「クリスマスだっていうのに、おいらの所にはサンタはこな
い」一つ目小僧(こぞう)がいった。
「俺(おれ)もプレゼントなんかもらったことないや」
一本足の唐傘(からかさ)小僧(こぞう)がさびしそうにいった。
「あたいもよ。でも平気だよね」
おかっぱ頭の座敷童(ざしきわらし)が、しょんぼりしている雪ん子に
目配(めくば)せしていった。雪ん子は雪女の一人娘だ。
「今日は寒いや。雪ん子は平気でしょうけど」
誰かが言うと、髪(かみ)もまつ毛も真っ白な美少女おばけの雪ん
子は青い目を光らせながら、
「心、こごえてるの」悲(かな)しげにいった。
「どうしてこごえてるのさ。何かあったの?」
一つ目が聞くと、雪ん子はぽろっと涙(なみだ)を流(なが)
した。涙はこおり、水晶(すいしょう)の玉になって転がった。
「まあきれい。ネックレスにしてあげるね」
座敷童が涙を拾い上げると、水晶玉はくっつきあって一つにな
り、それは立ちまち崩(くず)れ、粉雪のようになって風と一
緒に飛びちった。
「人の悲しみを拾ったりするもんじゃない。なぐさめているつ
もりだろうが、こぼれた涙はそっと見ているしかないんだ」
いつのまにか現れた煙(けむり)のおばけのエンエンラが言っ
た。
「ねえ、皆であの家に入って遊ぼうよ」唐傘小僧が指さした先
には大きな家があった。家の中には天井に届(とど)きそうな
立派(りっぱ)なクリスマスツリーが飾(かざ)られていた。
座敷童がいった。
「誰もいないからおいでって。ツリーの小さな光がピカンピカ
ン手招(てまね)きしてるよ」
「ママさんは子供達を寝(ね)かせに行ったのかな。パパさん
は隣(となり)の部屋で書き物してるみたい」
一つ目が目玉をぱちくりさせながらいった。
「雪ん子もあの家に行けば元気になるよきっと」
座敷童が雪ん子の手を引いてふわりと浮(う)き上がると、窓
の隙間(すきま)めがけて飛んで行った。一つ目も唐傘もエンエン
ラも、皆同じように窓の隙間(すきま)から部屋の中に入った。
「広い部屋だけどツリーの他には何もないね。ここのママさん
は飾り物が嫌(きら)いなのかもね」
「隠(かく)れる飾りがないから見つかっちゃうよ」
「だいじょうぶ。普段(ふだん)おれ達は人間の眼には見えな
いのさ。体を小さくしてツリーの中でかくれんぼしようか」
エンエンラがいうと皆は一寸法師(いっすうぼうし)ほどの大
きさになり、ツリーの枝に隠(かく)れだした。その時だった。
男の子と女の子が部屋に入って来た。男の子は何やら写真立て
のような物をかかえている。そこへパパさんが入って来ると優
しい声でいった。
「どうしたの、まだ寝(ね)なかったのかい」
すると女の子は寂(さび)しそうに小さな声でいった。
「ママの写真を飾(かざ)るのを忘(わす)れてたの」
「そうだったね。今年からママは天国からこのツリーを見るん
だったね」
この子達のママは今年の夏、病気で亡(な)くなっていたのだ
った。それを知った雪ん子は、わっと声を出して泣きだした。
座敷童もつられて泣き出した。
「声を出したら見つかるよ」一つ目が言うと、
「声は聞こえないが、寂(さび)しさは伝わる」
そういったエンエンラの眼も涙でうるんでいた。
「天国のママお休みなさい。パパお休みなさい」
子供達はパパの足にちょっと抱(だ)きついてから、ふり返り
ふり返り寝室(しんしつ)に帰って行った。
ツリーの枝(えだ)に腰(こし)かけたままおばけ達は黙(だ
ま)っていた。寂しいクリスマスを送るこの家で、自分達だけ
騒(さわ)いではいけない気がしたのだ。
「何かしてこの子達を喜(よろ)ばせてやりたいな」
「おいら達がサンタクロースになろうか」
「そうだね。サンタになって女の子にはお人形。男の子にはラ
ジコンの飛行機はどうかな」
「それよりか、美味(おい)しい七面鳥(しちめんちょう)のロース
トはどうだい。料理(りようり)下手(べた)のパパさんなら喜ぶよ」
「いや、愛(あい)する人を亡くした寂しさは、物では薄(う
す)まらないんだよ。それにおばけにしか出来ないことを考え
よう」
エンエンラがいった。
「じゃどうすればいいのさ。驚(おど)ろかすの。それともた
だ見てるだけなの。冷たすぎだよ」
その時窓に北風がふきつけ、ふり始めた雪が窓ガラスにあたっ
てチリチリと鳴った。見ると窓の外に誰(だれ)かが立ってい
た。冬将軍(ふゆしょうぐん)だった。
「あっ、冬将軍。私の母様(かあさま)を連れてった冬将軍だ。母様
をかえして」
雪ん子が叫(さけ)んだ。将軍が消えると母さんの雪女が現(あ
らわ)れていった。
「母さんは千年も生きたから冬の世界につれてっていただい
たの。でもお前が悲しい顔をしていると母さんは迷(まよ)っ
てしまう。楽しくくらしてくれていれば、それだけで母さんは
うれしいんだよ」
いいおえると白兎(しろうさぎ)に姿(すがた)を変え、暗(くら)
い空にかけ上がって行ったのだった。
「わかったわ母様。もう悲しがらないよ。楽しく暮(く)らす
ね」
雪ん子は明るい声でいった。
「そうだ、良いことを思いついた。今晩(こんばん)あの家族
(かぞく)の夢(ゆめ)の中にはいりこんで、あの子のママに
ばけて、今と同じことをいってやろうよ」
「それならわしが天国に行きあの子のママさんを探(さが)し、
夢の中につれて来よう。本物(ほんもの)のママの声の方がい
いからね」
エンエンラはそういうと窓から出て黒雲をつきぬけて行った。
翌朝(よくあさ)子供達はうっすらつもった雪に喜び、雪で
兎(うさぎ)を作りツリーの下に飾った。朝食(ちょうしょく)
の時、誰も夢の話はしなかった。けれど、いつもよりずっと、
ずっと楽しそうな顔の三人だった