はんどろやノート

ラクガキでもしますか。

『大野の振飛車』

2009年11月22日 | しょうぎ
 『大野の振飛車』 大野源一著 弘文社 
 表紙をよく見ると「‘振飛車’を売りにしている本なのに、表紙の図は居飛車じゃん!」というツッコミがまずできます。悪型だし。なんでこんな図にしたのでしょうか?


 今週の『週刊将棋』新聞に、「棋士・この一冊」のコーナーで久保利明棋王がこの本を採り上げていました。僕は「おお! おれも持っているぜ!」と嬉しくなったのでここに書くことにしました。
 しかも僕のは「表紙カバー付き」です! 久保さんの本はどうやらカバーがないようです。(←小っちゃ~な優越感)
 久保棋王、この本を小2のときに父に買ってもらい、何度もこの中の将棋を並べたそうです。
 僕は高校時代に将棋にはまり、将棋の本は30冊くらい買ったでしょうか。でもその後将棋から離れ、そのうちの7、8冊程を残してあとは処分したのですが(今は後悔しています)、その7、8冊の中にこの本『大野の振飛車』があったというわけです。これは捨てたらソンだ、というカンが働いたんですね。


 大野源一九段
 1911年(明治44年)東京生まれ、1979年没。タイトルは獲っていないがA級で16期活躍した華のある棋士である。その振り飛車のサバキは天才と呼ばれた。木見金次郎門下で、升田幸三、大山康晴の兄弟子として有名である。


 それではその中身をすこしご紹介しましょう。
 大野源一VS升田幸三戦から。
 対局日は昭和38年2月28日。大野52歳、升田45歳。A級順位戦です。

 〔 私は元来口が悪く、のちに名人になった二人をつかまえ、お前の将棋は弱い、ものにならんから荷物をまとめ、田舎に帰れとか、お前は馬鹿だとかよく言ったが、非凡な二人はその間に私の弱点をみつけ、晩年私に容易に勝たせてくれなかった。特に升田は、私の棋界随一のニガ手である。 〕

 序盤。後手番大野は3二飛と三間飛車。升田は5七銀左の急戦。


41手目▲3五歩まで

      △3五同歩  ▲同 飛 △4五歩  ▲3七桂 △4六歩  
 ▲同 銀 △4四金  ▲3三飛成 △同 桂  ▲5七銀左 △5五歩
 ▲4二角 △3六歩  ▲5一角成 △同 金

 
 大野は4三金と左金をあがり、5二飛と中飛車に。升田は3八飛から攻めをねらう。
 升田は▲3五歩から開戦。
 大野、△4五歩。振飛車らしい反撃。
 升田、3三飛成。飛車を切って攻める。



56手目△5一同金まで

 ▲3一飛 △6二角  ▲3三飛成 △3七歩成 ▲同 龍 △4五桂
 ▲3九龍 △5七桂成 ▲同 銀 △2六飛  ▲5五歩 △5六歩
 ▲6六銀 △2七飛成 ▲8六桂 △5三角  ▲7七桂 △4五金
 ▲4九龍 △4六銀  ▲5四歩 △3五角  ▲4七歩 △5五銀引
 ▲同 銀 △同 金  ▲7四桂打 △同 歩  ▲同 桂 △9二玉
 ▲8五桂 △7一銀

 升田は攻める――と思いきや、受けにまわる。

 〔 ▲3七同竜と引いたあたり、むかしの彼の粘り強い棋風が十分によみがえっている。 升田の棋風は、内弟子時代に、私の攻めに対抗するため、非常に粘り強い受けの棋風になったが、最近は卓越する実力により、本来の豪放な攻めに戻ったようである。〕

 〔 ▲3九龍は升田特有の粘い手で、こういう場合、力に自信のない人は、ほとんど3一竜ととびこむのである。 しかし升田は、竜を受けに使って粘る。私はこれまで、升田のこの粘りに何度も、好局を落としている。 〕


88手目△7一銀まで

 ▲3九龍 △6八角成 ▲同 金 △5七歩成 ▲同 金 △6五桂
 ▲5八金 △2六龍  ▲4四角 △7六龍  ▲7七歩 △7四龍
 ▲7一角成 △6一金打 ▲8二銀

 ここでは大野優勢。△6八角成から決めにでる。
 しかし升田も▲4四角から反撃。
 だがそれも大野源一の読み筋。 升田の▲7一角成に対し、△6一金「打」としたのが読みの入った手だった。



103手▲8二銀まで

       △7一金  ▲同銀不成 △8二桂  ▲3一龍 △6一金
 ▲6二銀打 △同 金  ▲同銀成 △9五角  ▲6八金打 △6二角
 ▲1一龍 △5七歩  ▲5九金 △8五龍  ▲1二龍 △7五桂
 ▲9八金 △5六金  ▲6二龍 △6七桂成 ▲同 金 △同 金
 ▲同 玉 △6六銀  ▲同 玉 △7五龍
                        まで130手で後手の勝ち

 升田、食いつくが、△9五角と攻防の好手があって勝負は決した。
 (それにしても升田さんの▲9八金は、ひどい手だ…。)


投了図

 大野源一の勝ち。「ニガ手の弟弟子」升田からA級順位戦でのうれしい1勝である。

 升田幸三はこの対局に負けたが、この期は8勝2敗で名人戦挑戦者になった。しかし升田の大山康晴名人との名人戦は、弟弟子の大山が4-1で防衛。大山名人最強の時代であった。
 強烈な個性をもつ大阪・木見門下の三兄弟――。 昭和の「振り飛車ブーム」は彼ら三人が中心となって巻き起こした大竜巻であった。 今はみな、故人である。



本の紹介ついでに、これは児玉孝一著『カニカニ銀』
 クラムボンはカプカプ笑ったよ―――、あれれ?



 将棋とまったく関係ないですが、先々週金曜ロードショウでやっていた映画『舞妓Haaaan!!!』の録画を昨日、観ました。 大爆笑。おもしろかった~。 こういう日本の「笑い」が世界で受け入れられる日がいつか来るのでしょうか?