半次郎の“だんごんがん”

要するに、居酒屋での会話ですね。
ただし、半次郎風のフレーバーがかかっています。
≪安心ブログ≫

『遠い記憶《前編》』

2013年06月07日 10時05分11秒 | ★ やや半次郎の世界 ★

こんにちは、やや半次郎です。

“やや半次郎”って何だ?
…とか、“どういう意味だ?”
…といった声が多く寄せられています。

意味と言われても…。

意味を説明するのは面倒なので、ペンネーム、いやブログネームということにしたいと思います。

因みに、漢字で書くと「稍半次郎」となります。

今後とも、よろしくお願い致します。

さて、早速、やや半次郎の可笑しな世界をお楽しみ下さい。
今日は前編です。

………………

『遠い記憶《前編》』

まだ生まれたばかりだった。
僕は泣いていたと思う。
混沌とした液体の広がる惑星で、まだ生命らしきものは全く存在していない時に、僕はやって来たんだ。

僕はどうしてここに居るのだろう?
何度も、何度も、自問しては答えを探していた。

ホントのところ、気付いたらここに居たと言うのが正解だ。

何かの使命があったに違いない。
そう思ってみたが、それを裏付ける証拠は何もない。
ただここに、こうして存在することだけが紛れもない事実なのだ。

僕がどうしてここに居るのかは分からないけれど、どうすれば生きて行けるのかは知っている。
僕のポケットに入っている四角いボード。
これが何でも教えてくれる。

例えば、僕の身体に異変が起こった時、すぐさま診断してくれるんだ。
そうして、その症状に合った薬を出してくれる。
もちろん、薬を飲む為の水も出してくれるんだ。

他にも、僕の身に危険が迫った時、取るべき対処方法を指示してくれる。

どうやら、僕は何らかの意図で生かされているようだ。

…あぁ、お腹が空いたな~。
何か食べよう。
…と言っても、何を食べれば良いのか、全く分からない。

そんな時も、この四角いボードが教えてくれる。
食物になりそうなものをこのボードにかざすだけで、食べられる物か食べられない物かを教えてくれるんだ。
もちろん、調理方法もだ。

そして、ここでは手に入らない食べ物で、僕が必要としているモノがあったら、物理的に出現させてくれる。

例えば、ステーキ。
ここには未だ、動物は居ない。
植物もやっと出現して来たところだ。
そんな植物を食べているだけでは、タンパク質が不足するから、とても有り難い機能だ。
この四角いボードは、分子を結合して全く同じ組成の物質を生み出すことが出来るようだ。
おまけに形まで似せてくれる。
…つまり、ホンモノに限り無く近いニセモノだ。
いや、もうホンモノと呼んでも差し支えないだろう。

…それにしても、液体ばかりの惑星だ。
陸地は3割程度か?
どこかに停めよう。

僕は自分の乗っている乗り物を、一番近くにある広い陸地に向けて進ませ、その上空で停めた。
僕はあるボタンを押した。
生物がいるかを調べてから降りるのだ。

程なく分析結果が出力された。
ほとんどが植物だが、陸地を自由に動き回れる生物もいるようだ。
もうそんなに長い時間が経過したのか…。
僕は感慨深かった。
ホントに生命らしきモノは何もない時にやって来たのだ。
それが、今では…。
彼らに怪しまれないよう、姿を消して着陸するよう気を遣わなければならなくなったのだ。

僕はこの乗り物が何という乗り物なのか知らないが、不思議と操縦することは出来ている。
誰に教わった訳でもないが、不自由なくこなせている。
きっと、生まれる前の大昔から脳の中にインプットされていたのだろう。

僕は乗り物の姿を消して、尚且つ、用心深く高い山の頂上に降り立つことにした。
ここならば、登ってくる生き物はほとんどいないだろう。
万一、いたとしても少数であれば、何とでもなる。

…喉が渇いた。
今日はもう遅いから、この場所で寝ることにして、ビールで喉を潤すことにしよう。

そう考えて、空腹だったことを思い出した。
つまみは、少し贅沢に、魚の刺身にしよう。
平目と鰹、そして鮪だ。
平目と鰹はあっさりとしていて食べやすい。
特に鰹は、時節柄、初鰹に近い。
となれば、鮪は脂の乗った中トロと行きたいね。

早速、刺身の三種盛りを注文した。
「まいどありがとう!」とも「よろこんで!」とも言わないが、注文は確実に通っている。
2~3分待てば、美味い刺身が出てくるんだ。

ほら、出てきた。
ホンモノそっくりじゃないか。
おっと、わさびと醤油も注文しよう。
それから割り箸もだ。

さて、つまみが出てきたから、そろそろビールを注文しよう。
実は、僕は、つまみを並べてからビールを注文する癖がある。
何故、そうするようになったのか、微かに記憶が残っている。

ある時代のことだ。
経緯は覚えていないが、僕はラーメン屋に居た。
そして、店員にビールと餃子を注文したのだ。
今日みたいに、お腹が空いて、喉が渇いた日のことだ。

ところがその店では、注文を受けると直ぐにビールが出てきたんだ。
つまみの餃子はなかなか来ない。

…やっとの思いで餃子が出てきた頃には、ビールはもう飲み干した後だ。

これだけは避けたいのだ。
だから僕は、つまみが出て来たタイミングで、飲み物を注文するようになってしまったのだ。

いつの頃の記憶だろう。
かなり詳細に覚えているようだが、何と言う時代なのか分からない。

そんなことを呟いている内に、ビールが出て来た。
う~ん、ホンモノに見える。
しかも飲み頃に冷えている。

ビールを一口、口にした。
ぷう~ゥ、…格別だ。
久し振りのアルコールが血液に取り込まれ、全身を駆け回るのが分かる。

つまみに行こう。
先ずは平目だ。
わさびを少し乗せて、醤油をつけて口に入れた。
…美味い。

この甘さは絶品だ。
寿司ネタにするのもいいが、僕は平目は刺身が好きだ。
もう一切れ頬張って、ビールで口中をさっぱりさせてから初鰹に行こう。

おっと、鰹がタタキになっている。
嬉しい誤算だ。
それじゃあ、卸し生姜も注文しよう。
…これは直ぐ出て来たな。
直ぐに鰹に生姜を乗っけ、醤油を付けて口に入れた。
う~ん、…これもあっさりしていて美味い。

次は中トロだ。
見るからに高級な中トロだ。
こんなものがこの星で手に入るなどとは、誰が想像しただろう。
わさびを乗っけて醤油をつけた。
醤油が入っている小皿には、見る間に油が広がっていく。

口に放り込んだ。

僕は、最後のビールを流し込んだ。


《前編》の終了。
次回の《後編》をお楽しみ下さい。

By やや半次郎



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