「ニッポンの国宝100」第25号(東寺両界曼荼羅図/法隆寺伽藍) 小学館

小学館のウィークリーブック「ニッポンの国宝100」が、全50号のうちの半数に当たる第25号に到達しました。



「週刊 ニッポンの国宝100」
http://www.shogakukan.co.jp/pr/kokuhou100/

それが「東寺 両界曼荼羅」と「法隆寺伽藍」の特集で、ともに京都・奈良を代表する仏教美術、および建築が取り上げられていました。なお、東寺、法隆寺とも、既に別の国宝が掲載済みで、東寺では第8号で「立体曼荼羅」、そして法隆寺では第7号で「救世観音」、第13号で「百済観音」が特集されました。特に法隆寺の両観音像は、私も好きな仏像だけに、ともに追いかけました。



いつもの高精細な図版は、東寺の「両界曼荼羅」を鑑賞するのに有用でした。現存最古の彩色の両界曼荼羅である「金剛界曼荼羅」が原寸で掲載されているため、成身会を囲んだ、賢劫千仏の細かな姿までを確認することが出来ました。もちろん実際の作品に当たるのが一番かもしれませんが、おそらく肉眼ではここまで鮮明に見えません。



「国宝鑑賞術」では、5つの観点から両界曼荼羅の世界を解き明かし、作品の見方を分かりやすく紹介していました。また「国宝くらべる大図鑑」の視点もユニークで、ともすると見落とされがちな、両界曼荼羅の細部の菩薩や珍獣などを抜き出して見せていました。



後半の「法隆寺伽藍」も充実していました。まず目を引いたのは、世界最古の木造建築とされる西域伽藍を上空から捉えて掲載した写真で、おそらく現地でも、この高さから鑑賞することは叶いません。また若草伽藍と西院伽藍の古代瓦を比較しながら、長らく論争の続いてきた法隆寺の再建・非再建論争についても触れていました。1939年、焼土ともに若草伽藍が発掘されたことから、再建説が広く支持されました。

しかし近年、五重塔や金堂の天井壁画に、火災前の木材が使用されていたことが判明したため、非再建の可能性もあるとして、再び論争が沸き起こっているそうです。また2017年には、おおよそ50年ぶりに、若草伽藍の発掘調査も行われました。いずれ何らかの形で、一定の見解がまとめるのかもしれません。



国宝への旅をテーマとした「行こう国宝への旅」は、法隆寺へのガイドでした。私も昨年春、「救世観音菩薩立像」を拝むため、春の特別公開の際に法隆寺へいきましたが、その時の記憶も蘇りました。



「国宝救世観音菩薩立像 特別公開」 法隆寺夢殿(はろるど)

ちょうど折り返しに達した「週刊ニッポンの国宝100」は、これ以降も、来年の9月に向けて、残りの25号が刊行されます。(刊行予定一覧

26:室生寺/洛中洛外図屏風 舟木本
27:東大寺伝日光・伝月光菩薩/浮線綾螺鈿蒔絵手箱
28:早来迎/清水寺
29:向源寺十一面観音/紅白芙蓉図
30:醍醐寺/信貴山縁起絵巻
31:仏涅槃図/出雲大社
32:浄土寺/彦根屏風
33:明恵上人像/仁和寺
34:四天王寺扇面法華経冊子/法隆寺釈迦三尊像
35:葛井寺千手観音/薬師寺吉祥天像
36:志野茶碗 銘卯花墻/東大寺伽藍
37:羽黒山五重塔/聚光院花鳥図襖
38:辟邪絵/色絵雉香炉
39:勝常寺薬師三尊像/夕顔棚納涼図屏風
40:天燈鬼・龍燈鬼/金剛峯寺
41:浄瑠璃寺九体阿弥陀/二条城
42:東大寺不空羂索観音/観音猿鶴図
43:普賢菩薩/三佛寺投入堂
44:神護寺薬師如来/十便図・十宜図
45:玉虫厨子/臼杵磨崖仏
46:唐招提寺/火焔型土器
47:本願寺/鷹見泉石像
48:中宮寺菩薩半跏像/崇福寺
49:青不動/赤糸威鎧
50:深大寺釈迦如来/大浦天主堂

全て国宝を扱うだけに、有名な作品や建築も目立ちますが、中には一般的な書籍で細かく扱われないような国宝もあり、「ニッポンの国宝」ならではの多角的な視点での解説も期待出来ます。



昨年は京都国立博物館の「国宝展」を筆頭に、ともかく国宝に関する企画や展覧会も続き、「国宝イヤー」とも言われました。実際、「国宝展」は、同博物館の特別展史上最多となる、約62万名もの入場者を記録しました。

「週刊ニッポンの国宝100/東寺両界曼荼羅図・法隆寺伽藍/小学館」

さすがに今年は国宝がムーブメントになることはなさそうですが、今後とも「ニッポンの国宝」で国宝に親しんでいければと思いました。

「週刊ニッポンの国宝100」@kokuhou_project) 小学館
内容:国宝の至高の世界を旅する、全50巻。国宝とは「世界文化の見地から価値の高いもので、たぐいない国民の宝たるもの」(文化財保護法)国宝を知ることは、日本美術を知ること。そして、まさに日本のこころを知る旅だともいえます。「週刊 ニッポンの国宝100」では、現在指定されている1108件の中からとくに意義深い100点を選び、毎号2点にスポットを当てその魅力を徹底的に分析します。
価格:創刊記念特別価格500円。2巻以降680円(ともに税込)。電子版は別価格。
仕様:A4変形型・オールカラー42ページ。
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「かわいい こわい おもしろい 長沢芦雪」 新潮社

奇想の絵師、長沢芦雪の画業を知るための、最適な書籍と言えるかもしれません。新潮社のとんぼの本、「かわいい こわい おもしろい 長沢芦雪」を読んでみました。

「かわいいこわいおもしろい 長沢芦雪/とんぼの本」

実のところ芦雪本は少なくなく、東京美術の「もっと知りたい長沢蘆雪」や、別冊太陽(平凡社)の「長沢芦雪」などもありますが、江戸絵画を専門とする岡田秀之氏が新たな知見を交え、芦雪の魅力を余すことなく紹介していました。



まず冒頭の図版で目を引くのは、「虎図・龍図襖」の虎でした。芦雪に縁のある和歌山の無量寺の所蔵で、さも襖から虎が飛び出そうとする姿を描いています。芦雪の代表作と呼んでも良いかもしれません。

「芦雪ワールド 千変万化」とあるように、芦雪の世界を13の切り口から分析しているのも面白いところです。しかも「かわいいものを描く」や「妖しきものを描く」、それに「指で描く」などの親しみやすい切り口ばかりでした。また酒好きとも伝えられる芦雪です。中には「酔って描く」もありました。



かわいいと言えば、師でもある応挙の犬が有名ですが、芦雪も負けてはいません。より大胆に、言い換えれば、よりゆるく犬を描いています。現代の「ゆるキャラ」にも通じる要素があるかもしれません。



美術史家の辻惟雄氏と河野元昭氏の対談が充実しています。芦雪を、師の応挙の型を破るべく、意識的に奇想的な絵を描いた「人工の奇想」の絵師と位置づけています。また各氏が「この1点」を挙げ、芦雪の魅力について語っていました。

芦雪の生涯を追うのが「芦雪ものがたり」でした。ここでは謎に包まれた出自から、応挙への入門、さらに南紀での制作プロセスを、図版とテキストで丹念に紐解いています。



特に南紀での活動について細かに触れていました。また作品の解説だけでなく、無量寺、草堂寺、成就寺の間取り図も詳しい上、かの地の風景写真を交えた巡礼地図までも掲載されています。芦雪の足跡を辿るべく、南紀に出かけたくなるほどでした。

いわゆる新知見ということかもしれません。一般的な芦雪観の再検討を促しているのも特徴です。岡田氏は、残された書簡を読み解くことで、諸々伝えられる芦雪の奔放な逸話は、後世に脚色された可能性があるのではないかと指摘しています。また毒殺説についても懐疑的な見方をしていました。真相は如何なるところでしょうか。

さて、この秋に愛知県美術館で開催予定の「長澤芦雪展」も、あと1カ月弱に迫りました。



「長沢芦雪展 京のエンターテイナー」@愛知県美術館
会期:10月6日(金)〜11月19日(日)
公式サイト:http://www.chunichi.co.jp/event/rosetsu/

既に特設サイトがオープンし、開催概要や見どころ、イベントなどが記載されています。本書の岡田氏の記念講演会も行われます。

「長沢芦雪入門」
講師:岡田秀之氏(嵯峨嵐山日本美術研究所学芸課長)
日時:11月4日(土) 13:30~15:00 *申込方法は公式サイトまで。

注目すべきは無量寺の空間再現展示ではないでしょうか。本来、「虎図襖」と「龍図襖」は向かい合わせに描かれていたそうです。それを展覧会の会場としては初めて再現します。


巡回なしの芦雪展です。本書の言葉を借りれば「応挙よりウマイ 若冲よりスゴイ」。おそらく秋の日本美術展の中でも人気を集めるに違いありません。私もこの本を片手に愛知へ見に行きたいと思います。

「かわいい こわい おもしろい 長沢芦雪」 新潮社
内容:愛らしい仔犬から不気味な山姥まで、一寸四方の五百羅漢図から、襖全面の虎図まで。超絶技巧の写実力に、酔いにまかせた一気描き。「かわいい」「こわい」「おもしろい」幅広い画風で、人々を驚かせ、楽しませ続けた江戸中期の画家・長沢芦雪(1754~99)。新出作品もたっぷりと、「奇想派」の一人として注目を集める絵師のびっくり絵画と短くも波瀾万丈の人生を新進の研究者がご案内します。また、日本美術史界の泰斗、辻惟雄氏×河野元昭氏がその魅力を語り尽くした「芦雪放談」も必読。画布に現された千変万化の「奇想」を目撃せよ。
価格:1600円(税別)。
仕様:126ページ。
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「ニッポンの国宝100」創刊号 小学館

小学館より刊行された「週刊 ニッポンの国宝100」創刊号を読んでみました。

「週刊 ニッポンの国宝100 1 阿修羅/風神雷神図屏風/小学館」

文化財保護法により「世界文化の見地から価値の高いもので、たぐいない国民の宝たるもの」として規定された国宝。現在、1108件の建造物と美術工芸品が指定されています。


「週刊 ニッポンの国宝100」
http://www.shogakukan.co.jp/pr/kokuhou100/

その国宝から選りすぐりの100件を紹介するのが「ニッポンの国宝」です。各巻2件での展開です。毎週火曜日に発売され、来年の9月までの1年間、全50巻が刊行されます。

創刊号を飾るのが阿修羅と風神雷神図屏風でした。かつて話題となった阿修羅展や大琳派展の例を挙げるまでもなく、ともに美術工芸品の国宝として人気を集めています。



まず目を引いたのは誌面の写真が美しいことでした。特に名作ギャラリーが充実しています。阿修羅では顔や両手の細部までを見事に捉えていました。私もかつて阿修羅展でこの仏像を見ましたが、さすがに肉眼ではここまで迫ることは出来ません。



国宝を掘り下げるのが国宝鑑賞術です。阿修羅、風神雷神図屏風ともに5つのポイントをピックアップし、造形の特徴などを解説しています。なお阿修羅では背面の写真もありましたが、これも興福寺で見ることは叶いません。まさに書籍ならでは鑑賞と言えるのではないでしょうか。



原寸も一つのキーワードです。「ニッポンの国宝100」では、阿修羅はもとより、風神雷神図屏風の一部を、原寸大のサイズで見せています。阿修羅の顔が思いの外に小さく感じたのは私だけでしょうか。また風神雷神の雷神も原寸で見ると、細部の線描の豊かなニュアンスなどが良く分かります。墨線の滲みや塗り残しも一目瞭然でした。



対決や比較のコーナーは国宝へ新たな視点をもたらします。例えば阿修羅では「国宝 世界VS日本」としてミケランジェロのダビデ像と比べていました。当然ながら時代も地域もまるで異なる両像です。見比べることなど思いもつきませんが、マニアックな部分にまで踏み込んでいるからか、かなり読み応えがありました。東西の美意識の違いなども浮かび上がっていたかもしれません。



一方の風神雷神屏風では、琳派三変奏こと、宗達、光琳、抱一画を比較しています。時代が下るにつれて、より人間味を増すような両神の姿を見ることが出来ました。また風神雷神を襖へ描いた其一に触れているのも嬉しいところでした。



専門性を持ち得ながらも、全体的にかなり親しみやすい構成となっているのも特徴です。より斬新なのが国宝解体新書でした。阿修羅では6本の腕のみに着目し、その造形や印相、はたまた動きを3面に連なるページで紹介しています。いわばページには腕しか載っていません。こうした取り上げられ方はいまだかつてあったのでしょうか。先のダビデ比較ならぬ、「ニッポンの国宝」ならではのコンテンツだと感心しました。



「行こう国宝の旅」などの旅に関するページも思いの外に充実しています。宗達や海北友松に縁のある建仁寺が見開きで特集されていたほか、国宝を有する東寺や薬師寺などの寺院も紹介されていました。拝観や作品の公開情報も記載されているので、京都や奈良への旅行を組むのにも有用かもしれません。

「未来の国宝・MY国宝」の連載も面白いのではないでしょうか。第一回では美術史家の山下裕二先生が、大阪の金剛寺の「日月山水図屏風」(重要文化財)を「未来の国宝」として取り上げています。コラムを参照しながら、国宝の行く末について考えるのも面白いかもしれません。



さて約40ページの「ニッポンの国宝100」ですが、手にした際、予想以上に分厚いのに驚きました。理由は付録です。創刊号のみの特別付録として「鳥獣人物戯画柄トラベルケース」が付いています。



これがかなり実用的でした。ハードカバーで耐久性もあり、中にはポケットやホルダーがたくさん付いています。チケットやメモ帳はもちろん、スマートフォンやパスポートも収納出来るのではないでしょうか。旅行云々ではなく、普段使いにも問題ありません。


これほど盛りだくさんで500円です。(創刊号特別価格。2巻以降は680円。)端的に安い。お得感がありました。

それにしても国宝イヤー、秋の国宝展のみならず、「ニッポンの国宝」を含め、様々な企業や団体が、国宝に関するタイアップやイベントを行っています。

「ニッポンの国宝」を中心とした「国宝応援プロジェクト」については、下記のエントリにまとめました。

「国宝応援プロジェクト」が進行中です(はろるど)

今後、国宝への関心は高まっていくのでしょうか。と、当時に国宝から広がる多様な展開についても注目したいところです。



小学館「ニッポンの国宝100」の創刊号、「阿修羅/風神雷神図屏風」は、9月5日に刊行されました。

「週刊ニッポンの国宝100」@kokuhou_project) 小学館
内容:国宝の至高の世界を旅する、全50巻。国宝とは「世界文化の見地から価値の高いもので、たぐいない国民の宝たるもの」(文化財保護法)国宝を知ることは、日本美術を知ること。そして、まさに日本のこころを知る旅だともいえます。「週刊 ニッポンの国宝100」では、現在指定されている1108件の中からとくに意義深い100点を選び、毎号2点にスポットを当てその魅力を徹底的に分析します。
価格:創刊記念特別価格500円。2巻以降680円(ともに税込)。
仕様:A4変形型・オールカラー42ページ。
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「国宝応援プロジェクト」が進行中です

日本で初めて「国宝」の言葉が使用されたのは、明治30年に制定された古社寺保存法でした。



その後、昭和4年に国宝保存法が制定され、戦後になって文化財保護法が施行されました。つまり今年は国宝誕生120年周年にあたります。いわば国宝イヤーです。京都国立博物館の「国宝展」の例を挙げるまでもなく、国宝に関する様々な企画が行われています。


「週刊 ニッポンの国宝100」
http://www.shogakukan.co.jp/pr/kokuhou100/

うち1つが、小学館による「週刊 ニッポンの国宝100」です。100件の国宝を、各巻2点ずつ紹介していく全50巻のウィークリーブックで、9月5日の創刊号から1年間、毎週火曜日に発売されます。

そのプロモーションの一環として「国宝応援プロジェクト」が始まりました。



WEB上での展開は2つです。TwitterとFacebookページにて行われています。

国宝応援団(@kokuhou_project)
https://twitter.com/kokuhou_project

「国宝応援プロジェクト」Facebookページ
https://www.facebook.com/kokuhouproject/

「国宝応援団のメンバーが国宝の魅力を発信していきます。」とあるように、複数のメンバーが記事を投稿しているのが特徴です。またプロモーション活動でありながら、ウィークリーブックの内容を離れた、国宝全般の情報も発信しています。またTwitterでは「国宝クイズ」なども行い、ユーザーを巻き込んで展開しているようです。

さて秋の国宝展も約1ヶ月後に迫ってきました。



「開館120周年記念 特別展覧会 国宝」@京都国立博物館
会期:2017年10月3日(火)~11月26日(日)

美術工芸品の国宝885件のうち、実に200件もの作品が集結する、京都では約40年ぶりの国宝展となります。

雪舟の国宝が初めて同時に展示されるほか、光琳の「燕子花図屏風」が100年ぶりに京都で公開されるなど、話題には事欠きませんが、会期が4つに分かれているのが悩ましいところです。全て見るためには足繁く通う以外にありません。

既に主要作品の出展期間が公開されていますが、ともかくは出品リストが待たれます。私も会期中に1度は出かけるつもりです。

「週刊 ニッポンの国宝100」の「国宝応援プロジェクト」。まずは秋の国宝展とともに追うのが良さそうです。


9月4日(月)、丸の内オアゾにて「国宝応援プロジェクト発足式」が行われ、さらに以下のタイアップ企画、ないし関連商品が発表されました。

1.JR東海による「国宝新幹線」の運行
京都国立博物館で開催される特別展覧会「国宝」へ向かう乗客専用の貸切新幹線を運行。運行日は11月19日。各旅行会社より旅行商品として発売。車内にて山下裕二・明治学院大学教授と俳優・井浦新さんによる国宝解説アナウンス(事前収録)を放送する。利用者には「ニッポンの国宝100」の創刊号が贈呈されるほか、抽選でサイン本のプレゼントなどの特典あり。

国宝応援プロジェクト「国宝新幹線」の運行について(東海旅客鉄道株式会社)

2.日清食品が国宝「火焔型土器」をもした「縄文Doki★Doki クッカー」を発売。
「カップ麺と縄文土器には日本の食文化を変えた共通点がある」(公式ツイッターより)として、愛知に300年続く民窯「瀬戸本業窯」による「縄文Doki★Doki クッカー」を限定販売。(11月予定)

3.日本出版販売が「国宝検定」をスタート。
数多くの検定事業を手掛ける日本出版販売が「国宝検定」を開始。試験日は2018年10月28日。(2017年9月5日受付開始。)初級、上級を設定し、国宝の知識を問う。公式テキストを「ニッポンの国宝100」とする。

国宝検定公式サイト(日本出版販売)

「週刊 ニッポンの国宝100 阿修羅/風神雷神図屏風/小学館



「週刊ニッポンの国宝100」 小学館
内容:国宝の至高の世界を旅する、全50巻。国宝とは「世界文化の見地から価値の高いもので、たぐいない国民の宝たるもの」(文化財保護法)国宝を知ることは、日本美術を知ること。そして、まさに日本のこころを知る旅だともいえます。「週刊 ニッポンの国宝100」では、現在指定されている1108件の中からとくに意義深い100点を選び、毎号2点にスポットを当てその魅力を徹底的に分析します。
価格:創刊記念特別価格500円。2巻以降680円(ともに税込)。
仕様:A4変形型・オールカラー42ページ。
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「にっぽんの『奇想建築』を歩く」 サライ2017年7月号

サライ最新7月号、「にっぽんの『奇想建築』を歩く」を読んでみました。

「サライ2017年7月号/にっぽんの奇想建築を歩く/小学館」

奇想といってまず思い出すのが、若冲や蕭白、それに蘆雪らの江戸絵画ですが、何も奇想は美術だけに当てはまる概念ではありません。



建築から奇想を見出そうとするのが、サライ7月号、その名も「日本の奇想建築を歩く」でした。建築史家の藤森照信は、奇想建築を「文明の衝突時に誕生する」と述べています。



「国宝救世観音菩薩立像 特別公開」 法隆寺夢殿(はろるど) *この春の特別公開を見てきました。

いくつか実例を見ていきましょう。最も古い形として挙げられるのが法隆寺でした。現存する最古の木造建築でもある金堂の高欄は、それまでの日本建築になかった様式であり、おそらく当時の人々は不可思議に感じたものであろうと指摘しています。

近代の日本で最も激しく文明が衝突したのが幕末明治の時代でした。西洋化のプロセスは、時に日本古来の建築様式と融合し、「擬洋風建築」と呼ばれる奇想建築が生み出されました。

表紙を飾る「旧開智学校」も典型的な擬洋風建築です。ともかく青い塔が青空に映えます。バルコニーには白い雲が浮かんでいました。さらに屋根はエンジェルがのっています。なお建物表面は石張りのように見えますが、実は漆喰でした。そこにも擬洋風の形を見出すことが出来ます。



ほかには山形市郷土館や伊豆の岩科学校なども紹介。写真、記事とも充実しています。ちなみに岩科学校はバルコニーや柱や手すりの装飾が西洋的である一方、玄関上の瓦屋根やなまこ壁に日本の伝統的な様式が見られるそうです。内部には当地の左官の名工、入江長八も腕を振り、鏝絵などを残しました。

「伊豆の長八ー幕末・明治の空前絶後の鏝絵師」 武蔵野市立吉祥寺美術館(はろるど)

この入江長八は、かつて武蔵野市立吉祥寺美術館での回顧展でも紹介されました。岩科学校の位置する松崎には、伊豆の長八美術館もあります。一度、現地を見学したいものです。



奇想建築特集の主役というべきなのが伊東忠太でした。まずすぐに思い浮かぶのが、現在、改装中の大倉集古館です。初めて見た時は、私も独特な佇まいに驚いたものでした。



忠太の建築でも特に知られるのが築地本願寺です。明治9年の竣工。伝統的な寺院建築とインドの仏教建築を合わせた建物は、一目見るだけで脳裏に焼きつくかのような強い印象を与えます。私も初めて立ち入った際は外国にでも来たかのような錯覚に陥りました。



なお現在、築地本願寺は境内整備、インフォメーションセンターなどの建設のため、一部が工事中です。白いフェンスで覆われていました。完成予定は今秋の10月だそうです。

地元の千葉にも忠太の建築があることを初めて知りました。それが市川市の中山法華経寺の聖教殿です。私も早速、見学に行ってきました。



最寄駅は京成線の中山駅です。駅前の参道を北へ進むと大きな門が見えてきます。法華経寺は日蓮宗の大本山です。広い境内を有しています。



日蓮聖人像の安置された祖師堂をはじめ、五重塔や法華堂などは国の重要文化財に指定されています。聖教殿は境内の最奥部でした。祖師堂を抜け、宝殿門を過ぎると、樹木の鬱蒼とした森が現れました。何やらひんやりとしています。その中で忽然と姿を見せるのが聖教殿でした。



一見して感じたのは異様な迫力があるということです。地盤から最上部までは約22メートル。事前に見ていた写真よりもはるかに大きく感じられました。



構造は鉄筋コンクリートです。外装に花崗岩を採用しているそうです。外観は確かにインド風ながらも、正面柱頭の霊獣などは西洋の古典主義の意匠も採られています。鉄扉を堂々と飾るのは法輪でした。

竣工は昭和6年です。国宝「立正安国論」や「観心本尊抄」をはじめとした貴重な寺宝が収められています。それゆえに内部の見学は叶いません。



ここで嬉しいのがサライの誌面です。特別に撮影した内部の写真が掲載されていました。内部は外観とは一変、何と純和風でした。厨子や簞笥も忠太自らが設計しています。ドーム型の格天井も珍しいのではないでしょうか。外も中も確かに奇想でした。

また通常、非公開の本願寺伝道院の内部も撮影を行っています。さらに京都の祇園閣や伊賀の俳聖殿などもピックアップ。かつての阪急梅田駅のコンコースをシャンデリアとともに飾ったレリーフも忠太の設計でした。

奇想建築以外にも見どころがあります。まずは巻頭の藤原新也による「沖ノ島」の特集です。ともかく写真が美しい。自然の姿が神々しくも感じられました。また美術関連では7月5日より上野の森美術館で開催される「石川九楊展」のほか、奈良国立博物館で「源信 地獄・極楽への扉」についての案内もありました。

「サライ2017年7月号/にっぽんの奇想建築を歩く/小学館」

見て、読んで楽しめるサライ7月号の「にっぽんの『奇想建築』を歩く」特集。雑誌片手に奇想建築を見て回るのも面白いのではないでしょうか。



ちなみに来月の8月号は「くらべる日本美術」です。建築、美術ファンにとって嬉しい企画が続きます。こちらも期待したいです。

「にっぽんの『奇想建築』を歩く」 サライ2017年7月号
内容:唐破風にエンジェル、築地に珍獣。こんな建物に誰がした?にっぽんの「奇想建築」を歩く。法隆寺から安土城、日光東照宮そして「伊東忠太」へ。旧開智学校、山形市郷土館、岩科学校ほか。
出版社:小学館
価格:700円(税込)
刊行:2017年6月9日
仕様:156頁
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「カフェのある美術館」 世界文化社

日本各地の美術館のカフェを巡りたくなる一冊が、世界文化社より刊行されました。

「カフェのある美術館/青い日記帳/世界文化社」

それが「カフェのある美術館 素敵な時間をたのしむ」です。監修はお馴染みの「青い日記帳」のTakさん(@taktwi)。美術館へ通っては、日々のブログを更新するだけでなく、展覧会に関するトーク、ないしガイドツアーなどのイベントも企画。常に精力的に活動されています。



表紙が三菱一号館美術館の「Cafe 1894」でした。2010年にかつてのコンドル建築を復元してオープン。ご覧のようにクラシカルです。都内では人気のカフェだけに、利用された方も多いかもしれません。

第1章 レトロな美術館・カフェレストラン
第2章 緑と陽だまりの美術館・カフェレストラン
第3章 一度は訪れたい個性的な美術館・カフェレストラン
第4章 料理が美味しい美術館カフェ・レストラン

「カフェのある美術館」は切り口がユニークです。というのも、有りがちな地域別の分類ではありません。テーマ別でした。全部で4つです。はじめが「レトロな美術館カフェ・レストラン」でした。ここでは先の「Cafe 1894」をはじめ、アサヒビール大山崎山荘美術館 の「喫茶室」や京都文化博物館の「前田珈琲」などをピックアップ。いずれも歴史的な建造物です。各テーマを通すことで、カフェの個性がより浮き上がっていました。



「個性的な美術館」で身近なのが原美術館です。まず「カフェダール」を3ページを用いて紹介。見開きではカフェの特徴を簡単にガイドしています。もちろんイメージケーキや限定メニューのガーデンバスケットについても言及がありました。写真はフルカラーです。内観と外観の双方を掲載。人気メニューを写真とともに知ることが出来ます。



ここでガイドは終わりません。続くのがショップでした。コンセプトとともに、おすすめのアイテムを紹介しています。最後が美術館です。建築、展示、コレクションの観点から4ページにも渡って解説しています。つまり「カフェのある美術館」は単純なカフェガイドではありません。美術館の入門編としても有用ではないでしょうか。



美術館に詳しいTakさんならではの細かな観点も随所に伺えました。一例が三井記念美術館のミュージアムカフェです。美術館のチケットがなくとも入場可能とありますが、あまり周知されているとは言えません。

ほか三菱一号館美術館の「Cafe 1894」で休館中のみ提供されるアフタヌーンティーや、ホキ美術館の「はなう」の月曜限定メニュー、またポーラ美術館の「アレイ」の寄付金付きメニューなど、ともすると知られていないメニューについても触れています。さらに国立科学博物館の「ムーセイオン」は奥の席を推奨。何故でしょうか。クジラの骨格標本を見降ろせるからだそうです。実地に基づくようなマニアックな視点も見逃せません。



横須賀美術館の「アクアマーレ」が土日祝日の11時から11時半の間のみ予約出来るとは知りませんでした。海を一望する抜群のロケーションです。私も度々利用しますが、待ち時間が発生していることも少なくありません。

狙い目の時間帯についても案内があります。根津美術館の「ネヅカフェ」です。何と開館直後でした。確かに混雑とは無縁です。窓外の庭の緑を占有出来ます。先にカフェを利用するのも楽しみ方の一つです。美術館のカフェというと、鑑賞後に出向く方が多いかもしれませんが、待ち合わせでの利用など、様々なシーンで使い分けられることを改めて知りました。

掲載カフェは29か所。関東、関西の美術館だけでなく、金沢21世紀美術館や山口県立美術館、大分県立美術館なども紹介しています。全140ページ弱の余裕のある作りです。コンパクトにまとまっていました。



もちろん営業時間や休業日、問い合わせ先などの基本的情報も網羅。カフェの利用に美術館の入館料が必要か否かについても触れています。実用性も十分でした。

なおJ-wave「RADIO DONUTS」にTakさんが出演されることが決まったそうです。

J-WAVE WEBSITE : RADIO DONUTS
URL:http://www.j-wave.co.jp/original/radiodonuts/

放送予定は3月18日(土)の10時10分から40分。土曜の午前中です。おそらくは美術館のカフェなどについて楽しく話して下さると思います。


また荻窪の6次元で「カフェのある美術館ナイト」の開催も決定しました。

「カフェのある美術館ナイト」
ゲスト:中村剛士(青い日記帳主宰)  
聞き手:ナカムラクニオ(6次元)
日時:3月30日(木) 。19:30~22:00
*19:00開場
料金:1500円(ドリンク付)
会場:6次元(www.6jigen.com)
予約:件名を「カフェのある美術館ナイト」とし、 名前、人数を明記の上、rokujigen_ogikubo@yahoo.co.jp ナカムラまで。

青い日記帳監修の「カフェのある美術館 素敵な時間をたのしむ」。A5サイズで持ち運びにも便利でした。手にとっては美術館のカフェに出かけるのも良いのではないでしょうか。

「カフェのある美術館/青い日記帳/世界文化社」

「カフェのある美術館 素敵な時間をたのしむ」 世界文化社
内容:レトロでクラシックな内装のカフェ、大きな窓から緑と光があふれるカフェ、ユニークで個性的なカフェ、とっておきの料理が味わえるカフェなど、全29店を紹介。カフェのある美術館の建築の特徴から、コレクションの概要、ミュージアムショップまで、各美術館のこだわりと魅力がこの1冊でわかる美術館ガイド。コラムには、博物館や文学館のカフェも掲載。
監修:青い日記帳
価格:1728円
刊行:2017年2月
仕様:144頁
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「特集 河鍋暁斎」 美術手帖

いよいよ今月末、三菱一号館美術館で始まる「河鍋暁斎展」。「狂っていたのは、俺が、時代か?」とは何ともチャレンジングなサブタイトルです。楽しみにされている方も多いのではないでしょうか。


「特集 河鍋暁斎」 美術手帖
http://www.bijutsu.co.jp/bt/

その展覧会を目前にしての企画です。美術手帖の最新号で「河鍋暁斎」が特集されています。



コピーは「この絵描き、天下無敵。」。全体の監修を務めるのは山下裕二先生です。冒頭、田附勝氏による写真から目を引かれるもの。暁斎画をこれでもかというほどにクローズアップ。山下先生が暁斎の特徴として挙げる「二重性」のうち、「巨大×細微」における「細微」、つまり暁斎画の細部の繊細な筆致を目の当たりにすることが出来ます。

それにしても山下先生、何とも暁斎愛に満ちてはいないでしょうか。と言うのも、かつて京博で回顧展の行われた暁斎ですが、次に例えば東博で開催すればどのような展示をするのか。その具体的なプランまでを披露しています。さらには「勝手に重文指定」として、暁斎画に重文がないのはけしからんと、全9点の作品をまさに勝手に重文に認定しているのです。

さて今回の「河鍋暁斎」特集。実に幅広い視点が盛り込まれているのも特徴です。各方面で活躍するアーティストらが暁斎の魅力を語りに語っています。

まずはしりあがり寿さんです。題して「新富座妖怪引幕が出来るまで」。暁斎畢竟の大作の「新富座妖怪引幕」の制作プロセスを漫画化しています。実は私もこの作品、かつて成田山の書道博物館で見たことがありますが、僅か4時間で描き上げたとは到底思えないほどに充実。全17メートルにも及ぶ大画面に至極圧倒された記憶があります。それをしりあがりさんは、注文主である仮名垣魯文に着目し、暁斎との2人のやり取りを軽妙洒脱、面白おかしく表しました。



暁斎に「最高の評価」を与えている山口晃さんも登場します。山下先生との対談です。河鍋暁斎記念美術館を訪ねて「放屁合戦絵巻」や「美人図」の下絵などを鑑賞。暁斎の頭に3Dとなっているはずのモチーフが、画面では平面的になっていることなどを指摘しています。時には日本美術全般に話を広げては、暁斎の魅力についてさっくばらんに語っていました。

なおここに登場する河鍋暁斎記念美術館ですが、ご存知の方も多いのではないでしょうか。

場所は埼玉の西川口です。暁斎専門の美術館としても知られ、肉筆から下絵、画稿などを含め3000件も有しています。そして館長は暁斎を曽祖父に持つ河鍋楠美氏です。誌面でも暁斎が河鍋家でどのように語り継がれたのかや、美術館の設立などについてインタビュー形式で触れています。暁斎に最も近しい人物による貴重な証言として重要だと言えそうです。

読み物として私が特に面白く感じたのは、西尾康之さんによる「暁斎が本当に描きたかったものとは?」でした。



ここで西尾さんは暁斎の下絵、とりわけ線、さらには筆の太さや墨の濃さにまで言及しては、暁斎画を分析。また「女人群像」の描写から、暁斎は衣服にフェティシズムがあったのではないかとも述べています。

さらに暁斎は山姥をむしろ普通の女性として描こうとしていたのではないかも指摘。また「九相図」でも、死を死としてではなく、むしろ「華やか」であり、「自由になること」であると考えていたのではないか。そのようにも語っていました。

木下直之氏の「呑み、笑い、騒いでわかる 暁斎の時代の絵」も興味深いのではないでしょうか。



暁斎の時代にあった書画会を出発点に、現代の美術の在り方にまで引き付けて論じたテキストです。書画会の即興性が近代以降、消えてしまった一方で、現代のライブパフォーマンスに蘇っているのではないかという箇所も面白い。展示空間としての絵馬堂と美術館、さらには暁斎の春画についても踏み込んでいます。

ほかには20代の頃から暁斎が好きだったという天明屋尚さんのインタビューや、暁斎の年記に沿った「河鍋暁斎物語」なる漫画もありました。端的に展覧会に準拠した特集ではありません。

一号館での展覧会に向けても読んでおきたいのが「エシゾチズムを超えてー暁斎と外国人たち」です。



テキストは今回の企画を担当された三菱一号館美術館の野口玲一氏です。ここで暁斎と外国人、特に一号館美術館ともゆかりのあるジョサイア・コンドルに着目。海外の日本美術の受容を踏まえつつ、暁斎とコンドルの師弟関係について触れながら、相互に与えた影響などについて論じています。

またラストには一号館の暁斎展をはじめ、この夏、暁斎画を見られる展覧会もリストアップ。暁斎に関する書籍も紹介していました。



「画鬼・暁斎ーKYOSAI 幕末明治のスター絵師と弟子コンドル」@三菱一号館美術館
URL:http://mimt.jp/kyosai/
会期:2015年6月27日(土)~9月6日(日)

なお暁斎は次号の芸術新潮でも特集(6/25発売予定)があるそうです。私も読み始めたばかりですが、この美術手帖と芸術新潮の2大美術誌での特集を経ての暁斎展。大いに期待出来るのではないでしょうか。

「美術手帖2015年7月号/河鍋暁斎/美術出版社」

美術手帖2015年7月号、「特集 河鍋暁斎」は全国の主要書店で発売中です。まずはお手に取ってご覧下さい。

「特集 河鍋暁斎」 美術手帖(美術出版社)
内容:江戸から明治へと時代が大きく転換する頃、伝統技術を駆使した仏画や美人画、妖怪や骸骨が踊るユーモラスな戯画、春画まで、あらゆるものを描ける人気絵師がいた。自己表現を超えて、庶民に寄り添い、絵師として生きた河鍋暁斎は、いかにして時代の変化と名声の浮き沈みを乗り越えて、再び評価されるに至ったのか?多才が故にとらえがたい、その実態に迫る。
価格:1728円(税込)
刊行:2015年6月17日
仕様:192頁
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「ブルータスの『日曜美術館』。」 BRUTUS

今年、放送開始から40年を迎えたNHKの「日曜美術館」。現在の司会は俳優の井浦新さんとアナウンサーの伊東敏恵さん。井浦さんの美術に対する真摯な姿勢は、一視聴者として共感することも少なくありません。私はいつも再放送ですが、最近、見る機会が増えた気がします。


「ブルータスの『日曜美術館』。」(BRUTUS)
http://magazineworld.jp/brutus/
目次&立読み→http://magazineworld.jp/brutus/brutus-803/

40周年を期しての企画です。雑誌「ブルータス」にて「日曜美術館」の特集が組まれています。



メインの企画は歴代の日曜美術館のピックアップ。全2000回超の放送では「そうそうたる出演者」(*)が登場したこともありました。言わば伝説的とも呼べる放送回を取り上げています。



第1室はかの手塚治虫です。お題は絵巻の鳥獣戯画。先の東京国立博物館の展示でも大いに話題となりました。今から遡ること30年以上も前、1982年の11月の日曜美術館に手塚治虫が出演し、独自の切り口で鳥獣戯画を語りました。

実はこの回、今年の4月にアンコール放送されました。ご覧になった方も多いかもしれません。手塚治虫が理路整然、鳥獣戯画について語る様は、もはや感動的ですらありました。特にうさぎの目、その線の巧みな描写に言及しながら、現代のマンガと関連付ける点などは、同絵巻を見る一つの切り口として、大いに興味深いものがありました。

一つの絵師や作品を複数の著名人が取り上げたこともあります。例えば尾形光琳です。最近では2010年に佐藤可士和が「夢の光琳 傑作10選」に出演。名作「燕子花図屏風」のデザイン性について語りました。

一方でもう一つの名作、「紅白梅図屏風」について語ったのは永井一正です。時は1984年。「紅白梅図 デザイナー 光琳誕生」での放送回です。さらにその7年前、1977年には田中一光が「私の光琳」と題して出演。自らの作品に光琳画を落とし込む田中が、光琳を「江戸中期のバイタリティ、ぬけぬけとした強さを持っている」(*)と評価。三者ともデザイナーではありますが、それぞれに異なった視点が面白いもの。もちろんこういった比較、番組上ではなかなか叶いませんが、今回のブルータス上では実現しているというわけです。

教育テレビ50周年の年に番組名が「新日曜美術館」から「日曜美術館」に戻りました。その第1回目に出演したのが、現代美術家の村上隆でした。



回は奇想、曾我蕭白。村上自身が3本の指に入るというくらい好きだという絵師です。作品の現代性を評価し、蕭白には「画題を持っている本質を暴き出したいという、強い欲望」(*)があったのではないかと述べています。

なお蕭白の特集に関しては1997年、舞踏家の大野一雄が、美術史家の辻惟雄とともに出演したことがあったそうです。しかもその回では蕭白の「柳下鬼女図」の前で大野が踊り出したとか。誌面ではこうした番組上でのエピソードにも触れられています。

日曜美術館を切っ掛けとして話題となった作家も少なくありません。



題して「日曜美術館スター誕生!」です。田中一村、常田健、神田日勝、石田徹也らが取り上げられています。特に田中一村は1984年から2014年までの間、計5回も番組で特集されています。そう言えば千葉市美術館でも一村の展覧会がありましたが、普段、何かと静かな同館が大変に混雑していました。これも日曜美術館あってゆえの集客ということだったのかもしれません。

司会の井浦さんのセレクトによる「空想美術館」も実現したら楽しいのではないでしょうか。



これは架空の美術館を作るとして、館長たる井浦さんが美術作品を幅広く取り上げていくもの。全48件です。古代の奇石や縄文土器に始まり中世美術と続きます。またお好きなのでしょうか。最も多くピックアップされたのは江戸絵画でした。さらに近代日本画に現代美術までを網羅します。うち琳派では唯一、鈴木其一の「朝顔図屏風」が取り上げられていました。かつて東京国立近代美術館で行われたRIMPA展以来、もう何年も日本で公開されていない作品ですが、確かに「咲き乱れる朝顔が美しすぎて、怖さすら感じてしまう」(*)もの。私もまたもう一度、見たい作品の一つでもあります。



ラストの資料室と題した「日曜美術館と日本の美術界の40年。」も有用ではないでしょうか。上段に日曜美術館の放送の年譜、下段に日本の美術界の出来事を記した年表。司会者などに関する記述が少なかったのは残念でしたが、少なくとも美術史とリンクする形で番組の変遷を追いかけることが出来ます。

またここでは何よりも岡崎乾二郎による解説、「非歴史化しつつある美術館は新しい歴史の扉を開くのか?」が大いに読ませます。他の美術番組やサブカルの動向にも目を向けつつ、70年代以降の美術館の設立やそのコレクション、また近年のビエンナーレや大型展の状況などについて論じていました。



美術館へのお出かけは「40の美術館で見るべき、40の名作。」が参考になりそうです。

全国津々浦々の美術館、全40館をピックアップし、さらに各1点ずつ、コレクションを紹介する特集。さすがに日本中に目を向けているだけあり、私も行ったことがない美術館ばかりですが、うち一つ、この夏にでも訪ねたいと思ったのは埼玉の丸木美術館です。言うまでもなく「原爆の図」で知られる丸木位里と俊夫妻が拠点としていた美術館。ちょうど先日、「原爆の図」の里帰り展示が報道でも取り上げられていました。

「故丸木夫妻の『原爆』里帰り 9点、60年ぶり埼玉へ」(東京新聞)
「原爆展:米ワシントンで始まる 『原爆の図』も初公開」(毎日新聞)

全体のテキストは、ライターで、NHK NEWS WEBのネットナビゲーターでもお馴染みの橋本麻里さん。テキスト量も多く、当然ながら読み応えもあります。しばらく楽しめそうです。

なお日曜美術館では公式サイトの他に、40周年記念キャンペーンサイトも公開中。びじゅつ委員長のツイッターアカウント(@nhk_bijutsu)は既によく知られるところですが、さり気なくブログもなり頻繁に更新されています。そちらもあわせてご覧下さい。

NHK日曜美術館
http://www.nhk.or.jp/nichibi/

日美40|NHK日曜美術館
http://www.nhk.or.jp/nichibi/40/

日美40ブログ(井浦新さん&制作スタッフによるアート日記)
http://www.nhk.or.jp/nichibi-blog/

雑誌BRUTUSによる、その名も「ブルータスの『日曜美術館』。」 。6月15日から全国の書店、もしくはコンビニなどで販売中です。まずはお手にとってご覧下さい。(*印はブルータスからの引用です。)

「BRUTUS(ブルータス)/ブルータスの『日曜美術館』。/マガジンハウス」

「ブルータスの『日曜美術館』。」 BRUTUS(マガジンハウス)
内容:1976年にスタートしたNHK『日曜美術館』。40年も続く番組の中では、さまざまな肩書きを持つ出演者たちが、独自の視点で美術作品や作家を語りました。教科書や専門書には載っていない、彼ら彼女らの視点や言葉を読めば、美術の楽しみ方は無限にあることが分かります。
価格:650円(税込)
刊行:2015年6月15日
仕様:128頁
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「四時から飲み」 とんぼの本(新潮社)

新潮社とんぼの本の「四時から飲みーぶらり隠れ酒散歩」を読んでみました。

「四時から飲み/林家正蔵/とんぼの本」

明るいうちからお酒を飲んだことがありますか?

何度かブログでも触れたことがありますが、私自身、ひょっとすると美術よりも好きかもしれないお酒。これまでにも時に人があきれるほど酒を飲み、また飲まれてきたつもりですが、さすがに昼間の明るいうちから飲む機会は滅多にありません。



例えば平日に飲み会などがスタートするには早くても夜七時、お休みの日はもう少し前倒しして六時頃でしょうか。さらにたまに頑張って五時。とするとさらに遡って一時間、何故に四時なのか。まずはその四時という時間が妙に引っかかってしまいました。

結論からすると良い意味で言いくるめられました。そして私も今度は夕方四時からしずしずと飲もう。そんな気にさせられる一冊でもあります。



著者は噺家の林家正蔵さん。雑誌「東京人」に連載中の「ちょいとごめんなさいよ 四時からの悦楽」を再編集して刊行したもの。正蔵さんの「4時から酒」に関するスタンスに加え、都内津々浦々、夕方の四時でも飲める店が紹介されています。

では何故四時なのか。正蔵さんのテキストにあたってみましょう。

噺家という稼業をしていると、昼間の高座を終えれば、もう何の予定もなしなんて日がある。(略)家に帰って稽古をすればいいのだが、その気にもならず、(略)「一杯やろうか」という気持ちが浮かび上がる。(略)朝飲みは身上をつぶすし、ランチビールは気どりすぎ。後ろめたさと飲みたい気分をふるいにかけたら「四時飲み」がコロリと目の前に転がりでた。三時はおやつ、五時じゃあたり前。すると間をとって四時がいい。

いかがでしょうか。「三時はおやつ、五時じゃ当たり前。」と言われてしまえば、なるほど確かに四時だと納得してしまうのは、私のような飲んべえの悲しい性なのかもしれません。



もちろん実際に平日四時からお酒を飲むというのが難しいのは事実。その反面、夕方前から飲める店がいかに貴重であるのもまた事実です。しかも必ずしも昼間から飲める「せんべろ」、つまり1000円でベロベロに酔えるような店だけでもありません。いわゆる居酒屋にとどまらず、そば屋に中華に餃子、そしてフレンチからジャズバーまで、かなり幅広いジャンルの店がピックアップされています。



正蔵さんの地元は浅草、よって浅草界隈の店も目立ちます。冒頭は「水口食堂」。いわゆる有名な煮込みストリートの中のお店ではありません。そして総じてお酒よりもおつまみについて触れられているのも特徴です。またテキストも日記風。仕事を終えて電車に乗り、どこで降りてどういう店で飲んだのか。噺家の日常を捉えた軽妙なエッセイとしても楽しめます。



飲んべえとしては知らぬ者はいない北千住の「大はし」をはじめ、森下の「みの家」、東十条の「埼玉家」など、都心を除けば、下町の店が多いのも、千葉に住む私としては嬉しいところ。お店やおつまみの写真も雰囲気がある。浅草「むつみ」の小柱の釜めしに中野「第二力酒蔵」のキンキの煮付け。思わずよだれがこぼれてしまいます。

以前、拙ブログでもご紹介した「いま教わりたい和食」の平松洋子さんとの対談がありました。舞台は赤羽のまるます家総本店です。

「いま教わりたい和食 とんぼの本(新潮社)」(はろるど)



赤羽は言わば飲んべえの都内の聖地の一つ。その中でもまるます家は界隈随一の繁盛店、朝九時から飲めるというお店です。以前、私も赤羽を飲み歩いていた際に行きましたが、焼酎で流し込む鯉のあらいがまた美味しい。隣と肩が触れるほどに狭いコの字型カウンターも妙に居心地良かったことを覚えてます。

この対談で平松さん、四時飲みについてこんなことを仰っておられました。

「世間様に対して少し後ろめたくて、でもその後ろめたさも味のうち(笑)」



後ろめたさをあえて楽しみながらの夕方四時飲み、この一冊を片手に酒場なりへ繰り出してはいかがでしょうか。

「四時から飲み:ぶらり隠れ酒散歩/林家正蔵/とんぼの本」

「四時から飲みーぶらり隠れ酒散歩」 とんぼの本(新潮社
内容:世間ではまだまだお仕事中の午後四時、頭をさげつつ飲む一杯の旨さ。後ろめたさも味のうち、だから四時飲みはやめられない!地元・谷根千の穴場から、銀座、浅草、はたまた酒飲みの聖地・赤羽まで。教えたくないとっておきの名店30をご紹介。「何処かの店のカウンターで四時過ぎにお会いするのを楽しみにしております」(林家正蔵)
著者:林家正蔵
価格:1728円
刊行:2014年9月
仕様:127頁
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「宗達のすべて」 芸術新潮 2014年4月号

芸術新潮の今月号、特集「日本美術の七不思議ベスト1 風神雷神図に見る 宗達のすべて」を読んでみました。

「芸術新潮2014年4月号/宗達のすべて/新潮社」

現在、東京国立博物館の「栄西と建仁寺」展に出品中の宗達筆「風神雷神図屏風」。その展覧会にあわせての企画ということでしょう。芸術新潮でも「風神雷神図屏風」をテーマとした宗達特集が行われています。

「芸術新潮 最新号立ち読み 宗達のすべて」

ドンと表には風神様のアップ。書店で中をめくる間もなく、思わず表紙買いしてしまいました。メインの解説は自らを「萬美術屋」と名乗り、板橋区立美術館の前の館長である安村敏信氏です。またゲストエディターに橋本麻里さん。そして昨年の「描かれた都」を企画された板倉聖哲氏、兵庫県立歴史博物館学芸員の五十嵐公一氏らも執筆。ともかくかなり読ませます。

以下に内容を簡単にご紹介します。(ネタバレを含みます。)

まずは「はじめに」。本特集における安村先生の大きなメッセージは「宗達を伝説から解き放て」。かねてより認められて来た「風神雷神図屏風は宗達晩年の作品である。」ことを再考する。ようは良く分かっていない宗達の画業史を一からひも解いていく。改めて様式展開なりを分析しているわけです。



キーワードは9つです。「琳派への疑問」、「俵屋」、「モティーフ」、「ルーツ」、「技法」、「形式と構図」、「色彩と背景」、「後継者たち」、「制作年代の謎」。これに沿って誌面も進行します。宗達像を多角的に見据えていました。

さてともかくは「解き放て」。まずは宗達・光琳・抱一のそろい踏み云々で引用される「風神雷神図屏風」の問題。そもそも光琳は何も私淑て宗達画をトレースしたわけでなく、また抱一もオリジナルが宗達であることを知っていたわけではない。よって本作による「私淑によって継承された琳派」を半ば否定。さらに「光琳は宗達学習をしていない。」と踏み込んでいきます。



宗達を「ゼロからイメージを創造する人間」ではなく、「翻案のスペシャリスト」であると位置づける安村先生。宗達が若い頃に関わっていたという平家納経の修復作業。これが後の画風に大きな影響を与えたのではないか。また室町期の料紙装飾や絵巻、屏風、さらには宋・元・明の水墨。宗達が何を見て何を摂取し、何を表現していったのか。そして「風神雷神図屏風」における先行作品の存在です。よく言われるのは「北野天神縁起絵巻」ですが、その点についても細かく検証しています。

またここで面白いのが医学の立場から見た雷神のポーズです。「頸反射」の一種と見なす。神や鬼をモチーフにする際に何故にこの反射を取り入れたのか。一つの仮説が論じられています。



水墨画との関係も重要です。安村先生は中国の水墨画も宗達の料紙装飾に影響を及ぼしたとしている。また宗達はこれまでの日本絵画と違って「線に頼らない水墨画を成功させた」。たらし込みについての言及もあります。ただその後、例えば光琳は再び「線」に戻った。他の琳派のたらしこみも「宗達の志向した面的表現のため」ではなかった。そうも述べています。



また宗達の中国の水墨画との関連については、板倉先生がコラム「馬脚を現さないひと」で一部反論する形で分析。軽妙な語り口ながらも、宗達は具体的に参照したであろう中国絵画をピックアップ。もちろん図版の引用もお手の物です。宗達による中国絵画の「再編集」の有り様を見ています。

二曲一双というフォーマット、現存する作品では宗達の「風神雷神図屏風」が最も古いそうです。宗達は当時、あまり人気のなかった二曲一双をむしろ得意としていた。一方で彼の六曲一双の屏風は「構図が今ひとつ」と位置づける。小さな真四角や長大な和歌巻は得意としながらも、六曲のような「中距離」は「保たせられない」。その例として「舞楽図屏風」を挙げています。



ただここで問われるのが「蔦の細道図屏風」です。お馴染みのなだらかな地平が蔦と大胆に交わる構図。傑作とも称され、私も大好きな作品の一つですが、これはあくまでも宗達の工房の「エース級の職人」の作であると定義している。またそこから宗達の後継者、さらには光琳、抱一のいわゆる琳派変奏についても触れています。光琳は宗達の弟の宗雪から入ったのではないか。彼の有名な「紅白梅図屏風」も決して「風神雷神図屏風」を意識しているのではない。この辺の指摘は興味深いものがあります。



特集のラストは「制作年代の謎 風神雷神図屏風は晩年の到達年なのか」です。さらなるネタバレになるので、あえて触れませんが、半ばミステリーを追うようなスリリングな推論。一定の結末に達します。読み応えがありました。

また「白象図」などで知られる養源院の紹介や、宗達の年譜、さらには宗達画における金地について分析するコラムもある。それに光悦らの琳派の系譜ではなく、同時代の京狩野との関係に着目する。時に専門的でもあります。

「江戸絵画の非常識ー近世絵画の定説をくつがえす/安村敏信/敬文社」

他にはもう間もなく都美館で始まるバルテュスや一号館のバロットンについての小特集もあります。盛りだくさん。ともかくは琳派ファンにはたまらない宗達特集。そもそも芸術新潮で宗達が取り上げられたのも久しぶりではないでしょうか。楽しめました。

「芸術新潮2014年4月号/宗達のすべて/新潮社」

芸術新潮2014年4月号 宗達のすべて」(@G_Shincho) 新潮社
内容:特集「日本美術の七不思議ベスト1 風神雷神図に見る 宗達のすべて」、小特集「スイスのふたり バルテュスの遺香を求めて 19世紀生まれの現代画家ヴァロットン」、art news「ポルディ・ペッツォーリ美術館展」ほか
価格:1440円
刊行:2014年3月
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「いま教わりたい和食」 とんぼの本(新潮社)

新潮社とんぼの本の「いま教わりたい和食:銀座『馳走 そっ啄』の仕事」を読んでみました。

「いま教わりたい和食:銀座『馳走 そっ啄』の仕事/平松洋子/とんぼの本」

エッセイストの平松洋子さんが惚れ込んでは通い続ける銀座の和食店「馳走 そっ啄」。ご主人西塚茂光氏との親交もあるのでしょうか。軽妙ながらも含蓄のあるテキストです。西塚氏の手がける和食のエッセンスを巧みに引き出しています。

それに表紙の「トマト含め煮」しかり、和食を引き立たせる器も美しい。美術ファンとしては「器の盛り方」にも注目したいところですが、それ以前に和食好きの私にとっては嬉しい本。豊富な写真で目で見ても味わえる。思わず舌を唸らせてしまいます。



「季節には味がある。」本書においても春夏秋冬、扱うのは四季折々の食材です。全24種、118品。旬のものをいかにして楽しむのか。例えば春の筍です。掘り立て茹で立てをそのまま刺身にして味わう「刺身筍」。梅肉和えです。酸味も程よく利いているのではないでしょうか。



また車エビの挟み揚げに定番の筍ご飯も。そして筍の下ごしらえです。そもそも産地によって筍の個性は異なり、例えば京都産はえぐみが少なくて柔らかいために、下茹でも必要ない。一方で名産地として知られる大多喜産は歯ごたえがあり、むしろそれを楽しむのだとか。また部位によっても料理との相性が変わってくるのだそうです。



そして西澤氏の食材への率直な評価。この辺も読むべきところかもしれません。一例が大根です。市中に出回る青首大根を「料理の素材としてはまったくつまらない。」と一刀両断。替わって使うものとして亀戸大根を挙げる。もちろん希少性高く、一般ではなかなか入手出来ないそうですが、ここはプロの視点です。一度試してみたくもなります。



とは言え、家庭でも出来る知恵がさり気なく触れられているのもポイントです。冬の野菜の代表格、鍋でも定番の白菜はどうでしょうか。ここでは切り方に注目する。繊維に沿って切るのか逆らって切るのか。しゃりしゃりした食感が欲しい時は前者、甘みを取り出したい時は後者です。また煮える時間も変わってくるそうです。



鯖に関する西塚氏のコメントが興味深く感じました。「庶民の味」とあるように、量販店の鮮魚コーナーでは定番ともいえるの鯖の切り身。価格も手頃なため、私もよく買っては焼き、また煮たりしていただきますが、氏は鯖をむしろ「高級魚」であると述べている。「いい鯖は値段も高い。」その「おいしさには、幅がある。」のだそうです。

食材の簡単な歴史。日本人との関わり。そうした記述もあります。「和食はレシピではないと思うんです。」とは西塚氏の言葉。実際にもいわゆる「レシピ」は一切載っていません。あくまでも読み物です。



西塚氏の和食にかける創意、また裏打ちされた技術。「家庭料理と和食の世界はおなじ。」料理上手になるためのシンプルなヒントは随所に記されている。「素材に教わり、素材に寄り添ってつくる。」何かと調味料に頼ってしまいがちな私にとっては耳の痛い言葉です。

実のところ家で料理当番の私にとって台所はとても身近な場所。あくまでも毎日の生活、大したことも出来ず、時にルーティン的な作業に感じられることもないわけではありません。しかしその中で少しでも見つめたい和食の奥深さ。調理において覚えておきたい約束事。常に肩肘張ると疲れてしまうかもしれませんが、何か挟持のようなものを教わったような気がしました。

またとてもお酒が飲みたくなる本でもあります。各料理にどのようなお酒が合うのか。そうしたことを想像していくのも楽しいかもしれません。

「いま教わりたい和食 銀座『馳走 そっ啄』の仕事/平松洋子/とんぼの本」

「いま教わりたい和食:銀座『馳走 そっ啄』の仕事」 とんぼの本(新潮社
内容:平松洋子さんがほれ込む名店「馳走 そっ啄」。三年間のレッスンが伝えた和食の本質とは?味を足しすぎない、レシピはいらない、だしに頼らない。四季のめぐみを日常の中で味わうコツを伝授。24の旬の素材の活かしかた、いま教わりたい118品を収録。
著者:平松洋子
価格:1890円
刊行:2014年3月
仕様:158頁
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「変り兜:戦国のCOOL DESIGN」 とんぼの本(新潮社)

新潮社とんぼの本、「変り兜:戦国のCOOL DESIGN」を読んでみました。

「変り兜/橋本麻里/とんぼの本」

「鉄黒漆塗十二間筋鉢兜」に「金箔押唐草透風折烏帽子形兜鉢」に「大輪貫鳥毛頭形兜」。

何やら厳めしいまでの漢字がずらずら。実はこれ、いずれも戦国時代の武将の冠った「兜」の名称。しかしながらこれでは兜のイメージが浮かび上がってこないのも事実。その魅力までを伝えるのは難しいかもしれません。



では素直にビジュアルとして捉えた時はどうなのか。例えば一番目の「鉄黒漆塗十二間筋鉢兜」(上写真)はご覧の通り。凄まじくデコラティブな造形美です。渦を巻き、さながら大樹がそびえるように立つ二本の角。まさに勇壮。一度見たら忘れないほどに強烈なインパクトではありませんか。

ずばり本書は戦国期の兜におけるビジュアル面から読み解いていく。その上で何故にこうした「変り兜」が戦国期に生まれたのか。往時の時代背景や文化的素地を探る内容となっています。

著者はお馴染みの橋本麻里(@hashimoto_tokyo)さん。学術研究書ではありません。(兜の基本的知識については不足なく記されています。)聞き慣れない専門的用語で解説することなく、軽快でかつノリの良いテキストで、変り兜の美意識を引き出す。これが面白いのです。



中を見ましょう。まず目次から。いくつかのキーワードにて変り兜を分類していますが、そこからして個性的。例えば「マジンガー」に「タワー」に「ウサミミ」。ぐっと惹き付けられはしないでしょうか。



「タワー」は一目瞭然、鉢から上へ長い烏帽子が伸びているのが特徴。では「マジンガー」はどうでしょうか。ようはロボット、メカ風です。今のSFに連なるようなデザイン。実際に「マジンガー系一の美のシルエット」と名付けられた「黒漆塗錆尾形兜」(上写真右)では、永野護作のコミック「ファイブスター物語」までを引用します。



またマジンガー系の真打ちという「黒漆塗雁金形兜」(上写真)では橋本さんのテキストも最高潮に。もう興奮されたのか「キターーー(゜∀゜)ーーーー!!」というAAまで登場。確かに惚れ惚れするほど切れ味の鋭い曲線美です。とんぼの本らしかぬテンションの高い語り口でぐいぐいと攻め込んでいました。



私が驚いたのは「五輪塔六字名号頭立兜」(上写真右)です。鉢の上にのるのは五輪塔。そして南無阿弥陀仏の文言。まるで墓のようなデザインを何故に兜にしたのかと思いきや、元は密教における五大要素を組み込んだものだとか。またその隣のページにある「黒漆塗執金剛杵形兜鉢」(上写真左)も凄い。橋本さん曰く全掲載中最も「ドヤ感が強い」とのことですが、ぐっと伸びた腕が天高らかに金剛の杵を掲げる。肉感的。ロダンの彫刻を思い出しました。



もはや過剰なまでの装飾性。敵に己の姿をあえて示す武人の心意気。「かっこよくなきゃ戦う意味がない」とは橋本さんの言葉です。しかしながら意表を突くとでもいうのか、思いの外に地味でかつシンプルな兜も。それが「銀白壇塗合子形兜」(上写真)です。お椀を逆さに載せたような山型デザイン。それ以外の飾りは一切なし。秀吉の軍師、黒田官兵衛所用の兜だそうです。

ともかくこうした変り兜が次々と登場。その数60点。いずれも鮮明なカラー図版付きです。パラパラとめくりながらテキストを追う。思わず笑ってしまうほど面白いものも少なくありませんでした。

さて一方で言わば『読ませる』箇所があるのも本書の大きな魅力です。それが「変わり兜とその時代」と題した4つのコラム。うち3つは橋本さん。戦国時代や洛中洛外図における都市の様相、また戦場での武士の戦い方(これが一番面白い。)などについて書かれています。



そして最後の4つ目は「変り兜はこうして生まれた」。歴史研究者である藤本正行氏の解説です。南北朝時代にまで遡り、変り兜の登場過程や特徴についてまとめている。論功行賞と兜の関係。目立つ兜は敵を威嚇しただけでなく、味方の士気も高めた。また図説「日本の甲冑ヒストリー」も。時代において意匠も変化した甲冑。室町と安土桃山。それぞれの甲冑の特徴の違いを知る方がどれほどいるでしょうか。実に参考になりました。

変り兜。例えば東博常設の甲冑の展示でもいくつか見ることが出来ます。しかしながらこれまでは不思議とそう足を止めることはありませんでした。しかしながら本書を読んだ後は別です。時にヘンテコな造形。それが如何に面白いか。むしろもっと見たいという欲求にかられました。

さて最後に一つ、兜に関する展示の情報です。年明け早々、三島の佐野美術館にて「戦国アバンギャルドとその昇華 兜 KABUTO」展が開催されます。



「戦国アバンギャルドとその昇華 兜 KABUTO」@佐野美術館(2014/1/7~2/11)

主に戦国時代の兜や鎧、約40点の他、兜などの描かれた屏風絵や武具まで、約150点ほどが展示されるそうです。同館サイトのリリースを見ると、この著作に出てくる変り兜の図版もあります。会期は一ヶ月ほどと短めですが、とんぼの本を片手に出かけたいものです。(残念ながら橋本さんのトークはないようです。)

新潮社とんぼの本シリーズから「変り兜:戦国のCOOL DESIGN」。おそらくこれほど今の感覚に引き付けて兜を紹介した本は他にありません。是非ともおすすめしたいと思います。

「変り兜:戦国のCOOL DESIGN/橋本麻里/とんぼの本」

「変り兜:戦国のCOOL DESIGN」 とんぼの本(新潮社
内容:戦場のオシャレは命懸け。兜は見た目が9割?戦国の武将たちが競いあうように作らせた「変り兜」60点を一挙公開。虫愛づる殿やカニ将軍、ウサミミ男子にSFマジンガー系など、キッチュでバサラな造形はなぜ生れたのか。そもそも「戦国時代」とは何か。合戦のリアルな真実とは?ワビ、サビ、イキだけではない、「B面」の日本美が明らかに。
著者:橋本麻里。ライター。編集者。明治学院大学非常勤講師(日本美術史)。1972年神奈川県生れ。国際基督教大学教養学部卒業。
価格:1680円
刊行:2013年9月
仕様:125頁
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「神のごときミケランジェロ」 とんぼの本(新潮社)

新潮社とんぼの本、「神のごときミケランジェロ」を読んでみました。

「神のごときミケランジェロ/池上英洋/とんぼの本」

「私たちは彼のことをまだ知らない。」

冒頭に記されたこの一文、確かにレオナルドにラファエロと並ぶ三巨匠としての地位や、「ダヴィデ」に「最後の審判」程度は知っているものの、どのような人生を辿り、またどれほどの作品を残したのか。そう問われれば、美術史を学んでいればともかく、なかなか答えられるものではありません。

本書ではミケランジェロの業績を、主に時間軸、つまりは彼の人生に沿って紹介。作品の図版をあげながら制作の意図、さらには美術史にとどまらず、一部社会的な背景までを取り込んで、ミケランジェロの全容を詳らかにするものとなっています。



はじめはミケランジェロの残した3つの大きな業績から。言うまでもなく、彫刻、絵画、建築です。絵画には「絵画嫌いの大画家」というサブタイトルが。かの巨匠、絵画は自分の本分ではないとして、制作依頼から「逃げ回っていた。」(本文より。)そうです。残された業績からすると信じ難いものがあります。

出自は没落貴族です。彼は後にその出を誇ったものの、実際はかなり貧しく、6歳にして母を亡くしてもいます。ちなみに三巨匠、いずれも同じように母の愛を受け容れられない状況で育ったそうです。

デビューが「詐欺」とはセンセーショナルです。ミケランジェロは枢機卿より注文を受けて「眠れるクピド」を制作しますが、記録によれば、ある助言により、完成した作品を土に埋め、古色をつけたとのこと。

その行為は一度バレて、作品自体は返却されますが、枢機卿は作者に興味を持ち、結果的にミケランジェロの芸術家としての道を開くきっかけになります。ただでは転びません。



かのダヴィデ像が実は今と別の場所に置かれる可能性があったことをご存知でしょうか。

現在はヴェッキオ宮殿の入口に置かれていますが、(レプリカです。)そもそも大聖堂の内部を飾るための作品であったこともあり、当初は聖堂の正面に置かれる予定だったそうです。また宮殿でも回廊の下を推すレオナルドらと対立、結局ミケランジェロの主張が通って入口に置かれることになります。



ちなみに年齢差こそあるものの、ほぼ同時代を生きたレオナルドとの関係についても本書では触れられています。「美男で優雅」なレオナルドなのか、それとも「無骨で怒りっぽい」(ともに「」内は本文より。)ミケランジェロなのか。その辺の対比もポイントかもしれません。

制作においてミケランジェロの姿勢なりを伺えるエピソードとして印象深いのが「システィーナ礼拝堂」の天井画です。

描画面の合計は1000平方メートル、描かれた人体総数は300名にも及ぶという超大作ですが、ミケランジェロは自ら声をかけて集めた6名の画家や助手を途中で全て首にしてしまい、その後は一人で描いたとか。彼らの出来に満足がいかなかったそうです。



畢竟の名作「最後の審判」も当時は悪評で迎えられます。それもあってか完成後には別の人物によって加筆が行われますが、むしろそのおかげで作品そのものの破壊を免れたとのこと。またこの幻想的な作風の背景には一人の女性の存在があったことに触れられています。

本書はミケランジェロの作品を単に美術の立場からのみ分析したものではありません。彼を取り巻く人々、そして社会状況にも言及。そもそもミケランジェロはフィレンツェで革命軍に参加し、共和国政府の軍事技師の任務も行っています。(一方でその後の粛清からは逃れて、共和国の敵であるメディチ家のために仕事をしました。)



ラストはずばり「ミケランジェロとは何者か」。晩年の制作と生活。家族を持たなかった彼は使用人や弟子たちを養っていたとあります。果たして彼は今の名声を予想したでしょうか。

お馴染みとんぼの本ということで写真も多数。また「最後の審判」図像プログラムなど、作品鑑賞の助けとなりそうな図版もあります。


「ミケランジェロ展ー天才の軌跡」@国立西洋美術館(9/6~11/17)

国立西洋美術館で開催中のミケランジェロ展への導入に限らず、その存在を分かりやすく、また専門的にまとめた一冊。実のところこれまで殆ど作品を見たことがなかったせいか、ミケランジェロに対しての思い入れがありませんでしたが、本書を踏まえるとともかく圧倒。「神のごとき」であることに頷かされるとともに、どこか親しみも覚えました。

「神のごときミケランジェロ/池上英洋/とんぼの本」

「神のごときミケランジェロ」 とんぼの本(新潮社
内容:「ダヴィデ」、「最後の審判」、「サン・ピエトロ大聖堂クーポラ」ー彫刻、絵画、建築のすべてで空前絶後の作品群を創りだし、「神のごとき」と称された、西洋美術史上最大の巨人。教皇や国王と渡りあった89年の波瀾の生涯と、変化と深化を続けた作品の背景をていねいに解説。最新の知見をもとに全容をひもとく、待望の入門書。
著者:池上英洋。美術史家。東京造形大学准教授。イタリアを中心に西洋美術史、文化史を研究。1967年広島県生まれ。東京藝術大学卒業、同大学院修士課程修了。
価格:1680円
刊行:2013年7月
仕様:126頁
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「日本美術総まとめ」 BRUTUS

雑誌「BRUTUS」最新号、特集「日本美術総まとめ」を読んでみました。

「BRUTUS/日本美術総まとめ/マガジンハウス」

バンと見開きに「松林図屏風」から始まる特集「日本美術総まとめ」。東京国立博物館ことトーハクに完全準拠。同館の所蔵品から、考古、絵画、工芸のジャンルを問わず、日本美術を年代別に辿っていく企画となっています。



しかしながら単に年代別とは言え、教科書的な解説で済ませるわけではないのがブルータス流。様々な作品のエッセンス、魅力を親しみやすいテキストで紹介。実際に作品を見た方には「そうそう。」と頷き、また作品を見てない方には「見たい!」と思わせるような語り口です。構成の橋本麻里さんのセンスが光っていました。

では早速、少し中身を。まずはその年代別の美術品。はじまりは縄文です。各時代には例えば縄文は「縄文は爆発だ!」、また弥生・古墳時代には「用の美で行こう。」などのキャッチーな見出しがつきます。



また思わずうまいと感心したのは平安時代を「不安時代。」としていることです。半ば意に反し、地震や噴火や疫病などの災厄に襲われたかの時代。そこから救いを求めるための密教と浄土教の話へ。彫刻中心だった仏教美術において曼荼羅などの仏画が重要になるのもこの時代です。美術を常に社会と関連付けて解いています。

さらに鎌倉の仏像を「人間だもの。」だとするのは端的ながらも明快です。確かに鎌倉の仏様、運慶仏をあげるまでもなく実に「リアリティ」に富んだもの。それに「地獄草紙」を地獄ガイドブック、ミシュランとも紹介。コピーが作品の核心、要点を突きます。



圧倒的なビジュアルで攻めるのは安土桃山。「黄金時代。」と名付けられた永徳の「檜図屏風」です。作品は現在、修復中で、来年に東博で公開される予定ですが、よく表紙を見てみればこちらも同作品が。口に筆をくわた永徳が、大見得を切るかのように檜図へ向き合う姿が描かれています。もちろん絵を手がけたのは一目瞭然、山口晃さんです。

また東博の常設ではともすると影の薄い近代美術についても言及。ずばり「迷える近代。」。そもそも東博は明治5年、ウィーン万国博への出品作を展示した日本初の博覧会を創設の年としています。

その他には日本美術の贋作事件や日本美術のコレクターさんの紹介、また東博の出品予定スケジュール表なども。うち特に興味深いのは「教えて中の人、美術品の扱い方。」



いつもガラスケースの中にある状態でしか見たことのない作品たち。それが一体、展示や調査にあたってどの扱われているのか。簡単なイラストで分かりやすく紹介しています。安定しない壺は中に重しとして砂袋を入れて扱っているのだとか。初めて知りました。また陶磁のケースは全て免震機構が採用されているそうです。

さて最後にもう一つ忘れていけないものが。現在平成館で開催中の特別展「和様の書」についての特集。これまた良く出来ています。



タイトルは「ブルータスの美文字練習帖 書いて楽しむ『和様の書』」。ずばり書が読めなくても展示を楽しめるよう工夫された企画。また練習帖とあるように「なぞり書き」のコーナーまで。しかもわざわざ紙の質を変えてノート風にしているのです。何と芸が細かい!



「BRUTUS 日本美術総まとめ」特集号@マガジンハウス

ブルータスの「日本美術総まとめ」。さすがに楽しめます。「和様の書」はもとより、この夏、丸一日、東博の展示を見て回るのにも最適な一冊ではないでしょうか。

「BRUTUS 2013/8/15号/日本美術総まとめ/マガジンハウス」

東博のショップでも扱っていました。まずはお手にとってご覧ください。

「日本美術総まとめ」 BRUTUS (ブルータス)
内容:東京国立博物館(トーハク)に行けば、ぜんぶわかる!日本美術総まとめ。
価格:600円(+税)
刊行:8/1発売(8/15号)
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「日本美術をめぐる旅」 pen

雑誌「pen」8/1号、特集「日本美術をめぐる旅」を読んでみました。


「Pen (ペン) 2013/8/1号/日本美術をめぐる旅。/阪急コミュニケーションズ」

「日本という国土に、美という概念が生まれたのは一体いつのころだろう。」

という書き出しからはじまるpenの日本美術特集。当然ながら写真や図版もふんだん。多様な日本美術を専門家の「案内人」が紹介していくという企画。いつもながらに見て読ませる内容でした。



切り口は「水墨画」、「障壁画・絵巻」、「茶の湯」、「仏画」、「建築・庭」、「伊藤若冲」、「縄文美術」の7点。それぞれを各専門家のガイド、テキストを頼りに、美術館や名刹、そして作品をピックアップしながら、その魅力を探るものとなっていました。

「水墨画」 板倉聖哲(東京大学文化研究所教授)
「障壁画・絵巻」 山口晃(画家)
「茶の湯」 木村宗慎(茶人)
「仏画」 横尾忠則(美術家)
「建築・庭」 藤森照信(建築家)
「伊藤若冲」 辻惟雄(MIHO MUSEUM館長)
「縄文美術」 石倉敏明(秋田公立美術大学講師)


では早速、中身を簡単に追っていきましょう。まずはお馴染みの山口晃さんから。



取り上げるのは障壁画に絵巻。ここではモチーフ云々よりもまず障壁、襖絵などの空間構成に注目。西本願寺の白書院における類い稀な奥行きへの志向を看破。さらには一見、目立たない「竹檜の間」の障壁の金の蒔き方に目を向け、描かれた竹と金との対比を。これまた奥行きを生み出していることについて触れています。



そして絵巻ではかの有名な舟木本の「洛中洛外図屏風」。ここでも画面に広がる金の雲に注目。特に舟木本は雲が建物の邪魔をしていないと指摘した上、その下に街がある感覚をうまく表していると述べています。

また絵巻では「松姫物語絵巻」の「下手の魅力」について言及。「巧まざる部分に関しての感性が日本にはある。」という突っ込みも。単なるヘタウマではない新たな絵巻の面白さを提示しています。

山口さんで長くなりました。続いて面白いのは横尾忠則の仏画。実は横尾氏、禅寺で修行経験を1年ほど積むなど、禅に造形が深いとか。教えを視覚的にも伝える仏画の数々。それを「絵の力」というキーワードで解説しています。



注目は縄文です。ここでは人類学者の石倉敏明氏が「縄文とは、時の古さとは裏腹に今まさに新しく発見されている美といえるのではないか。」という言葉を。土偶の魅力について切々と説いています。



こうした水墨に仏画といった括りに対して、単独の画家で取り上げられているのは伊藤若冲。ガイドはお馴染みの辻先生です。ちょうど7月27日(土)から福島へ巡回するプライスコレクション展にあわせてか、例の升目屏風「鳥獣花木図屏風」が。その他には鹿苑寺の障壁画や石峰寺の石仏についての記事もありました。



とじ込み付録では「三大博物館の至宝」と題し、東博、京博、奈良博のコレクションを紹介。ごく簡単な解説と図版による構成ですが、次の出展期間について触れているのが嬉しいところ。それによると抱一の「夏秋草図屏風」は9/18から東博で展示されるとか。これは楽しみです!

「日本美術をめぐる旅」特集、ちら見せします!@Pen

またPenで有り難いのは価格が安いこと。600円です。テキスト量が意外と多く、時間をかけて楽しむことが出来ます。

なお8/1発売予定の「BRUTUS」最新号でも日本美術を取り上げるとか。こちらも追っかけたいものです。

「Pen (ペン) 2013/8/1号/日本美術をめぐる旅。/阪急コミュニケーションズ」

雑誌「Pen」8/1号(7/16発売済)、「日本美術をめぐる旅」。まずは書店にてご覧ください。

「日本美術をめぐる旅」 Pen (ペン)
内容:日本美術をめぐる旅。日本という国土に、美という概念が生まれたのは一体いつのことだろう。紀元前1万5000年前にまでさかのぼるという縄文時代には、既に美しい紋様が生みだされ、人々の暮らしのなかに息づいていた。(略)そこでPenは、全国各地に散らばるさまざまな名勝や作品を、エキスパートの解説のもと取材。さあ、未知なる日本美術の旅へ出かけよう。
価格:600円(+税)
刊行:7/16発売(8/1号)
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