「9日目」 ドイツ映画祭2005 6/12

有楽町朝日ホール(千代田区有楽町)
「9日目」
(2004年/ドイツ/フォルカー・シュレンドルフ監督)
6/12(ドイツ映画祭2005

舞台はナチス占領下のルクセンブルク。有力な司祭であるアンリ・クライマーは、人種法批判など反ナチス的な行動をとったことにより、ミュンヘン郊外のダッハウの強制収容所へ入れられていました。欧州各地から連行された聖職者と共に暮らす過酷な毎日…。あまりにも非人間的な施設は、収容者を極限の状況へと誘います。当然ながら食料も満足に与えられません。時には無惨な死亡者をも生み出すのです。暗がりの中での無慈悲な収容所生活は、映画の冒頭から迫力のある描写で圧倒してきました。

突然、アンリは九日間の休暇を言い渡されます。彼は、愛する妹マリアや兄たちの住む家へ一時帰郷しますが、収容所の「仲間たち」のことを考えると、束の間の喜びすら味わおうとしません。そして、アンリの休暇命令には、十分過ぎる理由がありました。それは、ナチスの宗教政策に同意を求められながら拒み続けているルクセンブルクの司教を説得し、「転向」させる任務を言い渡されたのです。期限は九日間でした。勿論、達成出来ない場合は「相応の措置」が与えられます。ここから信仰と良心に苛まれながら仲間の処遇を心配するアンリと、彼に任務を果たさせるべく執拗に迫るナチス親衛隊のゲープハルトの戦いが始まります。

ゲープハルトは「第三帝国」の一歯車となってアンリと対峙します。アンリは司祭に「転向」を促すことは、キリストを裏切ったイスカリオテのユダになることだとして拒絶しますが、ゲープハルトにとってはユダさえも「反ユダヤ的行動」を示した人物として肯定され、むしろアンリにユダとなることを積極的に勧めます。また、ナチスとカトリック(法王庁を中心として。)の微妙な関係もアンリを悩まし、カトリック宗教界を取り巻く厳しい状況も、彼をある意味で「懐疑的」にさせます。しかしながら、彼の心の拠り所は、収容所の仲間たちと最愛の家族、それに反ナチス的信条でした。結論は明らかです。ゲープハルトの要求を厳しく拒絶し、「九日目」に再び収容所へと収監されていきます。

抑圧された信仰の元での絶望的な生活と、不気味な快活さすら見せるナチス側の動きの対立軸が、極めて生々しく描かれています。アンリが時折思い出す収容所生活の回想シーンが、彼を取り巻く状況の苦しさを巧みに表現していました。この作品は実話を元にして構成されたのだそうです。シュニトケの心を掻き乱すようなメロディーも映画の完成度を高めます。アンリやゲープハルトを始めとした人物の心理描写も、深く掘り下げられていました。

見る者一人一人に、決して単純化することを許さない「究極の選択」を迫まる作品です。今後、日本で公開される予定はないそうですが、深く考えさせられた映画でした。
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