

幸か不幸か、刑事たちは彼女が松井信子であることに誰も気づいておらず、仙田主任は自ら取り調べを引き受け、あのコロンボ刑事の声で穏やかに語りかけます。

「あたしゃ音楽のことはよく解らんが……でもありゃあ、いい歌だった」

「……私のは流行らなかったんです。ヒットしたのは他の人が唄ったレコードで」

『東京流れ者』は実際、1965年に竹越ひろ子さん、そして渡哲也さんが競作でレコードを出した曲で、おそらく「松井信子」は竹越さんをイメージして創られたキャラクターなんでしょう。

「しかしあたしゃ、キミの『東京流れ者』の方が好きだなあ。歌は他の人の方が上手いのかも知れないがねえ、けどどっか違うんだなあ、なんだかピンとこない。少なくともキミの歌には、あたしの心を打つ力があった」

「…………」

「いや、お世辞じゃないんだよ? これでも長年、商売柄いろんな下積みの人生を見て来てるからねえ。ホンモノとニセモノは見抜ける」

「…………」

「でも、こんな事してたらもう、あんな歌も唄えなくなるだろう? 唄うから『松井信子』なんだろ、キミは?」

ここで信子が泣き崩れるんだけど、それより先に私が泣き崩れてしまいましたw たぶん、かつてプロのクリエイターになって売れずに終わった自分自身を重ねたからだけど、小池朝雄さんの温かい語り口に因るところも大きいと思います。

これ、たぶん他の刑事が同じこと言っても、私を泣かせるまではいかなかったと思います。たとえ『太陽にほえろ!』の山さん(露口 茂)や長さん(下川辰平)であっても。とうてい聖人君子には見えない小池朝雄さんが言うからこそ泣けるんですw

「もしクスリをやってるんだったら、ありゃやめた方がいい、地獄だ! そっちの方じゃ大目に見られなくなるからね」

そう言って主任は、せっかく部下が苦労して挙げた容疑者を、勝手に釈放しちゃいます。それどころか、テレビ局のプロデューサーをやってる旧友に電話をかけ、信子のメジャー復帰への道を探り始める熱の入れよう。

そして後日、レストランに呼び出された信子は、以前よりも血色が良くなった顔を見せて主任を喜ばせます。あれから彼女は、自分で自分の身体を縛って死に物狂いで禁断症状と闘い、みごとヤク抜きを果たしたのでした。

「あの時、あんな風にわたしの歌、褒めてもらって……とっても嬉しかったし、どんなに感謝しても……でも私、誰からクスリ貰ったかなんて言えないし……刑事さんの力になれないから……ごめんなさい」

「いや、今日はクスリのことであなたを呼んだんじゃないんだ」

主任は、人気歌番組のディレクターが信子をオーディションしてもいいと言ってくれた事実を、彼女に伝えます。

「いや、あたしのような門外漢が何も出来やしないし、あなたのマネージャーだってそんな事くらい一生懸命働きかけているんだろうけども……」

実はその頃、マネージャーの清は新人の女性歌手と密かにチョメチョメしてるんだけど、信子はその事実を知りません。

「あなたの『東京流れ者』や、新しい歌がまたテレビで観られたら、そりゃあたしも嬉しいからね」

ここで信子がまた涙を流すんだけど、それより先に私の涙腺が爆発してましたw なんでこんなに泣けるんだろう? ホントにたまりません。

「明日……明日またここで会って下さい。私、オーディション受けてみます。頑張ります!」

再起を誓った信子は、その足でマネージャーの清に会いに行きます。部屋の奥に新人歌手の女が隠れてることも知らずに……

「出直す? 歌でか? ダメだね」

「ううん、ひょっとしたら夢が叶うわ。いえ、叶えてみせる! 今まで私たちをバカにしてた人を見返してやりましょうよ、二人の力で。ね?」

「……だったらさあ、1つ頼みがあるんだけどな」

ベッドで信子とチョメチョメしながら、さて清は何を頼んだのか?

一方、仙田主任は根来刑事(北大路欣也)の妹=戸志子(多岐川裕美)に頼んで、信子がオーディション用に着る服を一緒に選んでもらいます。

「でも、おかしいわ。仙田さんのお嬢さん、高校生じゃない。25歳の女の子って、だあれ?」

「いや、それはその……」

主任がポッと顔を紅くしちゃう、このほのぼのとした展開、ヤバいです。悲劇の予感がします。

そう、1万円をはたいて買った洋服の包みを抱え、ストリップ劇場へ信子を迎えに行った主任が目撃したのは、ヌードステージの途中で仮面を剥がされ、見世物にされた彼女の惨めな姿でした。

「覚えてますか? この人は昔『東京流れ者』という曲でレコードを出した、松井信子です。歌手からヌードへ華麗なる転身です!」

司会者はそう紹介するんだけど、激しく動揺した様子の信子は、全裸のままステージの袖へと逃げ去ります。彼女はどうやら、清に「もう1回だけステージで脱いで欲しい」と頼まれ、再デビューの資金稼ぎのために引き受けたんだけど、顔を晒されるとは聞いてなかった。

すぐに清の部屋へ駆け込んだ信子は、どう見ても彼とチョメチョメした直後の、若い新人歌手と鉢合わせします。

「あんたが松井信子さん? どうもありがと。あなたが出して下さるんですってね、私のレッスン料」

信子がステージで顔を晒せば、普段の10倍のギャラが出る予定だった。それを清は…… そもそも信子に麻薬を教えたのも清。全てはこの最低ちんぽこゲス野郎が元凶なんです。いや、彼もかつては本気で信子を愛してたのかも知れないけど……

「私、聞いちゃったわ。あなたのあの時の、あの声。元歌手にしては、随分とお粗末ね」

あの声ってのは言うまでもなく、ベッドにおける信子の喘ぎ声。もう、充分でしょう。信子に果物ナイフを握らせるための条件は、全て出揃いました。

一足遅く仙田主任が駆けつけた時、果たして3人がどうなってたか、もはや書くまでもありません。

そこで呆然と立ち尽くす主任の耳に、鳴りっぱなしのラジオから「競作であまり売れなかった方の『東京流れ者』」が聴こえて来るのでした。

数日後、仙田主任は根来刑事から食事に誘われます。彼の妹=戸志子が、なにも知らずに「おいらくの恋のラブストーリーが聞きたい」とせがんだからです。

「なまじな仏心なんか持っちゃいかん。あたしが殺したようなもんだ。可哀想なことした……」

そうして全てのいきさつを聞いた戸志子が、ここで湿っぽくなるのかと思いきや、あっけらかんと言うんですよね。

「ねえ仙田さん。デートして下さいません?」

「ええ?」

そんなワケで、食事の会計を全て根来に押しつけた戸志子と主任が、楽しそうに腕を組んで夜の新宿を歩く、なんともシュールなラストカット。

この乾きっぷりがたまりませんw これぞハードボイルド!……なのかな?w そもそもハードボイルドという言葉の意味を、私はよく知らないまま使ってますm(__)m

普通なら、視聴者を泣かせるために登場人物はもっとメソメソするだろうし、いかにも悲しいBGMで盛り上げようとするもんだけど、この番組は一切しない。そこがカッコいいし、かえって余韻が残って胸に刻まれます。いやホント、私は痺れました。最高!

自分は決して悲劇が見たくないワケじゃない。ただ、やたらジメジメ・メソメソする下世話な演出が嫌いなだけなんです。それを再認識させてくれました。こんなに素直に泣けたのは久しぶりです。

それに加えて、小池朝雄さんの名演ですよ。『刑事コロンボ』をわざわざ字幕(つまり原語音声)で観たい、なんて言う人はいないですよね? 試しに観てみたとしても、ほぼ100%の人が吹替え音声にすぐ戻しちゃう事でしょう。

その理由を「吹替えの方が解り易いから」なんて言う人もいない筈です。ピーター・フォークご本人よりも、小池朝雄さんの声によるコロンボの方が、明らかに魅力的だからです。ハマってるハマってないの問題じゃない。

つまりアメリカ本国で観る『刑事コロンボ』よりも、日本のテレビやDVDで観る『刑事コロンボ』の方が面白い!

これは凄いことです。ジャッキー・チェン=石丸博也さんやクリント・イーストウッド=山田康雄さんも凄いけど、小池朝雄さんには及ばないと私は思います。本当に素晴らしい!

信子に扮した吉野あいさんは'70年代に活躍された日活ロマンポルノの女優さんだけど、20本以上出演しながら主演作に恵まれず、ファンクラブ「吉野あいを主演させる会」が結成されたほど、不思議な魅力で人気のある方でした。

今回はなにしろストリップ劇場が舞台ですから、吉野さんはもちろん、同じ日活ポルノの丘奈保美さん等もヌード、濡れ場、天狗ショーまで披露されており、当時としても放送コードぎりぎりの内容だったそうです。素晴らしい!w
 

コメント
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