窪田恭史のリサイクルライフ

古着を扱う横浜の襤褸(ぼろ)屋さんのブログ。日記、繊維リサイクルの歴史、ウエスものがたり、リサイクル軍手、趣味の話など。

交渉戦略研修に参加しました

2012年10月11日 | 交渉アナリスト関係


  10月5日と6日の2日間、株式会社トランスエージェント主催の「交渉戦略研修」に参加してきました(本記事掲載の写真は「NPO法人日本交渉協会」提供によるものです)。



  講師はNPO法人日本交渉協会専務理事、名古屋市立大学大学院経済学研究科教授の奥村哲史先生。アメリカの大学院で使われているようなケースを使い、2日間に渡りロールプレイ方式でそこに含まれる交渉理論を学びました。



  簡単な自己紹介を済ませると、早速ケーススタディに入りました。午前と午後でビジネスシーンで最も一般的な取引型交渉を2つ行いました。お互いからどれだけ情報を聴き出すことができ、かつそれを双方にとってより良い成果のために活用できたかが交渉のポイントでした。一見自分にとって不利と思われる情報も、交渉次第で有利な情報として利用しうるということ、そうした可能性をお互いがどれだけ引き出すことができるかが、大切であるということを学びました。それなりにやれたと思っていたのですが、解説を聞いて、まだまだ可能性があったと思いました。

  また、お互いが最も重要と考えている交渉のポイントをトレードすることにより交渉の可能性を大きく広げることができるということも学びました。しかしながら、多くの交渉者は既定の枠組みにとらわれ、相手から有効な情報を得るために率直な質問をしていませんでした。これは、初めから交渉のパイの大きさは決まっており、それをどう奪い合うかに過ぎないという思い込み、相手の提示条件に引きずられてしまうなど、可能性の掘り起こしを妨げる様々な認知バイアスが働いてしまうためです。さらに、パイを大きくした後もさらにそれを分配する「奪い合い」は厳然として存在する、この点が意外と盲点だと感じました。



  2日目は、紛争解決交渉と三者間による提携や同盟のための交渉についてケーススタディを行いました。さらに、ある映像から、そこにどのような認知バイアスが隠れていたかについて議論しました。

  この日は利害だけでなく、構造的な問題、さらには感情が絡むという点が昨日とは違ったところでした。しかし、ここでもやはり互いの要求をぶつけ合いながら、埋もれている可能性を掘り起こし解決に結び付けていくことができるかが大切だと感じました。また、逆にこの日のようなケースでは、第三者的立場をとれる人の役割が非常に重要となるということを学びました。

  また、利害関係がはっきりしており、互いの力関係は不均衡、それでいて相互依存関係にあるケースでの交渉では、実際の国際社会でも見られるように、客観的な力関係に勝る者が常に交渉でも有利とは限らず、場合によっては誰も望まない「囚人のディレンマ」ゲームのような結果を生むこともさえあり得るということを体験しました。

  そして、今回の研修の最後に、ある交渉事例の映像を観て、そこにどんな認知的バイアスが隠れていたかについて議論しました。認知的バイアスの厄介なところは、それが無意識に働き判断に影響するという点です。こうして結果論として色々指摘することはできるかもしれませんが、いざ当事者となった場合、どれだけ自分の判断や行動にバイアスがかかっていないかを見極めることができるか、非常に難しいところだと思いました。

【今回のおすすめ書籍】

マネジャーのための交渉の認知心理学―戦略的思考の処方箋
クリエーター情報なし
白桃書房


「話し合い」の技術―交渉と紛争解決のデザイン
クリエーター情報なし
白桃書房


影響力のマネジメント
クリエーター情報なし
東洋経済新報社


交渉の達人
クリエーター情報なし
日本経済新聞出版社


信頼の構造: こころと社会の進化ゲーム
クリエーター情報なし
東京大学出版会


  繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした

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第26回YMSを開催しました

2012年10月11日 | YMS情報


  10月10日、横浜市開港記念会館にて、第26回YMSを開催しました。

  今回の講師はデザイナーの高橋正実さん。東京都墨田区生まれ、墨田区育ちの先生は、墨田区のイメージキャラクターや東京スカイツリーのエレベーター、成田空港の壁画など数々のデザインを手掛けておられますが、その特徴は「モノ」だけでなく、社会の未来像やライフスタイルなど「コト」にも踏み込み、デザインによって企業や地域が活性化することを一貫した信条として目指しておられるという点です。



  実は、当社商品「特殊紡績手袋 よみがえり Mariage」の新パッケージも先生にデザインしていただいたものですが、パッケージそのものより、その背後にある伝えたいメッセージに打合せのほとんどを費やした記憶があります。

  というわけで、今回のテーマは「東京スカイツリーエレベーターデザイン-地域の歴史を未来へ繋ぐデザイン-ものづくりを創造する」、スカイツリーに限らず、過去と未来を繋ぎ、新しい世界を創造するというデザインの果たす役割についてお話しいただきました。



  まずは成田空港第一ターミナルの南北ウィングを繋ぐ、金銀の金魚の壁画と葛飾北斎の浮世絵をコラージュした壁画。上の写真は僕が成田空港で撮影したものですが、ご覧のとおり壁面一杯に広がる、大規模なものです。金魚は先生が若いころにデザインされたものということです。また、94歳まで生きた北斎が残した、江戸庶民の生活を伝える膨大な記録ともいえる浮世絵のコラージュは、東京ひいては日本を世界にPRする絶好の材料であるということで、取り入れたものだそうです。因みに、葛飾北斎は墨田区本所の絵師でした。

  現在は過去の歴史の蓄積と、人が想像力によって補う未来の両方の影響の下で成り立っています。伝統文化が伝える技術、モノづくり、素材を大切にする習慣、美意識などは、国内外を問わず現代社会が抱える問題の解決に様々なヒントを与えてくれる可能性を秘めています。デザインとはその手段であり、必ずしも個人的なものに限定されるものではないということでした。

  高橋先生は、中小の製造業がひしめく墨田区で育ち、幼いころから工場に出入りしては、「あんなものがあったら面白い、この技術でこんなことはできないかな」と大人たちと会話して楽しんでいたそうです。工場ブームの火付け役ともなった先生の御著書、『工場へ行こう!!』(美術出版社)には、そんな先生の思いを反映した、ユニークなアイデアと技術を持つ中小の工場が数多く紹介されています。



  そんな先生の価値観が、上のラーメンフォークにも表れていました。こちらは、名古屋のラーメン屋「寿ガキヤ」さんのためにデザインされた、麺とスープが同時に楽しめるフォークです。個人的には何となく名古屋らしさを感じるのですが、単に実用的であるというだけでなく、地域を盛り上げるグッズとして話題となり、MoMA(ニューヨーク近代美術館)のグッズとしても販売されているそうです。

  昨年オープンした、墨田区にある東京スカイツリーのエレベータデザインにも、「過去と未来の融合の結果としてデザインされた現在」が一貫して表現されています。まさに現代技術の粋であるスカイツリーに設置された、4基のエレベーターの内装は春夏秋冬をテーマとし、それぞれ花見、花火、牛島神社の祭(鳳凰)、雪見で表現されています。そこには、日本の伝統技術が如何なく発揮されており、例えば銀色をした雪見のエレベーターは、押絵羽子板の技術で作られた雲を銀箔を施した背景の上にはめ込み、その上を鋳物で作られた都鳥(在原業平がこの地で詠んだ「名にし負はば いざ言問はむ都鳥 わが思ふひとは ありやなしやと」の歌に因んでいます)がスカイツリーに向かって羽ばたいているという絵となっています。



  最後に、特に心に残ったお話をひとつ。先生によると、過去の歴史の蓄積は、木に例えれば、地下に張った根のようなものだそうです。地上に生い茂る木は、根がいかに強く、大きく張っているかに依存する、つまり未来をどれだけ素晴らしいものにできるかは、過去の蓄積をいかに未来に繋げられるかにかかっているというのです。結局の所、現在とはその営みの中で私たちが創造した結果に過ぎません。言い換えれば、現在とは私たちが表現した結果なのであり、その責は私たち自身にあるという自覚こそ、より良い未来を創造する原動力になるのではないでしょうか。



  終了後の懇親会ですが、今回参加された皆さんは、それぞれにインスピレーションを得られたようで、大変盛り上がりました。この得た気づきが皆さんそれぞれの仕事に、生活に反映されることによって、より良い未来が創造されるのではないかと思います。

工場へ行こう!!―デザインを広げる特殊印刷の現場
クリエーター情報なし
美術出版社


  繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
  ブログをご覧いただいたすべての皆様に感謝を込めて。

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