『生誕110年 松本竣介/小企画:堀江栞』 神奈川県立近代美術館鎌倉別館

神奈川県立近代美術館鎌倉別館
『生誕110年 松本竣介/小企画:堀江栞ー 触れえないものたちへ』
2022/4/29~5/29



神奈川県立近代美術館鎌倉別館で開催中の『生誕110年 松本竣介/小企画:堀江栞ー 触れえないものたちへ』を見てきました。

1912年に生まれた松本竣介は、画家を志して少年時代を過ごした岩手から東京へ出ると、1935年に二科展に入選するなどして活動しました。

その松本の生誕110年を期したのが今回の展覧会で、松本の油彩と素描25点と、自ら創刊に携わった『雑記帳』の原画が展示されていました。

まず目を引くのが一連の松本の油彩で、代表作の『立てる像』では鉛筆による下絵とあわせて並んでいました。

『橋(東京駅裏)』は1942年、かつての東京駅の外堀にかかっていた橋をやや俯瞰するように描いた作品で、東京駅前という都心にもかかわらず橋にはただの一人も歩いていませんでした。また澱んだような堀の水や灰色がかった白い空は不穏な気配を醸し出していて、明るい光を灯すモダンな電灯でさえ物悲しく思えました。こうした一抹の寂寞感を覚えるのも松本の風景画の独自の魅力かもしれません。

この松本の回顧展で興味深いのは、1935年に結婚し、妻となった禎子とともに創刊した雑誌『雑記帳』の挿絵原画が公開されていたことでした。

そこには創刊号の猪熊弦一郎や難波田龍起、第2号の里見勝蔵や靉光、そして最終号に当たる第14号の鳥海青児といった31作家が、全14冊に挿絵を描いていて、いずれも各画家の作風などが滲み出るように表れていました。この『雑記帳』は資金不足により、創刊からわずか2年後の1937年に廃刊となってしまいましたが、1948年で若くして亡くなった松本の人生を鑑みても、彼にとって重要な仕事の1つだったといえるかもしれません。また松本と作家がやりとりする手紙などの資料も紹介されていて、彼らの交流を伺い知ることもできました。

この松本の展示にあわせて同時に開かれているのが、1992年に生まれた若い世代の作家、堀江栞による『触れえないものたちへ』と題した個展でした。多摩美術大学にて日本画を学んだ堀江は、その後、五島記念文化賞を受賞すると、今年のVOCA展では『後ろ手の未来』が佳作賞を得るなどして評価されてきました。

会場では植物や動物、それに人物などを岩絵具で描いた30点の作品が並んでいて、あたかも鎌倉の岩肌を連想させるようなざらりとした重厚な質感を放っていました。


堀江栞『後ろ手の未来』 *『VOCA展2022』(撮影可)での展示風景。神奈川県立近代美術館鎌倉別館での撮影はできません。

中でも心を奪われるのは『後ろ手の未来』といった人物の絵画で、いずれもやや上目遣いながらも前を見据え、うちに秘めた強い意志を滲みさせつつも、うつろな表情を見せていました。そこには確かに人の重みが感じられるものの、どことない不安感や存在の危うさを喚起させるのも不思議でなりませんでした。


松本竣介は2012年に油彩120点超をはじめとした大回顧展(*)が開かれていて、その時と比べるとかなり小規模であるのは否めませんが、今回の『雑記帳』に焦点を当てたオリジナルな構成や、若手作家堀江栞の作品も見応えがあり、想像以上に充実していました。*岩手県立美術館、神奈川県立近代美術館葉山館、宮城県美術館、島根県立美術館、世田谷美術館にて開催。



会期末の駆け込みでの観覧となりました。5月29日まで開催されています。

『生誕110年 松本竣介/小企画:堀江栞ー 触れえないものたちへ』 神奈川県立近代美術館鎌倉別館@KanagawaMoMA
会期:2022年4月29日(金・祝)~5月29日(日)
休館:月曜日。
時間:9:30~17:00。 *入館は16時半まで
料金:一般700円、20歳未満・大学生550円、65歳以上350円、高校生100円。中学生以下無料。
住所:神奈川県鎌倉市雪ノ下2-8-1
交通:JR線・江ノ島電鉄線鎌倉駅より徒歩約15分。鎌倉駅東口2番のりばから江ノ電バス(大船駅・上大岡駅・本郷台駅行き)に乗車(約5分)し、八幡宮裏にて下車、徒歩2分。
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