はんどろやノート

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ウラン

2011年03月17日 | らくがき
 ウラン、U、原子番号92
 1789年にドイツのクラプロートによってウラン元素が発見された。

 「ウラン」という命名も彼、クラプロートによる。
 その数年前にイギリスのウイリアム・ハーシェル天王星(ウラノス)を発見して科学界がその話題でわきあがっていた時期であり、それにちなんで「ウラン」と名づけたのだ。 天王星は、それまで水星、金星、火星、木星、土星…「惑星」にはその5つしかない(地球を除いて、だが)――とずっとみなが思っていたところに「新惑星」が発見された。それはまさしく「大発見」なのだった。発見者W・ハーシェルも、生まれはドイツだった。その職業は音楽家だ。

 ウランの話に戻るが、新元素ウランの発見といっても、ウラン鉱そのものは何千年も前から知られていた。ウラン鉱の中にはウランをはじめ様々な物質が含まれて複雑にからまっており、しかも(まだ正体は知られていなかったが)放射能を含んでいるものだから、病気をもたらしたり扱いにたいへんにやっかいなもので、鉱山では精製分離して捨てるのに苦労していたのである。

 その捨てられていたやっかいもの「ウラン鉱」をもらって、“放射能”を発見したのが,フランスのアンリ・ベクレルであり、「ラジウム」「ポロニウム」という新元素を発見したのが同じくフランスのキュリー夫妻である。 (“放射能”と命名したのはキュリー夫妻。)


 ウランと言えば、「核分裂」を連想する。そのためにウランという物質は強い放射能を持っている、と科学に疎い人々には勘違いされがちだ。それは間違っている。
 ウランの“放射能”は弱いのだ。放射性物質として自然にある元素のなかで、もっとも弱い。
 ウランはしかし、原子核がとても大きいためにある条件を与えてやれば「核分裂」を起こす。(それが発見されたのは1938年。) そうなるとその割れた「核」のかけらや、同時に出てきた「中性子」、これらが強力な“放射能”をもっているのだ。(恐ろしいのは、こいつらだ。)
 ウランは自然にも「核分裂」を起こす。だが、1粒のウランが「核分裂」を起こしたとしても、屁みたいなもの。どうってことない。
 それを一定量以上1箇所に集めて濃縮し(ウラン235を多くする)うまく連鎖反応させるとき爆弾になる。専門技術が必要だ。



 地球上の放射性物質の中で、一番多くあるのが、ウランである。この、「地球上に多い」ということと、ウランの「放射能が弱い」ということは、おなじ意味がある。

 ウランの半減期は、数億年以上。(同位体によって異なる) つまり、数億年かけてやっと半分のウランが、放射線をはなって、元素崩壊するのである。それくらいゆっくりとウランは崩壊してゆく。だから“放射能”は弱い。そしてだから、地球上にまだたくさん残っている。(だから最初に発見された放射性物質はウランだった。)


 これに較べて、崩壊の速度の激しいのがキュリー夫妻の発見した「ラジウム」と「ポロニウム」である。
 ウランに較べると“放射能”の強さはは100倍以上、―――ということは半減期は短く(1600年)、地球上にはほとんどない。 そのほとんど存在しない「ラジウム」(ポロニウムはもっと希少)を執念で取り出したのがマリー・キューリー(キュリー夫人)である。夫のピエールのほうは、新元素が確認されたということに満足していたのだが、マリーはまだそこで満足しなかった。「なんとしてもラジウムを取り出す。」 無謀な挑戦だった。
 まだ幼い子供を夫の父親に預け(この娘イレーヌは長じてやはり科学者になりノーベル賞に輝く)、一人、巨大な「ウラン鉱」の山塊に立ち向かった。そのうち夫ピエールにも応援を頼み、ついに二人で、何トンものウラン鉱のクズ山の中から「耳かき一杯ほどのラジウム」を取り出すことに成功したのである。そのように伝えられたが、実際は「耳かき一杯」どころか、その10分の1ほどもない量であった。マリーの好奇心、知能、目の良さと根気、器用さ、そして執念の結晶だった。
 キュリー夫妻は夜、明かりを消してその結晶をうっとりと眺めた。それは闇の中で静かに、きらきらとエネルギーを放っていた。
 そのような‘狂気的’な女性科学者の行動が、科学を大きく前進させたのだ。


 ウランの“放射能”は弱い。だから、ウランでは、放射能の研究をしようにも、なかなかはかどらなかっただろう。だがそこに、マリー・キューリーの「ラジウム」が登場した。
 「ラジウム、Ra、原子番号88」――その放射能は、強い。 これなら、実験で十分使える。



 20世紀の初め、“放射能”や“原子”の謎が次々と解明されていった。中心人物は、ニュージーランド生まれのアーネスト・ラザフォード
 この“地球の裏側から来た男”、ラザフォードは、簡素な実験道具を使って、次々と自然の起こす“魔法”をあきらかにしていった。
 原子核の発見。 元素崩壊。 核融合。

 ウランは元素崩壊をしてトリウムになる。そのトリウムはやはり元素崩壊を何度か行いやがてはラジウムになる。ラジウムはラドン(気体)になり、ラドンはポロニウムになり、ポロニウムは……。 これが“放射能”なのだ、元素は自然に変換しているのだ、とラザフォードは見破った。

 E・ラザフォードの「魔法の杖」は、‘アルファ粒子’であった。「アルファ粒子をいろいろなものにぶつける」というやり方で、様々な自然の奇跡をあばいてみせたのである。
 この「粒子をぶつけるとさてどうなるかやってみよう」という方法は、現在の「加速器」の原型でもある。規模は違えど、実験の構図の枠組みは同じである。
 さて、‘アルファ粒子’とは、放射性物質が放出する3種類の放射線、アルファ線、ベータ線、ガンマ線のうちの一つ、アルファ線のことである。こう名づけたのもE・ラザフォードであるが、彼の使った‘アルファ粒子’の放出源こそ、キュリー夫人があれほどの執念で取り出した貴重な「ラジウム」なのであった。ウランでは弱すぎてどうにもならない。「ラジウム」こそがラザフォードの実験には欠かせない武器だった。
 「ラジウム」のマリー・キュリーがあれほどまでに評価されたのには(ノーベル賞を2度受賞)、そういう意味があったのだ。彼女の「研究ノート」は、いまも放射能を帯びていて鉛のケースの中に保管されているという。


 「半減期」という言葉、考え方を残したのもラザフォードだ。
 ラザフォードは、この放射性物質の性質をうまく利用すれば、地層に眠るものが何万年前、何億年前ということを調べることができる、ということを最初に提言している。
 私たちはその方法を知っている。考古学や生物学、地球学で役立てられている。
 彼が提案したやり方は、岩石中のヘリウムの量を調べるというもので、これは放射性物質が放出したアルファ粒子がヘリウムになるからである。ただしこの方法は問題があって実用にはならなかった。ヘリウムは気体なので、一部空気中に放出されてしまうものがあるから。

 “放射能”の発見は、科学のすべての分野を、このように驚異的に前進させた。それまでは想像でしかわからなかったことを、数値にして見えるようにした。メスの届かない身体の部位の癌細胞を焼失させたり。地球の年齢も太陽の温度もそれでわかった。



 ラジウムの放つエネルギーがすごいので、「原子爆弾」という架空の爆弾の話が囁かれ始めた。H・G・ウェルズは、戦争にその「原子爆弾」を使用される恐怖を本気で心配し、小説に書いた。それが『解放された世界』。1914年の発表。「もしもドイツのビスマルクのような男が「原子爆弾」を手にしたら…」というようなことがその小説には書かれている。

 しかし物理学者は、「そんなのできないよ」と知っていた。ラザフォードもはっきりとそう断言した。「原子爆弾」は空想科学小説の話でしかなかった。この時点では。


 だが、E・ラザフォードが1937年に死んだ後、その状況が一変する。
 その翌年の暮れにドイツでオットー・ハーンらがウランの「核分裂」を発見したのだ。
 それだけではない。その後、エンリコ・フェルミらによって、「連鎖反応」も実現可能かもしれないとわかってきた。
 「ウラン」に‘中性子’(発見者はラザフォードの弟子チャドウィック)をぶつけると、その核が二つに割れる。同時にまたそこから大量の‘中性子’がはじけ飛ぶ。その‘中性子’が別の「ウラン」にぶつかると…。これが「核分裂連鎖反応」だ。放出エネルギーはねずみ算式に増える。
 O・ハーンは、若いとき、ラザフォードがカナダで“放射能”の謎を解明していたときにその助手を勤めていたことがある。つまりラザフォードの弟子の一人なのだ。

 ついでに書いとくと、みんな知ってる「ガイガー・カウンター」、その発明者ハンス・ガイガー(ドイツ人)もラザフォードの弟子である。「原子核の発見」につながる実験に関わっている。



 史上最初の原子炉が1942年12月、アメリカで産声をあげた。この実験用原子炉はCP-1(シカゴ・パイル1号)と呼ばれたが、その実験の中心人物は、イタリアから亡命してきたエンリコ・フェルミ。 ウラン「連鎖反応」はこのときついに実現化したのである。





 今、マグニチュード9の地震が来て、大地が揺れて、それでも太平洋沿岸にある原子力発電所の施設はどれもびくともしなかった。そして安全装置は予定通り作動、自動で、ウランの「核分裂」を停止させた。想定以上のの揺れが来ても大丈夫だった。
 ところが福島第一原発施設の場合は、その後が問題だった。 津波がやってきて、発電機がやられ、冷却機能がまったく働かない。(津波に関しては想定以上だった??)

 いま、政府と東京電力は、なんとかあれを冷却しようとしている。冷却さえできれば全く問題はないのだ。だけどその「冷却」ができなくて、困っている。


 僕は、いずれなんとか「冷却」はできるだろう、とは思っている。 時間はかかっても、「核分裂連鎖」は停止しているのだし、いま言われている放射能(○○マイクロシーベルトとか)は核分裂反応のことではないから、それほどのものではないだろう。技術のプロと政府が全力であたっているのだから、大丈夫だろう。そう思っている。

 本当は‘純水’、つまり不純物のない真水を使って冷却すべきなのだが、もはやそうもいっておられず、海水を注入したりした。すると‘不純物’と“熱”とが反応してそこに“放射能”が生じてしまうのだという。いま騒いでいる“放射能”は、そういう“放射能”であって、「核分裂反応」のものではない。



 ただ、知識として知っておきたいのだが、あれを冷却せずにほうっておいたらどうなるのだろう? 専門家も「それは大変危険です」と言うが、どう危険なのか、知りたい。ほうっておくと、止まっていた「核連鎖反応が始まる」のだろうか。それについての、明確な答えが知りたい。 (できれば、「それはありません。」という断言が聞きたい。)



 ウランは放射性物質である。放射性物質は“放射線”を放射している。それが“熱”となり、それであの福島第一原発は“発熱”している。
 しかしウランそのものの“放射能”は弱く、半減期は数億年である。
 とはいえ、あそこにあるウランの量は、ヒロシマ型原子爆弾の時の100倍以上である。(でも福島のはウラン235つまり濃縮ウランじゃないよね。…どうだっけ?)
 しかし、核分裂反応は確かに止まっている。(だけども「臨界量」超えるウランはあそこにある。)
 う~ん…。

 今、“発熱”しているのは、原料としての「ウラン」よりも、それをエネルギーに変えて使用した後の“放射性廃棄物”によるものだろう。この廃棄物の“放射能”こそ、ヒロシマやナガサキやチェルノブイリでおそれられたものである。ウランどころか、ラジウムよりもさらに強い“放射能”のかたまりだ。
 だから誰一人、炉の中には入れない。
 ただの熱なら開け放ち風を入れればばよい。だがこの“放射能”ではそれはできない。(冷却は水しかなく、それで原子力発電所は海か川のそばに建てられる。)
 であるが、「核分裂反応」は停止しているのだから、“放射性廃棄物”はこれ以上は増えるわけではなく、炉の壁に守られていて外には漏れてはいない。(今ニュースで騒がれている放射能は炉の内部のものではない。…いや、違うの?)

 さて、もしもこの状態を放っておいて、炉の中の熱量が上がっていくと、ウランの「核分裂反応」は自然に始まるのだろうか?(あるいは爆発する?) そんなことがあるの? それとも、「反応」は始まらないけれども、炉が壊れて(溶けて)内部の放射能が外に出てそれで大変、ということなのか。
 どうもはっきりわからない。



 ウランを元素として発見したクラプロートは、「ジルコニウム」、「セリウム」の発見者でもある。また、「チタン」の命名者でもある。

 『世界で一番美しい元素図鑑』(セオドア・グレイ著)によれば、
 「ジルコニウムはタフで硬い金属で、これが関わるとなんでもタフで硬くて研磨力があるものになります。高純度ジルコニウムの管は原子炉内で燃料ペレット容器として使われます。原子炉の運転に必要な中性子を通過させる性質と、作動中の原子炉内の過酷な環境に耐える強さを兼ね備えているからです。」
とある。なるほど、たのもしい。
 きっとウランちゃんの結婚相手はジルコンさんだ。普段はおとなしいウランちゃんがテンパッて大暴走するのをしっかりとコントロールする。 「ジルコニウム、Zr、原子番号40」はそういう金属だ。
 ジルコニウム合金で作られたロボットなら、あるいは原子炉の中で作業ができるのだろうか?

 また、ウランについての記述の中には、こんなことも書かれています。 「米国では個人が15ポンド(約6.8㎏)まで天然ウランを所有することができることが法律で認められています。」 売ってんだってさ。




[追記] 訂正です!  その後学びまして(笑)、ウランが地球上の放射性物質の中でもっとも多く、放射能は弱い、というのはまちがいだったと知りました。 1番存在が多いのはトリウム(Th、原子番号90)でした。 2番目がウラン。
このトリウムにも放射能がある、と見つけたのはキュリーです。トリウムの半減期は140億年ですって。まあつまり、宇宙の年齢ほどもあるわけで。
ウランは崩壊して(放射能を出して)、このトリウムに変わります。