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59のトマホーク

2017-04-09 00:51:20 | Weblog

アメリカのトランプ大統領は2017年4月6日、米軍にシリア攻撃を命じた。地中海にいた2隻の米軍艦が巡航ミサイル・トマホーク59発を発射した。

アサド政権が毒ガス・サリンを使って自国民を殺傷した4月4日の事件について、トランプ大統領は「アサド政権のこのような極悪非道な行為は、前政権の優柔不断と及び腰の結果である」と、オバマ政権のシリア政策を非難した。

2013年にアサド政権がダマスカス郊外の反アサド勢力支配地に猛毒ガス・サリンを使った攻撃をした。この時、オバマ政権はシリアに対する武力制裁を避けた。トランプ大統領はアメリカが毅然とした態度を示さなかったことが、2017年4月のサリン攻撃につながった、と言っているのである。 

他を非難することで自らの正当化に努めるのはいつもながらのトランプ流だ。一方、トランプ政権と折り合いの悪い米国主流派メディアの多くは、これを逆手にとって、トランプ大統領の言動の矛盾を突いた。 

2013年のサリン攻撃のさい、不動産業者・ドナルド・トランプ氏は、シリアに対する武力制裁はすべきでないと、ツイッターに繰り返し書き込んでいた。たとえば、 

<2013年9月5日> オバマ大統領がシリアを攻撃したがるのは、ただただメンツのせいである。 

<2013年9月5日>我らが愚かな大統領再度申し上げる。シリアを攻撃してはならない。 

<2013年9月7日>大統領、シリアを攻撃するな。次に備えて弾薬を節約せよ。 

<2013年9月9日>シリアを攻撃するな。攻撃でアメリカが得るものはやっかい事だけだ。 

その他、「シリア攻撃に先立って、大統領は議会の承認を得なければならない」と、同年8月31日のツイッターに書いていた。 

2013年のアサド政権によるサリン攻撃の死者は1000人を超えると見られている。2017年4月の攻撃による死者は100人以上とみなされている。2013年のケースは奪われた生命という点では10倍の規模だった。 

顧みればクリントン政権は1998年のアルカイダによるケニアとタンザニアの米大使館爆破事件で、アフガニスタンのアルカイダ基地とスーダンの化学兵器製造基地と疑われる工場をミサイル攻撃した。ブッシュ政権はアフガニスタンにタリバン・アルカイダ討伐軍を送り込み、勢い余って大量破壊兵器を隠し持っているという容疑でイラクに侵攻した。大量破壊兵器保有の証拠は見つからなかった。イラクを攻撃したかったから容疑をでっちあげたと今では批判されている。 

過去に「シリアを攻撃するな。攻撃でアメリカが得るものはやっかい事だけだ」と書いたことのある不動産業者のドナルド・トランプだが、アサド政権によるサリン攻撃の報告を受けて2日後、米国大統領としてミサイル攻撃に踏み切った。

比較的短時間で米国大統領がシリア攻撃に踏み切った理由は何だろうか? トランプ大統領はミサイル攻撃のあとの政治的収拾に何らかの名案をもっているのだろうか? それとも、例によって反射的にシリア攻撃のアイディアが閃いたせいだろうか? 国家安全保障会議(NSC)でテーブルに並べられた政策オプションのうち、強く推薦されたミサイル攻撃案を却下する理屈を、オバマ前大統領とは違って、思いつかなかったからだろうか? 

(2017.4.9  花崎泰雄)

 

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