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何のこっちゃ

2014-06-05 15:14:35 | Weblog


日本国憲法第9条は次の通りである。

第9条  日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
 2  前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

戦争放棄の規定は日本国憲法だけでなく、近隣では韓国の憲法が「侵略的戦争を否認」し、フィリピンの憲法が「国家政策の遂行手段としての戦争を放棄」している。

したがって、「戦争の放棄」宣言をもって、日本が平和国家であるという理屈は根拠不十分である。日本国憲法の核心は9条第2項の「陸海空軍等の戦力不保持と交戦権の否認」だが、これは、自衛のための武装は戦力ではなく、自衛のために戦う権利と交戦権はおのずと異なるものだという理屈と、くわえて米国からの要請をきっかけに生まれた自衛隊の動かしがたい存在によって、とっくの昔に絵空事となった。数ある憲法の条文中、これほどまでにコケにされたものはあるまい。

極東の日本も韓国も、ともに米国の核抑止力のお世話になっている。その核の傘を保証しているのが日米安全保障条約と米韓相互防衛条約である。

日米安保条約は次のように規定している。

第5条 各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。

一方、米韓相互防衛条約は、

第3条  各締約国は、現在それぞれの行政的管理の下にある領域又はいずれか一方の締約国が他方の締約国の行政的管理の下に適法に置かれることになつたものと今後認める領域における、いずれかの締約国に対する太平洋地域における武力攻撃が自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する

と定めている。

双方とも似たような構成になっているが、米韓相互防衛条約では「太平洋地域における武力攻撃」とあるところが、日米安保条約では「日本国の施政の下にある領域」と地理的範囲が異なっている。同時に、米韓相互防衛条約では「自国の憲法上の手続に従って共通の危険に対処する」(in accordance with its constitutional processes)、日米安保条約では「自国の憲法上の規定及び手続に従って共通の危険に対処する」(in accordance with its constitutional provisions and processes)となっている点も異なる。

「太平洋地域における武力攻撃」は「日本国の施政の下にある領域」に対する武力攻撃より広範囲だが、日本国の周辺事態法には、

第1条  この法律は、そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態(以下「周辺事態」という。)に対応して我が国が実施する措置、その実施の手続その他の必要な事項を定め、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(以下「日米安保条約」という。)の効果的な運用に寄与し、我が国の平和及び安全の確保に資することを目的とする

と書かれている。

防衛省の見解では、

「周辺事態」とは、日本周辺地域における事態で日本の平和と安全に重要な影響を与える場合をいいます。これは地理的概念ではなく、事態の性質に着目した概念で、特定の事態がこれに該当するか否かは事態の態様、規模等を総合的に勘案して日米両国が各々主体的に判断するものです。従って、「周辺事態」が発生し得る地域を地理的に一概に画することはできません

ということなので、場合によっては、米韓相互防衛条約の「太平洋地域」より地理的に広範囲にわたることもありうる。

「自国の憲法上の手続に従って」と、「自国の憲法上の規定及び手続に従って」の言い回しの違いが、米韓相互防衛と日米安保の残る相違点になる。日米安保条約がいう「憲法上の規定」とは、集団的自衛権の行使を許してこなかった従来の政府の9条解釈のことである。

もし「9条は集団的自衛権を禁じるものではない」という新解釈を採用することになれば、日米安全保障条約(Treaty of Mutual Cooperation and Security between Japan and the United States of America)は、米韓相互防衛条約(Mutual Defense Treaty Between the United States and the Republic of Korea)と同質の相互防衛条約 "Mutual Defense Treaty Between the United States and Japan" になる。

と同時に、自民党の改憲案、

9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない。
2 前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない

という内容が、憲法改正手続きを経ないで、実現されることになる。

(2014.6.5 花崎泰雄)


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