東京国立博物館へ王羲之の展覧会を見に行った。
展覧会のチラシには「書を芸術にした男 書聖王羲之」とあり、「日中国交正常化40周年 特別展」と小さく添えられている。興味深いのは「日中国交正常化40周年」の文字で、「特別展」の文字と比べてもさらに小さい。
インターネットの『人民網日本語版』(2013年1月28日)も、日中国交正常化40周年を記念する特別展であることを伝えていたが、展示されている作品(といっても、王羲之の書は失われており、すべてが模写だとされている)のほとんどが日本国内にある物で、国外から出品は米国のプリンストン大学美術館所蔵の「行穣帖」と、香港中文大学文物館所蔵の「游丞相旧蔵蘭亭序」など3点だけだ。
国交正常化40周年記念とは言いながら、香港を除き中国からの出品がなく、チラシの文字も小さくせざるを得なかったのは、尖閣諸島をめぐる日中反目の余波だろうか。
2008年に江戸東京博物館が特別展「北京故宮 書の名宝展」を開催した時は、中国は気前よく故宮博物院所蔵の「蘭亭序」(八柱第三本)の日本初公開に応じていた。
わたしは書が好きなわけでもなく、たんに好奇心から王羲之の展覧会を見に行っただけだ。江戸東京博物館で「蘭亭序」を、台北の故宮博物院で「快雪時晴帖」を見たことがあるので、北京の故宮から別の「蘭亭序」が来ていないことをそれほど残念には思わなかった。
むしろ、40点以上が展示されていた「蘭亭序」の模写をはじめとする資料のほとんどが日本国内にある物だった。日本国内にこれほど多くの「蘭亭序」の模写があるとことを初めて知った。
(2013.1.31 花崎泰雄)