都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「VOCA展 2007」 上野の森美術館
上野の森美術館(台東区上野公園1-2)
「VOCA展 2007 - 現代美術の展望 - 」
3/15-30
今年で14回目を迎えるという「VOCA展」です。昨年に引き続いて見てきました。
まずはどうしても既知の作家に目が向いてしまいますが、やはり町田久美のドローイング「成分」は魅力的かと思います。それこそ「書」の味わいすら思わせるしなやかな黒線が白の支持体を緩やかに進み、手にスプーンが突き刺さるという不気味な光景を肉感的に表現しています。もちろん例の如く、線に沿って描かれた仄かな影によって生まれる立体感も絶妙です。スプーンの上にのっているのはご飯粒でしょうか。そのこんもりと積まれた白い絵具の質感にも惹かれました。
山口晃の「木のもゆる」には驚かされます。一目見ただけでは、彼の作品だと分からないかもしれません。波打つ大地に梅林がうねるように続き、空には何やらピンクとも紫とも言えるような色が広がっています。梅の花はまるで人魂です。それこそ陽炎のようにゆらゆらと揺らめいて、寒々とした薄気味の悪い光景を生み出しています。そして近づいて見ると、その大地や木々からメタリックなイメージが浮き上がってきました。木の表面の奥などに、機械のようなモチーフが見え隠れしているのです。そう言えば、この梅はまるで武者、枝はそれこそ刀かもしれません。武将が刀を振り回し、合戦しているようなイメージさえわいてきました。もう少し精緻な描写があればとも思いましたが、二つのイメージを巧妙に潜ませたような構図感には脱帽です。
いくつかの受賞作品の中では、田口和奈の「その悲しい知らせ」が印象に残りました。これは、様々な写真より作った顔のモンタージュを絵画に起こして、それをさらに写真で提示するという凝った手法をとった作品ですが、その結果生まれた重々しくまた鮮やかな質感が優れています。タイトルの「悲しい知らせ」とはやや似つかない表情をしていますが、くっきりと浮き上がるその顔には吸い込まれそうになりました。
その他では、寂寥感の漂うモチーフと冴えたマチエールが興味深い池田光弘の「untitled」や、老人たちが何やら作業する様子を、まるで版画のように描いた油彩「SLOANE RANGER」が心にとまりました。また今年は全体的に、ある意味で「真っ当」な具象絵画が目立っていたと思います。全体としてのレベル云々を言う立場にはありませんが、奇を衒ったような作品はあまり見られません。
気軽に現代美術の「今」を楽しむことが出来る展覧会です。今週の金曜日まで開催されています。(3/17鑑賞)
「VOCA展 2007 - 現代美術の展望 - 」
3/15-30
今年で14回目を迎えるという「VOCA展」です。昨年に引き続いて見てきました。
まずはどうしても既知の作家に目が向いてしまいますが、やはり町田久美のドローイング「成分」は魅力的かと思います。それこそ「書」の味わいすら思わせるしなやかな黒線が白の支持体を緩やかに進み、手にスプーンが突き刺さるという不気味な光景を肉感的に表現しています。もちろん例の如く、線に沿って描かれた仄かな影によって生まれる立体感も絶妙です。スプーンの上にのっているのはご飯粒でしょうか。そのこんもりと積まれた白い絵具の質感にも惹かれました。
山口晃の「木のもゆる」には驚かされます。一目見ただけでは、彼の作品だと分からないかもしれません。波打つ大地に梅林がうねるように続き、空には何やらピンクとも紫とも言えるような色が広がっています。梅の花はまるで人魂です。それこそ陽炎のようにゆらゆらと揺らめいて、寒々とした薄気味の悪い光景を生み出しています。そして近づいて見ると、その大地や木々からメタリックなイメージが浮き上がってきました。木の表面の奥などに、機械のようなモチーフが見え隠れしているのです。そう言えば、この梅はまるで武者、枝はそれこそ刀かもしれません。武将が刀を振り回し、合戦しているようなイメージさえわいてきました。もう少し精緻な描写があればとも思いましたが、二つのイメージを巧妙に潜ませたような構図感には脱帽です。
いくつかの受賞作品の中では、田口和奈の「その悲しい知らせ」が印象に残りました。これは、様々な写真より作った顔のモンタージュを絵画に起こして、それをさらに写真で提示するという凝った手法をとった作品ですが、その結果生まれた重々しくまた鮮やかな質感が優れています。タイトルの「悲しい知らせ」とはやや似つかない表情をしていますが、くっきりと浮き上がるその顔には吸い込まれそうになりました。
その他では、寂寥感の漂うモチーフと冴えたマチエールが興味深い池田光弘の「untitled」や、老人たちが何やら作業する様子を、まるで版画のように描いた油彩「SLOANE RANGER」が心にとまりました。また今年は全体的に、ある意味で「真っ当」な具象絵画が目立っていたと思います。全体としてのレベル云々を言う立場にはありませんが、奇を衒ったような作品はあまり見られません。
気軽に現代美術の「今」を楽しむことが出来る展覧会です。今週の金曜日まで開催されています。(3/17鑑賞)
コメント ( 7 ) | Trackback ( 0 )
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山口さんの作品は意表をつかれました。
よく見ると「ほほー」って感じなのがいいですね。
他の作品も面白い物ばかりで、じっくりと時間をかけて楽しめました。
特に香り付きの佐々木愛さんのは圧巻でした。
「今回は低調だった」と審査員が言ったそうですが、それならグランプリなしとしてもよかったのでは。
ちなみに新聞評者は藤田一人です。
それから本日横浜美術館に行ってきました、チケットありがとうございました。
こんばんは。コメントありがとうございます!
>よく見ると「ほほー」って感じなのがいいですね。
そうですね。
遠目で眺めて、また近くで見てと何度か繰り返しました。
あのように一つのモチーフを隠すような感じで描くのが、
山口さんらしいなあとも思います。
@okiさん
こんばんは。
東京新聞の記事までどうもありがとうございます。
確かにこの作品からは「現代の不毛」は感じられませんね…。
ただ古典的な紅白梅図+現代社会というよりも、
その潜ませたモチーフの面白さがまず優先するのではないかとも思います。
ただその割にはちょっと書き込みが足りないかなとも感じましたが…。
>グランプリなし
そういう手もありますね。
私はあまり受賞の有無を気にして見ないのですが、
色々と難を挙げながら賞を決めるのは矛盾しているかもしれません。
>横浜美術館に行ってきました、チケットありがとうございました。
それは良かったです!
また後ほどご感想を拝見させていただきます。
吉賀あさみのリヒターっぽい作品が中々。
山本太郎は間違いなく大賞です。
断トツでした。
山口さんはご自身でも苦悩されているとか。
これからこれから。
>山口さんはご自身でも苦悩されているとか。
これからこれから。
そうでしたか。ひょっとすると未完成??
次回拝見する際にはグレードアップしているかもしれませんね。
スプーンの中身の白いのは、体の中にもびっしりと入ってるんではないかなと妙な想像をしてしまいました。
半分に切られて、中身があの米粒みたいのぎっしりだったらホラーです。
町田さんの作品はそういう怖さを感じさせてくれるところがたまりませんね。
>半分に切られて、中身があの米粒みたいのぎっしりだったらホラーです。
町田さんの作品はそういう怖さを感じさせてくれるところ
そうですね。
スプーンが手ににゅっと突き刺さる部分からして不気味でした。
ちょっと冷や汗ものです…。