高原千尋の暗中模索

行く川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しく止とゞまる事なし。

3.11 被曝による死者6500万人(1)

2011年07月01日 | 東日本大震災

 1941年、カリフォルニア大学の研究室で人類が初めて人工放射線物質を生み出してから、今日まで、いったいどれ程の痛ましい放射能被害がもたらされてきたのだろうか。
 この問いは難問である。それは端的に言って、被害の実態が隠されてきたからである。アメリカや旧ソビエト、あるいは中国などの核兵器保有国は、「核兵器は破壊力が大きいだけで、人を長期的に苦しめることがない爆弾」であると主張し、核兵器の放射性物質がもたらす残虐性をとことん隠し続けてきた。核の平和利用を謳い文句としたプルトニウム生成のための原発においてもそれは同様である。とりわけ内部被曝による被害は存在してはならないものとして、大がかりで、巧妙で、執拗な隠ぺい工作を展開してきた。

 例えば、チェルノブイリ原発事故のあと、ベラルーシでは、医者に対して全ての病気を放射能と関連づけてしゃべることを禁止するという通達が出された。その因果関係を発表する医者は職を失うことになるため、病気の実相は闇に葬られた。
 2006年4月、チェルノブイリ事故から20年にあたる国際会議において、IAEA(国際原子力機構)とWHO(世界保健機関)は事故による推定死者数は4000人であったと発表した。わずか、4000人とは驚きである。WHOは1959年に結ばれた協定により、IAEAの許可なしには調査結果について発表することが禁止されているのである。

 原爆が投下された広島・長崎においても、劣化ウラン弾が多用されたイラクにおいても、それら核兵器の開発・実験現場においても、あるいは深刻な事故が多発し、微量放射性物質が漏洩し続ける世界中の原発においても、核の使い手たちは“叡智”を結集して放射線被曝の実相を隠し続けてきた。そしていま、福島においても・・・

 2003年、ヨーロッパの科学者グループECRR(欧州放射線防護委員会)は、第二次大戦以後、放射線被曝により命を奪われた人の数を、6500万人と見積もった。この数字こそが、放射線被曝の被害の実態にもっとも近いものと思われる。
 一方で、ECRRの試算とは別に、真実を追求する研究者やジャーナリストたちの献身的な調査により、放射線被曝の実相が徐々に暴かれつつもある。本稿では、そうした事例について整理してみたい。


1.初期核実験の影響
 
 核保有国は、これまでに2000回以上の核実験を行ってきた。人類は既に、広島・長崎での原爆炸裂と同等以上のことを2000回以上も繰り返してきたことになる。それにもかかわらず、実感が伴わないのは非常に恐ろしいことだ。福島でいま起きている被曝の実相を、当事者以外は他人ごとのように感じていることに相似している。だからこそ、放射線被曝によってもたらされる被害の実相を知る必要がある。

 下の図は、矢ヶ崎克馬琉球大学名誉教授の著書『隠された被曝』に紹介されている資料で、広島・長崎に原爆が投下された以降に、最初のソ連の原爆実験、最初の水爆実験、2度目の水爆実験が行われた頃に、日本の乳児癌の死亡率がどのように変化したかを示している。


※図は『週刊金曜日(11/4/8)』より

 最初の被曝後で死亡率は3倍に跳ね上がった。その後、大気圏核実験の行われるたびにその5年後の死亡率は跳ね上がっていった。1965年には、戦前の平均に対して死亡率は7倍にまで上昇している。ところが、1963年に大気圏内の核実験が禁止されると、その後死亡率は低下の傾向を示した。これは核実験による放射性降下物によって内部被曝した子どもたちが癌におかされたと推定するには十分なデータであろう。
 1936~43年の年平均が41例とあるが、これは日本だけの1000人あたりの数値であるから、これを世界に当てはめた場合には、年平均数万~数十万人規模の死亡者が出た可能性が考えられる。それを20年間累積で考えるならば、その規模は数百万人に拡大する。内部被曝で発生する病気は小児癌だけではないので、さらに上乗せすれば規模はさらに拡大する。またさらに、その後の累積を加算すれば千万人規模になるだろう。相当に粗い計算ではあるが、可能性としては充分に考えられることだ。


2.中国、新疆ウイグル自治区“ロプノール核実験場”

 核実験でもっとも大きな被害がでているのは、アメリカでもソ連でもなく、意外にも中国である。

 中国の核実験は東トルキスタン(新疆ウイグル自治区)にあるロプノール核実験場において、1964年から1996年までに46回行われた。大規模な核実験は地表で行われ、甚大な被曝をもたらす『核の砂』が大量に発生している。そのうち11回で、『核の砂』は遠く離れた中国-カザフスタン国境にまで運ばれ降下した。

 シルクロードの分岐点として栄えたことで有名な敦煌遺跡周辺で実施された3回の爆発では、東京都の136倍にも及ぶ範囲に核の砂が降り注ぎ、周辺に居住するウイグル人ら19万人が急性死亡し、放射線障害により現在も苦しんでいる周辺住民は129万にのぼる。死産や奇形などの胎児への影響が3万5000人以上、白血病が3700人以上、甲状腺癌は1万3000人以上に達する。この129万人のうちの多くは、長い年月を経て既に死亡したとみられている。広島と長崎の原爆被害では、21万人が死亡し、100万人余りが放射線障害に苦しんでいると見られるが、中国核実験ではそれを超える被害がでているのである。(『中国の核実験と周辺住民の被曝』平成22年6月23日 羽倉洋行、一瀬昌嗣、両氏による素粒子論研究レポートより)

 また、1964年から1996年までの間に、シルクロード周辺を訪問した日本人観光客27万人のなかには核爆発地点の汚染地域に入った可能性のある者も多いと思われ、被害はそこにも及ぶと見られている。
 私の叔父は1980年代にシルクロードを何度か旅している。その叔父は旅の20年余り後に肺癌で他界した。広島・長崎の被爆者の調査によれば、被曝による肺癌・乳癌の発現率は20年後が最大になるという研究結果がある。叔父はそれと知らずに他界した可能性が高い。女優の夏目雅子さんもシルクロードへの訪問が死の病魔の原因になったのではないかという見方もあるようだ。

 中国政府はいまも核汚染は存在しないと公言している。中国の被曝実態が世界に知られるようになったのは、1998年8月にイギリスで放映されたドキュメンタリー番組「Death on the silk road」による。同番組で、ウイグル人医師のアニワル・トフティが核実験場周辺で調査した発癌率のデータが以下のグラフである。



 1976年からの実験爆弾の巨大化で放射線量が増大し、核実験場周辺の癌発生率は中国の他の地域よりも35%も高くなっていった。下の写真は番組で放映された障害を持って生まれた子の画像である。


※画像はユーチューブより
http://www.youtube.com/watch?v=tpt5DJDsWdA&feature=related

 番組によると、小児科の患者の10人に8人に口蓋裂があったという。信じられない数字である。
 ネットで検索していくと、放射能による遺伝子損傷で生まれたおぞましい奇形の画像が散見されるが、あまりに衝撃的でさすがに目を背けずにはいられない。
 放射線被曝の被害を認めない中国政府はこの状況を30年以上も放置し、一切の救済を行っていないため、今も被害者を出し続けている。これがウイグル自治区の反政府運動の背景のひとつともなっている。
 中国の核実験の影響は、ウイグルのみならず、北西に位置するカザフスタンへも深刻な影響を与えてきた。それについては次稿でまとめたい。

 隠され続ける放射線障害の実態。目を背けたくなるその真相。しかし、いま目を見開かなければ、同じ悲劇が福島と東日本で繰り返されることになる。多くの時間がすでに失われている。


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