「単色のリズム 韓国の抽象」 東京オペラシティアートギャラリー

東京オペラシティアートギャラリー
「単色のリズム 韓国の抽象」 
10/14~12/24



東京オペラシティアートギャラリーで開催中の「単色のリズム 韓国の抽象」を見てきました。

1970年代の韓国に生まれた「単色画」は、「ミニマル的な美しさ」(解説より)を特徴とし、同国のみならず、日本でも紹介されてきました。近年では、ヴェネチアでも大規模な展覧会が開催されたそうです。

単色とは、一色だけで混じりけがないことを意味します。一体、どのような絵画が展示されているのでしょうか。


朴栖甫「描法 No.27-77」 1977年 福岡アジア美術館

例えば朴栖甫(パク・ソボ)の「描法 No.27-77」です。写真では分かりにくいかもしれませんが、一面のキャンバスの上に、細い線がひたすら上下に反復しています。実際は、一度、白い油絵具でキャンバスを塗り込めたのち、乾く前に鉛筆の線を走らせているそうです。つまり、絵具を鉛筆で削ぎ落としています。


朴栖甫「描法 No.871230」(部分) 1987年 広島市現代美術館

1931年に生まれた朴は、大戦後に美術教育を受けたのち、アンフォルメルの影響を受けつつ、韓国の前衛芸術家として活動しました。80年代以降はキャンバスに韓紙や絵具を重ね、指で凹凸をつけたシリーズを制作します。その一つが「描法 No.871230」で、確かに画面上で指跡のような筆触が、絵具を上下左右、時に斜めになぞっていました。単色画の中心的人物としても位置付けられているそうです。


右:権寧禹「無題」 1982年 個人蔵、シアトル

小さな丸い突起物が連なっているのが、権寧禹(クォン・ヨンウ)の「無題」でした。素材は韓紙で、何も描くことなく、小さな穴のみを無数に象っています。さらに同じく別の「無題」では、韓紙に縦の切り込みを入れ、上部を引き裂いていました。ここでも描く行為は一切行っていません。


権寧禹「無題」 1980年

キャリア初期より実験的な作品で知られた権は、元々は抽象度の高い水墨画で知られていたものの、のちに紙に直接対峙する手法で制作を始めました。日本にも発表の場を広げて活動していました。


丁昌燮「楮(Tak) No.87015」 1987年 広島市現代美術館

一面に、薄い黄色、ないし黄土色とも取れる色面が広がります。丁昌燮(チョン・チャンソプ)は、「楮 No.87015」において、韓紙を水につけて溶かし、それをキャンバスの上に定着させて、作品に仕上げました。いわば、偶然性も、作品の一要素なのかもしれません。丁は、自作のノートに、「描かずとも描かれ、作らずとも作られるもの」と記しています。


丁昌燮「楮(Tak) No.87015」(部分) 1987年 広島市現代美術館

目を凝らすと、確かに紙が繊維状に分解し、キャンバス上に接着していることが分かります。一部は盛り上がり、また別の部分は薄く伸ばされ、さらに溶けてなくなっていました。丁は元々、抽象画を手がけていましたが、70年代に入って、こうした韓紙をキャンバスに貼り付ける作品を作るようになりました。


徐承元「同時性 99-828」 1999年 三重県立美術館

まるで画面から淡い光が滲み出しているように見えるのが、徐承元(ソ・スンウォン)の「同時性 99-828」でした。形態は不明瞭で、あくまでも色のみが、何らの輪郭線を伴わず、画面の中で広がっています。当初、理知的な抽象画を描いていた徐は、90年代後半に、こうした色面の重なり合う、「祝典的」(解説より)な絵画を生み出しました。

韓国内のみならず、海外で活動した画家も少なからず存在します。その1人が鄭相和(チョン・サンファ)です。韓国で大学を卒業後、1967年にパリに渡り、2年後には神戸に在住、さらに再びパリへ向かいます。結果的に、90年に韓国へ戻るまで、長きに渡って海外で生活しました。


左:鄭相和「無題 91-3-9」 1991年 東京オペラシティアートギャラリー
右:鄭相和「無題 91-1-12」 1990年 東京オペラシティアートギャラリー


白と黒が対比的なのが、「無題 90-1-12」と「無題 91-3-9」でした。いずれもキャンバスとアクリル絵具の作品で、一見するところ、特に凝った手法には思えません。


右:鄭相和「無題 91-1-12」(拡大) 1990年 東京オペラシティアートギャラリー

近づくと景色が変わりました。というのも、すべてが小さな絵具の升目で埋め尽くされているからです。しかもこれは単に塗り上げただけでなく、複雑で反復的なプロセスによって生み出されているそうです。どことない重厚感も、そうした手法に由来するのかもしれません。


郭仁植「Work 86-KK」 1986年 東京オペラシティアートギャラリー

1937年に来日し、亡くなる1988年まで日本で生活した郭仁植(カク・インシク)も、韓国外で活動した画家でした。たくさんの墨の点が広がるのが、「Work 86-KK」で、上部から下部にかけてまだらとなり、まるで河原の石ころを表しているようにも見えなくはありません。一つ描いては乾かし、また別の点を描いては、乾かしているそうです。それを何度も繰り返しています。先の鄭の作品しかり、反復性も単色画の特徴と言えそうです。

崔恩景(チェ・ウンギョン)も日本で活動を続ける画家です。ソウルで美術教育を受けたのち、東京芸大に留学、その後も日本を拠点にしています。VOCA展にも出展しました。


崔恩景「Beyond the Colours #14」 1992年 東京オペラシティアートギャラリー

90年代より着手した 「Beyond the Colours」シリーズは、色彩が混じり合い、時に空や水などを思わせる空間が広がっています。たらし込みや滲みなどの手法を用いて表現していました。


尹亨根「Umber-Blue 337-75 #203」 1975年 福岡アジア美術館 ほか

尹亨根(ユン・ヒョングン)も、日本でよく紹介されてきた画家の1人でした。「Umber-Blue」は73年に初めて発表された作品で、太いストロークが、ほかの面とせめぎあいながら、麻布に染み込んでいます。しばらく見ていると、ロスコの絵画を思い起こしました。精神性云々も、単色画で語られるキーワードの1つです。


李禹煥「線より #80066」 1980年 広島市現代美術館 ほか

やはり目を引くのが、もの派の中心的人物として知られる李禹煥(リ・ウファン)でした。70年代後半の「線より」や80年代後半の「風と共に」などが中心で、作品の点数こそ多くないものの、李の画風の変遷も追うことが出来ました。


「単色のリズム 韓国の抽象」展示風景

出展作家は全19名。作品は85点に及びます。オペラシティアートギャラリーだけでなく、三重県立美術館や福岡アジア美術館、それに広島市現代美術館のコレクションを交え、韓国の戦後3世代に渡る現代抽象表現を俯瞰していました。



総じて作品の繊細な質感が印象に残りました。引きで眺めつつ、近寄って目を凝らしながら、作品の全体と細部の双方を味わうのが良さそうです。


李禹煥「線より」 1976年 東京オペラシティアートギャラリー

毎週日曜日のみ写真の撮影が可能です。12月24日まで開催されています。

「単色のリズム 韓国の抽象」 東京オペラシティアートギャラリー
会期:10月14日(土)~12月24日(日)
休館:月曜日。
時間:11:00~19:00 
 *金・土は20時まで開館。
 *入場は閉館30分前まで。
料金:一般1200(1000)円、大・高生800(600)円、中学生以下無料。
 *( )内は15名以上の団体料金。
住所:新宿区西新宿3-20-2
交通:京王新線初台駅東口直結徒歩5分。
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
絵肌 (pinewood)
2017-11-18 09:34:47
洗練された絵肌のデリケートなタッチを味わえる見事な展覧会でした。日本留学後に更に海外で絵の勉強をされアイデンティティを探究した作家の作品。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2017-12-31 15:05:30
@pinewoodさん

>洗練された絵肌のデリケートなタッチを味わえる見事な展覧会

同感です。図版では全然わかりません。
近づいてみて「おお!」と言ったところでした。

紙に対する鋭敏な感覚は東アジアに共通するのかもしれませんね。
 
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