「ジョルジョ・モランディ展」 東京ステーションギャラリー

東京ステーションギャラリー
「ジョルジョ・モランディー終わりなき変奏」
2/20~4/10



東京ステーションギャラリーで開催中の「ジョルジョ・モランディー終わりなき変奏」のプレスプレビューに参加してきました。

イタリアの静物画家、ジョルジョ・モランディ(1890-1964)。国内では約17年ぶりの回顧展です。油彩で50点、ほか水彩や素描を交えた計100点にて画家の業績を辿っています。

さてタイトルにある変奏ことヴァリエーション。これこそがモランディの画業を端的に表した言葉と言えるかもしれません。

とするのもモランディはほぼ終生、故郷のボローニャにとどまり続け、静物、ないし風景の限定された主題を繰り返し描きました。実際、出品作も「静物」と名付けられた作品ばかりです。

とりわけ静物が重要です。モランディは同じ瓶や壺を一箇所に並べたり、何度もまとめたりしては組換え、構図や色調の異なる作品を生み出しています。これがヴァリエーションです。


「静物」 1919年 エニ芸術遺産コレクション

そのはじまり。まずは初期作でした。意外にもモランディが師と仰いでいたのはセザンヌです。1919年の「静物」(作品番号2)には確かにセザンヌ風。色濃い影響を伺うことができます。一方で翌年の「静物」(作品番号4)の光の表現はシャルダンとの関連も指摘されています。彼もモランディにシンパシーを与えた画家の一人でした。


右:「静物」 1936年 マニャーニ・ロッカ財団(パルマ)
左:「静物」 1946年 モランディ美術館(ボローニャ)


ヴァリエーションは全部で11セクション。うち一つ「溝の影」はどうでしょうか。モランディのお気に入りだった白い瓶。表面に溝が刻まれています。おおよそ10年の間をおいた2点の「静物」(作品番号8、9)でも同じ瓶が描かれていますが、影の向きはいずれも右方向で変わりません。ただし構成は別です。瓶以外は異なる器を配置しています。


左:「静物」 1959年 アッカデミア・カッラーラ近現代美術館(ベルガモ)

モランディの絵画空間は時に特異です。例えば「静物」(作品番号13)です。瓶の背後のモチーフが妙な位置にあることが分かるでしょうか。壁との配置関係が曖昧です。一体、モチーフは壁の手前にあるのか、それとも壁はより後方にあり、単にテーブルの上からはみ出ているのか判然としません。モランディは絵の中の事物自体の描写よりも、全体の配置、ないしは量感に関心を寄せています。


右:「静物」 1948年 トリノ市立近現代美術館、グイド・エド・エットーレ・デ・フォルナリス財団
左:「静物」 1948年 モランディ美術館(ボローニャ)


円筒形の容器も好んだモチーフの一つでした。また「静物」(作品番号22)。丸い土台のある容器です。変わった形をしていますが、何でも穀物を計量するための計器として使われていたそうです。そして脚が伸び縮みします。つまりは高さを変えられるわけです。左の作品ではほかの器と高さを揃えて配置しています。しかし右の「静物」(作品番号23)はどうでしょうか。高さはまちまち。揃っていません。もちろんモランディが意図したゆえのことです。これもヴァリエーションの表れと言えるのではないでしょうか。

また興味深いのは計器は金属製ですが、ほかの陶製の瓶も同じような筆触で描いていることです。一体どちらか金属なのでしょうか。俄かに分かりません。


左:「静物」 1955年 ルチアーノ・パヴァロッティ・コレクション、モランディ美術館(ボローニャ)寄託

チラシ表紙の「静物」(作品番号33)はオペラ歌手であるパヴァロッティの旧蔵品です。彼が公演の度に持ちだしてはホテルの部屋に飾っていたという一枚、何よりも構図に特徴があります。と言うのもモチーフは全て左より。まるでステージから役者が降りるかのように左へ寄っているのです。反対の右側の空間はぽっかりと空いています。


左:「静物」 1951年 モランディ美術館(ボローニャ)

かたちにおけるヴァリエーション。矩形です。一例が「静物」(作品番号39)。クリーム色のテーブルの上にカップなどが置かれています。背景の壁しかり、タッチは力強く、絵具が相当に塗り込められていることが分かります。そして影。やはり右側にのびていました。これが濃い。まるでそれ自体が器の模様であるかのようです。あえて濃く描いています。そもそもモランディは作品を描くために、器や壺の表面の色を塗りなおしたり、別の器とくっつけたりしていました。あくまでも全てはモランディの頭の中にあるイメージ通りにコントロールしているわけです。


右:「静物」 1951年 モランディ美術館(ボローニャ)
左:「静物」 1951年 モランディ美術館(ボローニャ)


ヴァリエーションの例として分りやすいのが同年に2枚描かれた「静物」(作品番号71、72)でした。同じような配置と構図。一見、全く同じモチーフを表しているように思えるかもしれません。しかしながら瓶の本数が違います。左は6本で右が7本。右の作品には1本、水色の瓶が描き加えられていることが分かります。

モランディはモノの関係性を絵画平面で表そうと試みました。モチーフはいずれも線ではなく面で接触しています。明確な輪郭線はありません。ほかに重要なのは影と背景との関係です。モノ同士のある部分は溶け合い、また別の部分は強くせめぎ合います。まるでそれ自体が震えながら重なりあっているかのようです。


「フォッダッツア通りの中庭」 1958年 モランディ美術館(ボローニャ)

風景画が思いがけないほど魅惑的でした。いずれもアトリエなどから戸外を描いた作品、風景は時にかたちとして還元され、単純化されていることが見てとれます。うち珍しいのが「フォッダッツア通りの中庭」(作品番号88)です。自然を表した作品が多い中、ここには人工的な要素、つまり飛行機雲が描かれています。とは言え、手前の家々の屋根はやはり面での表現です。筆触については静物画とさほど違いはありません。


「花」 1957年 個人蔵、モランディ美術館(ボローニャ)寄託

ラストは花卉画でした。タイプは二種類、余白を残して花瓶の花を切り取ったものと、余白なく花の全体像を捉えたものがあります。基本的に造花を描いていたそうです。そこにもやはり描画する対象を操作するモランディの表れと言えるのではないでしょうか。


「自宅でのモランディ」 1961年 アントニオ・マゾッティ撮影

チラシに「すこし、ちがう。すごく、ちがう。」とのコピーがありましたが、確かにはじめは少しの違いしかないように見えるものの、しばらくすると差異点が浮き彫りになってくることが分かります。さらに作品は何も写実のみを志向したわけではなく、構図などにおいて時に実験的な取り込みもしています。静謐云々では語りつくせません。前衛という言葉もあながち誇張とは言えないのではないでしょうか。

近年、モランディというと、今から5年前、2011年の4月から豊田市美術館(ほか)を巡回する予定の展覧会がありました。ただしその展示は東日本大震災により中止されてしまいました。


「ジョルジョ・モランディ」展会場風景

そのモランディ展と今回の展示は全く別のものだそうです。しかしながら作品は100点。ほぼ全てイタリアからやって来ています。国内でこれほど多くのモランディ作品を見る機会など滅多にありません。さすがに充足感はありました。

ご紹介が遅れました。4月10日まで開催されています。おすすめします。

「ジョルジョ・モランディー終わりなき変奏」 東京ステーションギャラリー
会期:2月20日(土)~4月10日(日)
休館:月曜日。但し3月21日は開館。翌22日は休館。
料金:一般1100円、高校・大学生900円、中学生以下無料。
 *20名以上の団体は300円引。
 *3月15日(火)~3月31日(木)は「学生無料ウィーク」のため学生は無料。
時間:10:00~18:00。
 *毎週金曜日は20時まで開館。
 *入館は閉館の30分前まで
住所:千代田区丸の内1-9-1
交通:JR線東京駅丸の内北口改札前。(東京駅丸の内駅舎内)

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )