酒井抱一「青楓朱楓図屏風」(根津美術館KORIN展)

100年ぶりの「八橋図屏風」と「燕子花図屏風」の邂逅でも話題の根津美術館のKORIN展。


右:「燕子花図屏風」尾形光琳 江戸時代 18世紀 根津美術館
左:「八橋図屏風」尾形光琳 江戸時代 18世紀 メトロポリタン美術館


主役はもちろん両作の作者である尾形光琳に他なりませんが、展覧会の後半は光琳顕彰につとめた酒井抱一にスポットが当たっています。

その一つは光琳百回忌の際、光琳画の調査を行い、1815年に出版した「光琳百図」ですが、あとの一つは展示のラストに登場する「青楓朱楓図屏風」です。


「光琳百図 前編・後編」酒井抱一 江戸時代 1815年/1826年 東京藝術大学大学図書館

六曲一双の大画面には眩いばかりの金箔がはられ、そこへ色味の強い水流と青と朱の二本の楓、またすみれやリンドウなどの下草が描かれています。


「青楓朱楓図屏風」酒井抱一 江戸時代 1818年 個人蔵

この画も当然ながら「光琳百図」に引用されているということで、光琳画を参照していることは間違いありませんが、残念ながらそちらは現在、失われてしまいました。



それにしてもこの楓の幹のうねりある表現、また半ばゴツゴツとした葉の描写など、どこかデザイン的とも言える様子は、例えば「夏秋草図屏風」に代表される繊細でかつ優美な抱一の画風とはかなり離れているのではないでしょうか。


「青楓朱楓図屏風」(右隻)酒井抱一 江戸時代 1818年 個人蔵

この作品の来歴はあまり知られておらず、実のところ注文主すら分かっていません。また抱一研究の第一人者である玉蟲先生によれば、本作は其一の「夏渓流図屏風」と「金地の扱い・色彩感覚・隈笹の様態」(*1)などと似ている点から、其一が「初工程の下書き制作に留まらず、各モティーフの着彩までも担当」(*2)のではないかと指摘されています。

実際のところ光琳と抱一の絵画表現上における共通点はあまりなく、光琳のデザイン感覚はむしろ其一が継承したのではないかと思うこともしばしばですが、本作も其一の存在を鑑みると、あながち見当違いというわけではないのかもしれません。

根津美術館の「KORIN展」もいよいよ会期末、20日までと迫りました。連日大盛況とのことですが、燕子花と八橋の華々しき中に埋もれんとばかりに主張する「青楓朱楓図屏風」もお見逃しなきようご注意下さい。

「もっと知りたい酒井抱一/玉蟲敏子/東京美術」

「青楓朱楓図屏風」はKORIN展会期中、根津美術館で5月20日まで展示されています。

*関連エントリ
「KORIN展」 根津美術館(プレス内覧の様子をまとめてあります。)
根津美術館で「KORIN展」を開催中!(シンポジウムにおいて根津美術館学芸主任の野口氏による燕子花と八橋図の相違点について簡単にまとめてあります。)

*1「都市のなかの絵」玉蟲敏子著(ブリュッケ) P.250より引用
*2「都市のなかの絵」玉蟲敏子著(ブリュッケ) P.273より引用



「特別展 KORIN展 国宝『燕子花図』とメトロポリタン美術館所蔵『八橋図』」 根津美術館@nezumuseum
会期:4月21日(土)~5月20日(日)
休館:月曜日。但し4月30日(月・祝)は開館。
時間:10:00~17:00。但し4/28~5/20は時間延長。18時まで。
住所:港区南青山6-5-1
交通:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A5出口より徒歩8分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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