「ベルギー奇想の系譜」 Bunkamura ザ・ミュージアム

Bunkamura ザ・ミュージアム
「ベルギー奇想の系譜 ボスからマグリット、ヤン・ファーブルまで」 
7/15~9/24



Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「ベルギー奇想の系譜 ボスからマグリット、ヤン・ファーブルまで」のプレスプレビューに参加してきました。

15、16世紀のフランドル絵画から19世紀の象徴派、さらには現代までのベルギー美術の系譜を辿る展覧会が、Bunkamura ザ・ミュージアムにてはじまりました。

はじまりはボス派の世界です。人や動物や道具などを組み合わせて、悪魔や怪物を描いたボスの絵画は、多くの追従者を生み、ボス風の作品を描く「ボスリバイバル」を起こしました。


左:ヤン・マンデイン「聖クリストフォロス」 制作年不詳 ド・ヨンケール画廊

ヤン・マンデインもボス派の代表的な画家の一人です。1530年頃にアントワープに移り住み、画家組合に属しながら、ボス風の作品を制作しました。「パノラマ風景の中の聖アントニウスの誘惑」でも卵の殻や貝のモチーフをボスから引用しています。また目立つのは「聖クリストフォロス」でした。地獄の場面などを、同じくボス風の怪物や悪魔を交えて描いています。


ピーテル・ハイス(帰属)「聖アントニウスの誘惑」 制作年不詳 ド・ヨンケール画廊
 
当時、ボスでも特に人気だったのが「聖アントニウスの誘惑」の主題でした。うち一つがピーテル・ハイス(帰属)の作品です。ハイスはボスの怪物の滑稽さをより強調し、性的な側面を強調した裸婦を交え、同場面を表現しました。なお画面中心に白い塔が見えますが、これは錬金術で用いられた蒸留炉に着想を得ているそうです。人間の欲求を象徴していると考えられています。


ヒエロニムス・ボス派「聖クリストフォロス」 1508年 ノールトブラバント美術館、セルトーヘンボス

その本家、ボス工房による作品もやって来ました。ヒエロニムス・ボス工房による「トゥヌグダルスの幻視」です。12世紀の説話に基づく地獄の場面で、中央の奇怪な頭部は罪を象徴しています。左下が主人公のトゥヌグダルスです。頭部を囲んで、あらゆる大罪や懲罰が描かれています。右下には大食の罪、すなわち窒息するほどワインを飲んでいる人も見えました。遠景右の炎上した門、ないし桶の前のラッパの怪物など、ボス作品が多く引用されています。近年になって行われた支持体、つまり絵の板の調査から、ボスの存命中に制作されたことが判明しました。


ピーテル・ブリューゲル(父)「七つの大罪」シリーズより「激怒」・「怠惰」 1558年 クストディア財団 フリッツ・ルフト・コレクション、パリ

ピーテル・ブリューゲル(父)も「第二のボス」(解説より)と讃えられた画家でした。そしてブリューゲルも「聖アントニウスの誘惑」を描いています。ほか「七つの大罪」シリーズなども展示。ブリューゲルの特徴して挙げられるのが、ボスの異界に日常性を与えていることです。

一例が有名な「大きな魚は小さな魚を食う」です。主題そのもの、及び歩き、飛ぶ魚こそボスの引用であるものの、遠景に、当時のアントワープの港のクレーンを描きこむなど、現実の光景を織り交ぜて表現しています。これが顧客層を大いに刺激し、人気を集めました。

さて時代は一気に19世紀末へ飛びます。ベルギー象徴派、もしくは表現主義の時代です。アンソール、ロップス、クノップフら、かの時代の潮流を築き上げた画家らの作品が展示されていました。


左:フェリシアン・ロップス「聖アントニウスの誘惑」 1878年 ベルギー王立図書館、ブリュッセル

再び「聖アントニウスの誘惑」が登場しました。描いたのは、1833年にベルギーのナミュールに生まれ、悪魔的で象徴主義的な作品を残した、フェリシアン・ロップスです。ロップスが土台にしたのは、フランスの小説家、フロベールによる「聖アントニウスの誘惑」でした。同作では肉欲を象徴するシバの女王が誘惑の一つとして登場しますが、それをロップスは娼婦として描きました。中央の十字架で肉体を露わにするのが娼婦です。アントニウスは頭を抱えながら、強い官能に翻弄されています。実に劇的な場面ではないでしょうか。


左:フェリシアン・ロップス「舞踏会の死神」 1865-1875年頃 クレラー=ミュラー美術館、オッテルロー

同じくロップスの「舞踏会の死神」も魅惑的でした。骸骨と化した死神が白いガウンを着て踊っています。ガウンはカトリックの司祭がミサで着るもので、ロップスは教会の権威に敵対して描きました。画家は本作の描く前に、フランスの詩人、ボードレールと交流し、ともにキリスト教的な因習を超えた自由を求めました。当時のベルギーは、フランスよりも前衛を受け入れる傾向があったそうです。2人の芸術家の関わりあってからこそ生み出された作品と言えるかもしれません。


左:ジャン・デルヴィル「赤死病の仮面」 1890年頃 フィリップ・セルク・コレクション、ベルギー

「舞踏会の死神」と同じく、一際目立つのが、ジャン・デルヴィルの「赤死病の仮面」でした。主題はポーの同名の小説です。赤死病なる伝染病が蔓延する中、王は城に篭り、享楽に耽っていました。しかしある日、時計が12時を知らせると、血塗られた装束を着た人物が現れ、王に死をもたらします。この闇に現れた恐ろしい人物こそ赤死病の化身でした。目をクワッと見開いた姿の迫力は並大抵のものではありません。思わず後ずさりするほどでした。


左:ウィリアム・ドグーヴ・ド・ヌンク「運河」 1894年 クレラー=ミュラー美術館、オッテルロー

ウィリアム・ドグーヴ・ド・ヌンクの「運河」も幻影的でした。運河越しの何気ない風景ながらも、等間隔に立ち並ぶ樹木、さらには窓の割れた廃屋のような建物など、人の気配のまるでない不在の空間が広がっています。

不在といえばクノップフの「ブリュージュにて、聖ヨハネ施療院」も同様でした。施療院の建物と運河のみの世界です。淀んだ水をたたえた運河は水音一つも立てず、施療院も静まりかえっているように見えます。中世の繁栄から凋落し、死都とさえ呼ばれた、ブリュージュの古き風景のみを切り取って表現していました。


左:ジェームズ・アンソール「果物、花、露わになった光」 1936年 姫路市立美術館

人気のアンソールも10点超ほど集まっています。工業化や都市化の時代に、あえて「想像力や夢の世界へ沈潜」(解説より)したのが象徴主義の画家たちです。ベルギー美術の一つの頂点と呼んでも良いのかもしれません。

ラストは20世紀のシュルレアリスムから現代美術への展開でした。これが思いの外に充実しています。実に出展総数の3割ほどが20世紀後半以降の作品でした。

まずはデルヴォー、そして人気のマグリットです。特にマグリットは「大家族」を含む約10点を網羅。かのマグリット展の記憶も一部蘇りました。

ただより惹かれたのは現代美術、中でも絵画でした。一人がリュック・タイマンスです。1958年にベルギーで生まれ、アントワープで活動し、写真や新聞などのメディアを基にした作品を描いている画家です。出展作は、1999年に発表された「受難」シリーズのうちの一枚の「磔刑図」でした。10年に1度行われるという、キリストの受難劇を上演するフェスティバルのパンフレットをモチーフにしています。画面から溢れ出る白い光が眩しい。神の啓示の光とも解説にありました。まるで全てを光に包むかのように輝いています。

もう1人がミヒャエル・ボレマンスです。印象に残っている方も多いのではないでしょうか。2014年に原美術館で個展も開催されました。元は写真を手がけながらも、90年代半ばに絵画に転向し、時にベラスケスやマネを思わせるようなクラシカルな具象画を描いています。

作品は2点、ともに人物の作品でした。不明瞭な空間の中、ポーズをとる女性らは、行為自体も謎めいていて、まるで儀式の一部を切り取ったかのようです。上半身のみのトルソーのような女性の後ろ姿も独特でした。彼女は一体何者なのでしょうか。どこかシュールな世界が開けていました。



幅広い時代をピックアップしているゆえか、見どころは多数。1つや2つに留まりません。しかも古典だけでなく、現代にまで幅を持たせた構成も面白く、特に象徴派の展開が充実していたのもポイントです。「奇想」云々で括らずとも楽しめました。


「ベルギー奇想の系譜展」会場入口

9月24日まで開催されています。

「ベルギー奇想の系譜 ボスからマグリット、ヤン・ファーブルまで」 Bunkamura ザ・ミュージアム@Bunkamura_info
会期:7月15日(土)~9月24日(日)
休館:7月18日(火)、8月22日(火)。
時間:10:00~18:00。
 *毎週金・土は21時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1500(1300)円、大学・高校生1000(800)円、中学・小学生700(500)円。
 *( )内は20名以上の団体料金。要事前予約。
住所:渋谷区道玄坂2-24-1
交通:JR線渋谷駅ハチ公口より徒歩7分。東急東横線・東京メトロ銀座線・京王井の頭線渋谷駅より徒歩7分。東急田園都市線・東京メトロ半蔵門線・東京メトロ副都心線渋谷駅3a出口より徒歩5分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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