「終わりのむこうへ:廃墟の美術史」 渋谷区立松濤美術館

渋谷区立松濤美術館
「終わりのむこうへ:廃墟の美術史」 
2018/12/8~2019/1/31



渋谷区立松濤美術館で開催中の「終わりのむこうへ:廃墟の美術史」を見てきました。

古来より廃墟を風景画に表していた西洋では、18世紀から19世紀になると、いわゆる廃墟趣味の流行によって、絵画の主役としての地位を確立しました。

その廃墟に関した作品を紹介するのが、「終わりのむこうへ:廃墟の美術史」で、単に西洋の絵画に留まらず、近代以降に伝播し、現代にまで受け継がれた日本の画家の作品も網羅していました。


シャルル・コルネリス・ド・ホーホ「廃墟の風景と人物」 17世紀 東京富士美術館

過去への廃墟の旅は17世紀にまで辿っていました。冒頭に展示されていたのは、シャルル・コルネリス・ド・ホーホの「廃墟の風景と人物」で、中央に崩れ落ちた建物、すなわち廃墟を据え、点景のような人物を表した作品でした。また、ユベール・ロベールの「ローマのパンテオンのある建築的奇想画」は、18世紀中盤に古代ローマの建築を、ペンや水彩で描いたもので、古代の景観と実景を重ねて示しました。このように18世紀には、ユベール・ロベールをはじめ、ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージなど、廃墟の主題を生涯にわたって追い求める画家が活動していました。


ピラネージの版画を元にしたバナー。この場所のみ撮影が可能でした。

そのピラネージの版画も目立っていました。中でも「古代アッピア街道とアルデアティーナ街道の交差点(ローマの古代遺跡より)」は大変な力作で、多くの彫像などに象られた街道の交差点を、極めて緻密な銅版で表現していました。さらに、トマス・ガーディンの「ウォーフ川沿いのボルトン修道院」や、ヨハネス・ライシャー、アントニー・ワーテルローの「古城」も充実していて、西洋にとって廃墟がいかに重要なモチーフであったのかを知ることも出来ました。特に18世紀後半以降のイギリスでは、グランド・ツアーが流行し、多くの貴族の子弟が、フランスやイタリアの古代の遺跡を巡りつつ、廃墟を愛でることを趣味にしていたそうです。

一方、日本では、意外なことに近代まで、廃墟を描く習慣を持ち得ていませんでした。結果的に日本人が廃墟を絵画のモチーフとしたのは、江戸末期の頃で、西洋から輸入された銅版画の中の古代遺跡を、浮世絵や同じく銅版画に援用して描きました。

そこで面白いのが、歌川豊春の「浮繪アルマニヤ珎藥物集之圖」などで、古代のローマの景観とヨーロッパの近代人、それに江戸のモチーフをあわせて描きました。いわゆる廃墟というよりも、もはや時空を超えた奇想的風景と呼んでも良いかもしれません。


藤島武二「ポンペイの廃墟」 1908年頃 茨城県近代美術館

明治に入り、海外へ出た画家たちは、古城や遺跡、それに廃墟などを前に、洋画や日本画を制作しました。一例として、藤島武二の「ポンペイの廃墟」や、澤部清五郎の「群羊図(伊太利アッシジ附近)」などが挙げられていました。


ポール・デルヴォー「海は近い La Mer est proche」 1965年 姫路市立美術館

20世紀に入ると、シュールレアリスムの画家たちは、廃墟と場所を直接結びつけず、どことも限定し難い、非実在的な空間を表すようになりました。その最たる例がポール・デルヴォーで、会場でも「海は近い」や「水のニンフ」の2点の油彩をはじめ、「円天井」や「女帝」など、4点のリトグラフが展示されていました。また日本のシュルレアリストも、廃墟を舞台に、人間の深層心理などを作品に表現しました。


元田久治「Indication:Shibuya Center Town」 2005年

ラストは、大岩オスカールや元田久治、それに野又譲らの現代の画家でした。うち野又譲の「交差点で待つ間に ‐Listen to the Tales‐」や、元田久治の「Indication: Shibuya Center Town」などは、美術館の位置する渋谷を舞台としていて、崩れ落ちたビルなどが立ち並ぶ、まさに廃墟化した街を、俯瞰した構図で表現していました。それらは実にリアルであり、否応無しに、度重なる近年の震災の光景と重るように思えてなりませんでした。


出展は70件で、ほぼ国内の美術館、および個人のコレクションでした。派手さこそないかもしれませんが、廃墟にテーマを明確に絞った構成は、良く出来ていたのではないでしょうか。解説も充実していました。

会期も終盤を迎えましたが、今週末、1月19日は出展作家の野又譲によるアーティストトークが開催されるほか、1月26日には「渋谷と廃墟」と題し、担当学芸員による特別講座も予定されています。あわせて出向くのも良いかもしれません。



1月31日まで開催されています。遅れましたが、おすすめします。

「終わりのむこうへ:廃墟の美術史」 渋谷区立松濤美術館@shoto_museum
会期:2018年12月8日(土)~2019年1月31日(木)
休館:12月10日(月)、17日(月)、25日(火)、12月29日(土)~1月3日(木)、1月7日(月)、15日(火)、21日(月)、28日(月)。
時間:10:00~18:00 
 *毎週金曜日は19時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般500(400)円、大学生400(320)円、高校生・65歳以上250(200)円、小中学生100(80)円。
 *( )内は10名以上の団体、及び渋谷区民の入館料。
 *渋谷区民は毎週金曜日が無料。
 *土・日曜、休日は小中学生が無料。
場所:渋谷区松濤2-14-14
交通:京王井の頭線神泉駅から徒歩5分。JR線・東急東横線・東京メトロ銀座線、半蔵門線渋谷駅より徒歩15分。
コメント ( 1 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
ポール・デルヴォー (pinewood)
2019-01-23 12:59:31
ポール・デルヴォーの静謐なギリシャ幻影建築の中に佇む女像,今の高層建築がもしかして現実では無くて幻影かもと想わせる様な作品,国会議事堂等がアンコールワット遺跡に見えて来る絵画も。
 
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