大阪:九条シネ・ヌーヴォにて6月2日より公開!(http://www.cinenouveau.com/)
兵庫:宝塚シネ・ピピアにて6月30日より公開!(http://www.cinepipia.com/)
映画公式HPhttp://suzushirodaikon.com/
*渋谷アップリンクでの上映は終了いたしました。ありがとうございました!
大阪:九条シネ・ヌーヴォにて6月2日より公開!(http://www.cinenouveau.com/)
兵庫:宝塚シネ・ピピアにて6月30日より公開!(http://www.cinepipia.com/)
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*渋谷アップリンクでの上映は終了いたしました。ありがとうございました!
4月27日(金)までは11時(1回)~上映ですが、
4月28日(土)・29日(日)は15:15~の1回に変更になります。
たとえ明日地球が終わろうとも 僕は今日リンゴの木を植える
最初に出てくる字幕、「たとえ明日地球が終わろうとも、僕は今日リンゴの木を植える」、これは、マルチン・ルターの言葉だと言われておりますけれど、素晴らしいですね。とりわけ「3・11」後の、今の日本にもぴったりと当てはまる言葉だと思います。秋田啓子さんという劇団のリーダーの方が好きな言葉だそうですけど、これは有名な言葉で私も他の映画で知りました。その映画は「林檎の木」というドイツの作品ですが、「ベルリンの壁」崩壊後のドイツの歴史的変動と、あるリンゴ園の家族を描いた実に興味深い話でした。リンゴというものは非常に色んな意味を込めて象徴的に使われる言葉だと思います。今回の映画でも冒頭にデンと出てきて、ぐっと引きつけられました。
まず、この映画の成功をお祝いしたいと思います。ドキュメンタリーとして技法が特に優れているというわけではなくて、「すずしろ」(=“大根”のエレガントな表現がおしゃれ!)という高齢者男女の素人劇団がニューヨーク・ブロードウェイで英語で公演しようという野心を実現できた、そのこと自体がまず大成功。この映画からその歩みが誠実に伝わってきます。
みごとな秋田啓子さんのリーダーシップ
映画を成功に導いた要因の一つは劇団創設者の「秋田啓子さん」だと思うんです。素晴らしいリーダーですね。聞くところによりますと、日本には100くらい素人シニア劇団があるそうですね。この劇団も男性より圧倒的に女性が多い。私の世代なんですね。主婦であったり、元事務員であって今は定年退職した人たち。自分のことを考えてみても、こう世代の人たちは海千山千なんですね。素直に「うん、うん」とは言うことを聞かない。しかも、最初は失礼ながらあの英語力ですよ。それを、ブロードウェイで英語で演ってしまうまでに持って行く。技術的なトレーニングは当然ですけれど、そこにみんなの意見を集約していく。いろんな事を言いますよね、家族や自分の病気の話もあれば、お金のことや、そもそもそこまでやる目的がどうなのかなどと。それを各自言うだけ言わせてじっと聞いていて、それでもできることとできないことを考えに考えて、グループをまとめていく。その度量というか忍耐力と、自分自身でぶれないところ。秋田さんは見事なリーダーシップの役割モデルです。
発想のしなやかな演出の倉田さん
それからもう一つの要因は演出家の倉田さん。この方が非常にうまい。メンバーたちの子か孫くらいの年齢でありながら、素人の高齢者の力量を最終的には130%引き出していますよね。その姿勢を見ていますと、出しゃばらない、じーっと片隅からおじいさんおばあさんたちが色々言うのを黙って見ていますよね。それなのに自分が彼らの演技で欲しい部分は妥協しない。高齢者と若者のコラボレーションのモデルだと思いました。若い人は人生経験がないために未熟者ですから、日常でもハラハラする場面や腹立つところがありますけれど、何と言っても感性が素晴らしいですよね。それと発想がしなやか。そのうえ倉田さんは倉本聰さんの富良野塾で訓練された専門家ですから。
若者と海千山千のシニアとのコラボレーションの素晴らしさ
素晴らしい若者の演出家と、演技する海千山千の人たちとのコラボレーションの素晴らしさ。これからは、高齢者は若い優秀な人達を指導者として迎えると、かえっていいと思います。高齢者が高齢者を指導するよりはですね、こういうあり方っていうのはこれからいろんな可能性を期待できるのではないでしょうか。印象的でした。
共同通信の記者時代に文化部というところにいて、外国から色んな文化的なニュースが入ってくるのを処理することもありました。その中で今でも覚えている非常に面白かった一つに、<ウィーンではただいま素人老人劇団が大流行りである>というニュースがありました。もう20年くらい前のことですが、何が面白かったかと言うと、「団員は老婦人ばっかりだ」というくだりです。初めは男女同数くらいいても男性がどんどん去っていく。何故去っていくかというと、男性はグループに入るとまず役職を決める。会長とか部長とか組織化して、隊列を組んで“仕事”にしてしまう。せっかくフリーで楽しくやろうとしているのに、型にはまってやろうとするから面白くなくなってしまう。そして誰もついて行かなくなって孤立して一人去り、二人去りしてしまう。男性は仕事も余暇の楽しみも同じようにしかできない。女性は職場で偉くなる人も少ないし、我慢や妥協しながらでも何とか工夫しながらやっていく。主婦は主婦で子供なんて言うこと聞かないし、亭主は首に鈴付けたって戻ってこない。そういうのに耐えながら何とかしながら、とにかくうまく目的に向かってやっていく。女性は平場(ひらば)の関係で協力していくのに慣れている、と言うわけです。
「北京好日」のこと
もう一つ思い出したのですが、中国映画の「北京好日」(1993)。ニン・インという女性監督の作品で、こんな話です。北京のある公園の日だまりに昼間老人たちが集まって、京劇の練習をしている。場所がないので青空の下で女声だしたりして、わいわいやっている。ある日そこを通りかかったのが、昨日定年退職したばかりという一人の老人。元国立の大劇場の俳優ではなく管理人でしたが、毎日何十年と俳優のことを見ているので全部芝居のことは分かっている人なんですね。見物しているうちに素人俳優らに「それ違うよ」とか指摘をして、自分も仲間入りをすることになった。善意なんだけど、そのうち仕切り始めてしまう。そして内部でトラブルが起きて辞めてしまうんだけど、芝居をみんなで作りあげるという喜びに気が付き、いろいろあった後また戻って、みんなで全国大会を目指す、というあったかいいい話です。DVDが出ていると思いますので、お勧めです。人生を楽しむことと、皆で諦めないで目的に向けて一所懸命やっていくということと、ジェンダーの問題ってあるかもしれないなーと思って、非常に印象深かった映画です。
伝えたいハートが大切
それにつけても劇団「すずしろ」は世界的レベルから見ても運営の仕方、協力の仕方は抜群に素晴らしい。日本の劇団は国際的にも堂々と肩を並べられるんではないかと思いました。皆さんもブロードウェイであったり、ロンドンであったり、どこでもいいですから、どんどん出て行ってさらに挑戦されるといいなと思いました。決してひけをとることはない。また、ニューヨークの観客も温かいですよね。
英語のことで言いますと、一人だけ84歳の帰国子女の方がいらっしゃいましたね。彼女の英語はパーフェクトでしたが、彼女以外は、最初はあんな英語で大丈夫?というレベル。あれなら私だって、ってみんな思いますよね。中でも親しみを持ったのは、中学時代は就職組と進学組に分けられて自分は就職組で英語の授業がなかったっておっしゃっていた植木屋さん。最後は素晴らしい舞台になった。私は同い年なので嬉しかった。そういう人でも帰国子女と同じ舞台で演じて、あれで通じるんだということも自信になりますよね。発音が「L」と「R」の違いだとか「T」と「TH」の区別だとかを強調しなくても大丈夫だ、ということが映画で分かりましたよね。それより大事なのはハート。伝えたいというハートのこもった演技が大事。もっとも、ABCも言えなかった人があれだけやるんですから。ご本人たちは本当に大変な努力をされたことと思うんですけれども。
最後に、先日、女優・劇作家の渡辺えりさんがこの映画のトーク付の特別試写会でおっしゃったことで、共感したことがありました。高齢者の演技が我々プロでは及ばない素晴らしさがある、とおっしゃったんです。技術的な意味というよりも生活実感を持っている人達が演じる。ちょっとモノを取るというような場面でも、年寄りで事務員をやってきただとか、植木屋さんをやってきたという人生の経験を持った人がモノを取る、そのリアリティは他では出せない。叶わないほどのメッセージ力がある、と言うことをおっしゃっていました。プロがおっしゃったのを聴き、我が意を得たりと思いました。
残りの歳月を考える年齢になり、これまでやり残してきたことや夢に挑戦してみたいという高齢者も多いと思います。舞台の上で演技する快感、自分自身も学芸会や大学英語劇などで覚えがあります。この映画は、夢に挑戦する勇気と懐かしさを思い出させてくれた大好きな1本です。(了)