「フランス宮廷の磁器セーヴル、創造の300年」 サントリー美術館

サントリー美術館
「フランス宮廷の磁器 セーヴル、創造の300年」
2017/11/22~2018/1/28



サントリー美術館で開催中の「フランス宮廷の磁器 セーヴル、創造の300年」を見てきました。

1740年、軟質磁器の制作を開始したパリのヴァンセンヌ製作所は、ルイ15世の庇護を受けると、セーヴル王立磁器製作所として発展しました。以来、300年、ヨーロッパを代表する磁器として愛され、今もなお様々な製品が作られて来ました。

そのセーヴル焼が、フランスからまとめてやって来ました。出展は約130点超で、最初期のロココからアール・ヌーヴォー、アール・デコ、それに現代美術家の磁器までを網羅します。ほぼ時間軸を追いつつも、幅広い観点からセーヴルの魅力を紹介していました。

冒頭の「乳房のボウル」が絶品でした。ルイ16世がマリー・アントワネットのために作らせた磁器で、山羊の頭を象った三脚の上に、乳白色に染まるボウルが載っています。ボウルは薄手で、山羊の頭部の意匠も実に繊細です。優雅な雰囲気を醸し出していました。

セーブルはマイセンを手本としていましたが、1751年にポンパドゥール夫人が興味を示すようになると、マイセンの模倣から離れ、夫人好みの様式を生み出すようになりました。またそもそもは中国の磁器に由来するため、当初はシノワズリ風の器も作られました。実際にも「テリーヌと受け皿 ザクセン」はマイセン風であり、「カップとソーサー」の鱗の模様には中国趣味を伺うことが出来ました。


「ルイ15世のブルー・セレストのセルヴィス」は、ルイ15世のためのセットのうちの1つで、1753年から55年にかけ、計1749点もの作品が作られました。また「ロシア皇帝エカテリーナ2世のカメオとイニシャルのセルヴィス」では、エカテリーナ2世を表すためのイニシャルも刻まれています。力を誇示する側面もあったのかもしれません。

また子どもや庭園のモチーフが好まれ、かの画家ブーシェを含む、宮廷芸術家が意匠を凝らした磁器が生み出されました。さらに迫真的な絵画表現を作るため、新色の絵具の開発も同時に行われました。

1800年から約50年間あまり所長を務めた、アレクサンドル・ブロンニャールは、セーヴル磁器を黄金期へと導きました。新たな知見に基づいて装飾を一新した上、世界初の陶磁とガラスの専門美術館を開設するなど、精力的に活動しました。また製造技術の研究も進め、ステンドグラスや七宝の分野にも進出しました。さらに古典回帰の機運があったのかもしれません。ラファエロのフレスコ画をはじめ、ポンペイやエトルリアの意匠を取り入れた作品も目立っていました。

一部の展示室の撮影が出来ました。


アガトン・レオナール「ダンサー No.5(テーブルセンターピース『スカーフダンス』より」 1899〜1900年

セーヴルは、1900年のパリ万国博覧会で大いに成功を収めます。15対のダンサーで構成された「テーブルセンターピース『スカーフダンス』」も、同万博で発表された群像で、ギリシャ的な古典美と、当時のパリで評判を起こしたロイ・フラーの革新的振付けを融合させて表現しました。


ジュール=オーギュスト・アベール=ディス「皿 輪花形のセルヴィスより」 1888年

この頃に隆盛したジャポニスムもセーヴルへ影響を与えました。一例が「皿 『輪花形のセルヴィス』より」で、草花が入り混じり、花鳥画を思わせるモチーフが緻密に広がっています。余白の用い方などに、日本美術の要素が見られるそうです。


アンドレ・ビュリー(器形)、エリック・バッグ(装飾)「茶入れ『ビュリー』」 1923年
 
「茶入れ『ビュリー』」も日本的と呼べるかもしれません。室内装飾家のアンドレ・ビュリーの作品で、1925年の装飾美術を扱う国際博覧会にて、「日本の風景」というプロジェクトを作り上げました。その成果の1つが茶入れで、実際に枝垂れ柳などのモチーフに、浮世絵の作風を見ることが出来ました。


沼田一雅「孔雀」 1921年 ほか

日本の彫刻家も登場します。それが福井県出身の沼田一雅で、1904年にセーヴルに招聘され、計2度、同地で陶磁器彫刻の制作を学びました。彼の提案した像の原型は、今も大切に保管されているそうです。沼田はセーヴルが取り入れた、最初の外国人協力芸術家でもありました。


ジャック・エミール=リュールマン(器形)、シュザンヌ・ラリック=アヴィラン(装飾)「リューマンの花瓶 NO.2」 1926〜1927年

1920年代は器形がシンプルと化し、幾何学的な装飾を好む、アール・デコの時代でもありました。それを反映したのが、「リュールマンの花瓶」で、下部の山型の造形などに、幾何学的なデザインを見ることが出来ます。ラリックの娘であるシュザンヌ・ラリック=アヴィランが装飾を手がけました。


アンリ・ラパン(器形)、ジャン=バティスト・ゴーヴネ(装飾)「ラパンのブランケット灯 No.6」 1921年

ほぼ同時代に芸術顧問を務めたラパンの磁器も魅惑的でした。「ラパンのブラケット灯」は、照明の器で、まさしく洗練された造形美を見せています。ラパンはおおよそ5年間で、約30点もの照明の器形を提案しました。

ラストは現代のセーヴルです。1964年に所長に着任したセルジュ・ゴーティエは、一線で活動する芸術家に磁器のデザインを依頼し、セーヴルに新たな造形を取り込もうとしました。そうしたコラボレーションの取り組みは今日も続いています。

これがかなり実力派揃いです。アレクサンダー・カルダー、ジャン・アルプ、それにピエール・スーラージュらもセーヴル磁器に取り組んでいます。アルプの曲線美はやはり彫刻作品を連想させ、スーラージュの細い線は、絵画の作風を思わせるかもしれません。


草間彌生「ゴールデン・スピリット」 2005年

草間彌生も参加しています。それが「ゴールデン・スピリット」で、ギリシャ神話に登場する単眼の巨人をモデルに、小動物の像を作り上げていました。シリアルナンバー付きで18点ほど発表されたそうです。

いずれも昨年の新作である、現代アーティストのニコラ・ビュフの「プレルの壺」や、デザインオフィスのnendoによる「花器」も目を引きました。ほかジム・ダインの独特な造形による「テーブルセンターピース(静物)」なども加わります。何やら現代美術展のようでもありました。


アンリ・ラパン(器形)、ジャン・ボーモン(装飾)「ラパンの壺 No.12」 1925年

ごく一部を除き、国立セーヴル陶磁美術館の所蔵品です。ちなみに同館のコレクションが日本でまとめて紹介されるのは、20年ぶりのことだそうです。貴重な機会と言えそうです。

[フランス宮廷の磁器 セーヴル、創造の300年 巡回スケジュール]
大阪市立東洋陶磁美術館:2018年4月7日〜7月16日
山口県立萩美術館・浦上記念館:2018年7月24日〜9月24日
静岡市美術館:2018年10月6日〜12月16日


「セーヴル、創造の300年」会場風景 *撮影可コーナー

立体展示に定評のあるサントリー美術館のことです。いつもながらに効果的な照明で、作品も美しく映えていました。

会期中の展示替えはありません。2018年1月28日まで開催されています。

「フランス宮廷の磁器 セーヴル、創造の300年」 サントリー美術館@sun_SMA
会期:2017年11月22日(水)~2018年1月28日(日)
休館:火曜日。
 *1月2日、9日、16日、23日は18時まで開館。
 *12月30日(土)~1月1日(月・祝)は年末年始のため休館。
時間:10:00~18:00
 *11月22日(水)、1月7日(日)は20時まで開館。
 *12月29日(金)は18時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1300円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
 *アクセスクーポン、及び携帯割(携帯/スマホサイトの割引券提示)あり。
場所:港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガレリア3階
交通:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分。
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