法律の周辺

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有識者会議報告書の前提条件について

2007-01-03 14:13:12 | Weblog
安倍首相,女系天皇容認白紙へ 典範改正視野に議論 Sankei Web

 皇位継承資格を女子や女系の皇族に拡大することが必要であるとした「皇室典範に関する有識者会議」の報告書の結びは次のようになっている。なお,太字は管理人によるもの。

結び

 象徴天皇の制度は,現行憲法の制定後,60年近くが経過する中で,多くの国民の支持するものとして定着してきた。我々は,古代から世襲により連綿と受け継がれてきた天皇の制度が,将来にわたって,安定的に維持されることが何よりも重要であり,また,それが多くの国民の願いであるとの認識に立って,検討に取り組んできた。

 象徴天皇の制度は,国民の理解と支持なくしては成り立たない。このことを前提に,冒頭述べたように,制度の成り立ちからその背景となる歴史的事実を冷静に見つめ,多角的に問題の分析をした結果,非嫡系継承の否定,我が国社会の少子化といった状況の中で,古来続いてきた皇位の男系継承を安定的に維持することは極めて困難であり,皇位継承資格を女子や女系の皇族に拡大することが必要であるとの判断に達した。

 古来続いてきた男系継承の重さや伝統に対する国民の様々な思いを認識しつつも,議論を重ねる中で,我が国の将来を考えると,皇位の安定的な継承を維持するためには,女性天皇・女系天皇への途を開くことが不可欠であり,広範な国民の賛同を得られるとの認識で一致するに至ったものである。

 検討に際しては,今後,皇室に男子がご誕生になることも含め,様々な状況を考慮したが,現在の社会状況を踏まえたとき,中長期的な制度の在り方として,ここで明らかにした結論が最善のものであると判断した。

 ここでの提言に沿って,将来,女性が皇位に即くこととなれば,それは,近代以降の我が国にとっては初めての経験となる。新たな皇位継承の制度が円滑に機能するよう,関係者の努力をお願いしたい。

 皇位の継承は国家の基本に関わる事項であり,これについて不安定な状況が続くことは好ましいことではない。また,皇族女子が婚姻により皇族の身分を離れる現行制度の下では,遠からず皇族の数が著しく少なくなってしまうおそれがある。さらに,将来の皇位継承資格者は,なるべく早い時期に確定しておくことが望ましい。このような事情を考えると,皇位継承制度の改正は早期に実施される必要がある。

 当会議の結論が,広く国民に受け入れられ,皇位の安定的な継承に寄与することを願ってやまない。


報告書の前提条件が変わったとの判断のようだが,はて,さて・・・。

首相官邸 皇室典範に関する有識者会議 報告書


皇室典範の関連条文

第一条  皇位は,皇統に属する男系の男子が,これを継承する。

第二条  皇位は,左の順序により,皇族に,これを伝える。
一  皇長子
二  皇長孫
三  その他の皇長子の子孫
四  皇次子及びその子孫
五  その他の皇子孫
六  皇兄弟及びその子孫
七  皇伯叔父及びその子孫
2  前項各号の皇族がないときは,皇位は,それ以上で,最近親の系統の皇族に,これを伝える。
3  前二項の場合においては,長系を先にし,同等内では,長を先にする。

第三条  皇嗣に,精神若しくは身体の不治の重患があり,又は重大な事故があるときは,皇室会議の議により,前条に定める順序に従つて,皇位継承の順序を変えることができる。
第五条  皇后,太皇太后,皇太后,親王,親王妃,内親王,王,王妃及び女王を皇族とする。

第九条  天皇及び皇族は,養子をすることができない。

第十条  立后及び皇族男子の婚姻は,皇室会議の議を経ることを要する。

第十一条  年齢十五年以上の内親王,王及び女王は,その意思に基き,皇室会議の議により,皇族の身分を離れる。
2  親王(皇太子及び皇太孫を除く。),内親王,王及び女王は,前項の場合の外,やむを得ない特別の事由があるときは,皇室会議の議により,皇族の身分を離れる。

第十二条  皇族女子は,天皇及び皇族以外の者と婚姻したときは,皇族の身分を離れる。

第十三条  皇族の身分を離れる親王又は王の妃並びに直系卑属及びその妃は,他の皇族と婚姻した女子及びその直系卑属を除き,同時に皇族の身分を離れる。但し,直系卑属及びその妃については,皇室会議の議により,皇族の身分を離れないものとすることができる。

第十四条  皇族以外の女子で親王妃又は王妃となつた者が,その夫を失つたときは,その意思により,皇族の身分を離れることができる。
2  前項の者が,その夫を失つたときは,同項による場合の外,やむを得ない特別の事由があるときは,皇室会議の議により,皇族の身分を離れる。
3  第一項の者は,離婚したときは,皇族の身分を離れる。
4  第一項及び前項の規定は,前条の他の皇族と婚姻した女子に,これを準用する。

第十五条  皇族以外の者及びその子孫は,女子が皇后となる場合及び皇族男子と婚姻する場合を除いては,皇族となることがない。

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国民投票法をめぐる手続上の問題点について

2007-01-03 11:57:28 | Weblog
憲法施行60年,改正論議に転機・国民投票法案が焦点に NIKKEI NET

 江橋崇先生がその著書『市民主権からの憲法理論 増補型改正の提案』で,国民投票法をめぐる手続上の問題点として,「思いつく(まま)」あげられたのは以下の諸点。以前,このブログでも書いたことがあったが,再掲したい。
江橋先生は,前記著書の表題どおり,憲法改正の方式として,現行憲法の本文はそのまま残したうえで,追加条項を加えていく「増補型改正」を提案しておられる。

1 国会の発議からどのくらいの広報期間を経たのちに,国民投票をおこなうのか。
2 国民投票に参加できる国民の範囲はどこまでか。
3 憲法改正案の承認は一括で求めるのか。条文ごとに賛否を問うのか。
4 提案者である国会は,改憲案の趣旨や意義をどのように国民に広報するのか。
5 憲法改正反対派の意見も広報するのか。どのような形で認めるのか。
6 マスメディアにどのような報道を認めるのか。どのような広報を義務付けるのか。
7 憲法改正に賛成し,あるいは反対する市民の運動をどこまで認めるのか。

 なお,江橋先生は,憲法の改正条項には手続き上の不備が多数あると指摘しておられる。
例えば,憲法改正案を国会に提案する権限はどこにあるのか,衆参両院のどちらに先議権があるのか,衆参両院の議決が食い違った場合,どちらの議決が優先されるのか,それとも両院協議会により調整されるのか,国民投票についての「国会の発議」はだれの名前でするのか,「日本国国会」という発議の法的な主体があるのか,あるとすればそれを代表するのはだれか,等。

参考 公明党 第5回党全国大会運動方針 Ⅳ 憲法問題への視点


日本国憲法の関連条文

第九十六条  この憲法の改正は,各議院の総議員の三分の二以上の賛成で,国会が,これを発議し,国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には,特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において,その過半数の賛成を必要とする。
2  憲法改正について前項の承認を経たときは,天皇は,国民の名で,この憲法と一体を成すものとして,直ちにこれを公布する。

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