「国宝 阿修羅展」 東京国立博物館

東京国立博物館・平成館(台東区上野公園13-9
「国宝 阿修羅展」
3/31-6/7



東京国立博物館で開催中の「国宝 阿修羅展」へ行ってきました。

まずは展覧会の構成です。計4章立てでした。

第1章「興福寺創建と中金堂鎮壇具」
 明治以来の発掘調査により出土した金、水晶、琥珀、及び器、貨幣など。
第2章「国宝 阿修羅とその世界」
 飛鳥時代の「阿弥陀三尊像及び厨子」、または「十大弟子」と「八部衆」(阿修羅像を含む。)
第3章「中金堂再建と仏像」
 鎌倉時代の「四天王像」、または運慶作の「釈迦如来頭部」など。
第4章「バーチャルリアリティ(VR)シアター」
 興福寺中金堂の再現映像、及び阿修羅のプロモーションビデオ。

それでは早速、各章ずつ、私的な見所や、印象深かった文物について挙げていきます。

第1章「興福寺創建と中金堂鎮壇具」
奈良、及び唐の時代(8世紀)の銀鋺や水晶、砂金、それに和同開珎などが紹介されています。何気ない出土品のよう見えながらも、47点中42点が国宝指定を受けていました。ただ最近の展覧会の傾向でもありますが、展示室がやや暗過ぎるかもしれません。バックライトを浴びて黄色や緑色に浮かび上がるガラス玉などは美しいものでしたが、そのどれもが小さいこともあって、混雑していればおそらく最前列でないと見えないのではないでしょうか。なお、展示品の8割は東博所蔵(47点中38点。他は興福寺蔵)です。平常展で見た記憶がなかったので意外でした。

第2章「国宝 阿修羅とその世界」
今回のハイライトであることは言うまでもありませんが、第2章は展示室の区割りを含め、大きく3つに分けることが出来ます。

(1)法隆寺蔵の「阿弥陀三尊像及び厨子」(飛鳥時代)、または「華原磬」(奈良時代)、「婆羅門立像」(安土桃山時代)



八部衆と十大弟子の前に、上記の三点の仏像、及び金鼓とも言われる銅製の彫刻が登場します。なおこの二点は、前座とするにはあまりにも勿体ないほどに貴重な作品です。龍が左右を駆け、天へとのぼる「華原磬」の力強さはもちろんのこと、端正なお顔立ちに、飛鳥ならではのエキゾチックでかつ神秘な笑みがこぼれる「阿弥陀三尊像」には強く惹かれました。宙に浮くかのような台座部分、そして精緻な後背なども必見ではないでしょうか。飛鳥仏好きにはたまらない仏様でした。

(2)「十大弟子」と「八部衆」(阿修羅を除く)

 

阿修羅以外の八部衆と、十大弟子の中で現存する6躯が、中央の大きな通路に向かいあう形で左右にズラリと勢揃いしています。もちろんガラスケースはありません。(東博平常展一階、仏像展示室の展示方法に良く似ています。)ライトは正面から強く当てられ、後ろには各々の影が長くのびていました。なお後姿は側面からのみ見ることが可能です。回り込むことは出来ません。なお八部衆では、あどけない表情の中にも純朴なる祈りをためた「五部浄」、そして睨みつける目と鋭い嘴に威圧感さえ覚える「迦楼羅」、また十大弟子では深い慈愛の表情をとりながら、見る者に語りかけるような仕草をとる「富楼那」が印象に残りました。ちなみにトルソーの「五部浄」は阿修羅の面持ちと良く似ています。まるで兄弟のようでした。

(3)阿修羅像



十大弟子、また八部衆の展示室より、上へとあがる細い通路を抜けると、台座にのる一躯の阿修羅像が、ちょうど見下ろす形で視界に入ってきます。高い位置にある正面のひな壇より下へと降り、阿修羅像を360度、ケース無しで鑑賞する展示のスタイルは、ちょうど薬師寺展の日光、月光菩薩像の際とほぼ同じでした。照明がやや特異です。当然ながら蛍光灯メインの興福寺宝物館とは異なり、暗がりの中から強いライトで照らし出すため、阿修羅本来の色である朱色が浮き上がっています。(また表面に残る金の輝きも際立っていました。)貴公子のような端正な表情の中に憂いと悲しみ、そして怒りをたたえた阿修羅のお顔は、まるで見る者の心を見透かす能面のように神秘的です。四方へ伸びる手はあたかも鳥の羽のように軽やかに舞い、その力の源を正面の合掌へと収斂させていました。他の八部衆とは異なる軽装の他、議論もあるものの手の合掌、そして軽装な身なりは、おおよそ戦いの神には見えません。なお立ち位置はやや高め、また停止柵はかなり手前にあるため、混雑していると相当遠目からの鑑賞となりそうです。

第3章「中金堂再建と仏像」

 

決して一点豪華主義ではない点が今回の展示の重要なところです。阿修羅の先にも見るべき仏像が登場します。時代を大きく超え、猛々しい様で邪鬼を踏みつける鎌倉時代の四天王の他、3メートル60センチにも及ぶ2躯の菩薩立像は、等身大の八部衆の大きさとも対比的なこともあってか、あたかも見る者を威嚇するかのようにして堂々と立ち並んでいました。なおその先に登場する運慶の「釈迦如来像仏頭部」、または同時代の「飛天」については、あまりにも素っ気ない展示だったせいか、それほど興味をもって見ることが出来ません。小さな作品も多いので、もう少し見せ方に配慮が欲しかったような気もしました。(一点一点をガラスのボックスに収めた方が良かったのではないでしょうか。)

第4章「バーチャルリアリティ(VR)シアター」
最後は大型スクリーンにて、興福寺中金堂、阿修羅像をVRで再現する「再建中金堂と阿修羅像」が上映されています。中金堂はもとかく、実際のお姿を拝んだ後に阿修羅の映像を見るのは蛇足です。よって展示を各章に沿って廻る前に、このコーナーを先に見ておくのも手かもしれません。(なお、会場外、平成館1階のVTRも同じ内容です。)

当日に会場内、しかも阿修羅像の前で偶然にお会いしたTakさんも書かれていましたが、私の出向いた日曜の夜、とりわけ18時以降は驚くほど空いていました。この日は最多で約30分から40分の待ち時間があったそうですが、既に館内にはそのような喧噪もなく、閉館45分前になると、メインの阿修羅の前でもせいぜい20名程度の方が集まっていたのに過ぎません。最前列を確保する手間などもなく、好きな位置より存分に楽しむことが出来ました。実際、会場の方によると会期中、一番空いているのが日曜夜間だそうです。明らかに狙い目です。(混雑状況。金曜夜間は意外と混みます。)

なお八部衆のうち「畢婆迦羅立像」と「鳩槃荼立像」、もしくは十大弟子の「羅ご羅立像」は、次の日曜日、19日までの公開です。ご注意下さい。

「もっと知りたい興福寺の仏たち/金子啓明/東京美術」

ちなみに上の図版は、当ブログのRECOMMEND欄にも記載した東京美術の「もっと知りたい興福寺の仏たち」よりお借りました。出品作の大半が網羅されている上、展覧会では掴み難い興福寺の全貌が良く分かります。今回は図録をパスして、こちらだけでじっくりと楽しみました。

強めのライティング他、会場内での映像展示など、演出過剰という声もあるやもしれませんが、仏像展示の一つの完成形としても見るべき展覧会ではなかったでしょうか。奈良で拝んだからいうのはあまり理由にならないかもしれません。

6月7日まで開催されています。

6/3追記)
会期最終週に入り混雑に拍車がかかっています。平日昼間でも入場まで最大120分前後の待ち時間が発生しているようです。(リアルタイムの混雑状況。左リンク先よりQRコードで携帯から見られます。)なお待ち時間は夕方以降、夜間にかけて解消されていきます。夜間時間帯でも40分前後の待ち時間、また阿修羅像の前では押し合いへし合いの混雑が予想されますが、少しでも人の少ない状況をお求めの方は夕方以降の観覧がおすすめです。
コメント ( 11 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
五部浄と阿修羅 (mizdesign)
2009-04-16 08:20:11
五部浄と阿修羅が似ているというのは、なるほどと思うところがあります。
VRの阿修羅は本当に蛇足だと思います。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2009-04-16 21:29:13
mizdesignさんこんばんは。早速のTBをありがとうございます。

>五部浄と阿修羅が似ている

ともに少年のようなお顔立ちですよね。並べて拝見したらまた興味深いのではないかと思いました。
 
 
 
阿修羅の前で (Tak)
2009-04-16 21:38:18
こんばんは。

しかし、阿修羅像の前でばったりお会いしようとは。
まさにお導き!

あんなこともあるのですね~
 
 
 
Unknown (はろるど)
2009-04-16 21:41:31
Takさんこんばんは。

>まさにお導き

本当にそうですね。もう悪いことは出来ません…。
 
 
 
Unknown (飛嶋千尋)
2009-04-16 22:43:39
こんにちは、TBありがとうございました。日曜の夜が穴場とはちょっと考え付かなかったので、今度ぜひ試してみようと思います。
それにしても、阿修羅はもちろん五部浄も素敵でしたね。
 
 
 
こんばんは (Minnet)
2009-04-17 02:04:48
こんばんは。
コメントとTBありがとうございました。
あのライティングのもと、静かな環境で阿修羅像を拝めるのは最高ですね。
また、八部衆の童顔のほっぺたは、本物の人間の子どもみたいで、拝んでいて癒されます。
全体的にメリハリのある展示は、十分に楽しめました。
私も今度は日曜夜間をねらいたいと思います。
 
 
 
興福寺と東博 (とら)
2009-04-17 10:02:07
仏像は置かれた環境で大分印象が違いますね。

阿修羅はもともと宗教性の低い仏像ですから、お寺の外で見るということは、あまり影響がないように思いますが、視る人と仏像の相対的な位置や光線の照度・輝度・色調などはかなり影響しますね。

華原磬の音を是非聞いてみたいと思っています。これもお寺の中で・・・。

VRの阿修羅は蛇足、西金堂は宣伝過剰でガッカリしました。


 
 
 
Unknown (テツ)
2009-04-17 10:12:26
はろるどさん、コメント・TBありがとうございました。

>決して一点豪華主義ではない点が今回の展示の重要なところです。

そのとおりですね。
メインイベントの第1会場を終え、
気を抜いて入った第2会場で、
林立する巨大仏に圧倒されました。

最後にヴァーチャル映像で阿修羅を見せるというのは
たしかに蛇足ですが、あの大スクリーンは迫力があり
見入ってしまいました。
創建当時の伽藍、壮麗でした。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2009-04-17 22:10:25
@飛嶋千尋さん

こんばんは。コメントありがとうございます。

>日曜の夜が穴場

やはり次の日が平日というのが大きいのでしょうね。びっくりするほど空いていました。日曜夜間おすすめです!


@Minnetさん

こんばんは。

>八部衆の童顔のほっぺたは、本物の人間の子ども

月並みかもしれませんが、魂が宿るというのか、すこしふくれた頬には本当に血が通っているような感じがしました。面と向かうと恥ずかしくなってしまうほどですよね。

>全体的にメリハリのある展示は、十分に楽しめました。

阿修羅展と銘打ちながら、一点豪華になっていないところもまた評価されるべきかと思います。華奢な阿修羅から打って変わっての鎌倉仏も迫力がありました。


@とらさん

こんばんは。先日も阿修羅トークがやはりメインでしたね。

>阿修羅はもともと宗教性の低い仏像

同感です。信仰の強い対象となっていた薬師寺の仏様とは性格が全然異なりますよね。仏像としてというよりも、彫刻として見入ってしまう点が多いなと感じました。

>視る人と仏像の相対的な位置や光線の照度・輝度・色調などはかなり影響

展示となるとこちらの要素が大きく影響します。
いわゆる演出が像の魅力をまた別次元のところへと誘っていました。


@テツさん

こんばんは。

>気を抜いて入った第2会場で、林立する巨大仏

私も同じです。阿修羅で終わりかと思っていたら、まさかあれほど見事な空間が用意されているとは知りませんでした。
四天王の迫力は大変なものがあります。

>大スクリーン

なるほど階下のテレビでは迫力は足りませんよね。
あのスクリーンだからこその良さもあったのかもしれません。
 
 
 
Unknown (アイレ)
2009-04-18 01:12:30
はろるどさん、こんばんは
はろるどさんの記事や拙ブログへのコメントではたと気づきました。
実際お堂で八部衆像はどのような光を受けて安置されていたのか・・・と。
そういった配慮でのライティングだったのかなーとも思いましたが、今思い返すとそうでもないような・・・
すいている時間に行かれたのは良かったですね。私はダメダメでした・・・
そういう鑑賞環境も揃ってこそ、阿修羅たちの良さも伝わってくるのではないかと思いましたが、今回私は「残念賞」で終わってしまいました。また次回頑張ってみたいと思います。
 
 
 
Unknown (はろるど)
2009-04-21 19:38:53
アイレさんこんばんは。ご丁寧なコメントをありがとうございます。

>お堂で八部衆像はどのような光を受けて安置されていた

当時のお堂の光が一体どうしたものだったかも気になりますよね。
もちろん夜は真っ暗なはずですから、きっと蝋燭の灯りだけだったとは思いますが…。

>ライティングだったのかなーとも思いましたが、今思い返す

阿修羅様のお体は元々朱色に塗られたそうです。
その雰囲気を出すライティングかなと私は感じました。

>そういう鑑賞環境

旅行などもそうですが、展覧会も見る際の環境によって大きく印象が変化しますよね。混んでいる展示は私も苦手です。
 
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