唯一無二の一投なり

花見月の釣りブログです。能登での釣りが中心です☆彡

海に帰る

2017年12月31日 14時44分01秒 | シーバス

天候に恵まれない日が続く

天気予報を見ては,ため息をつく

もどかしい思いで毎日を過ごす

 

少し波が落ち着いた

ハタハタも接岸している模様

準備は万端


港に車を停め,堤防の先端に向かうが

無意識のうちに,つい小走りになってしまう


薄暮の中,鉛色の雲間から陽光が差している

眼前の海原を一瞥してからセッティングに取り掛かる

ルアーにスナップを掛けようとするが

凍てつく風に指先から寒さが全身に伝わる

 

堤防の西からは,幾度となく大波が寄せてくる

それはまるで呼吸のようで

大きく引けば,その分大きな波が寄ってくる

時折,飛沫がミストシャワーのように

降り注いでくるかと思えば

突然,遊園地のアトラクションのように

全身に波をかぶることもある

足下は砕けた波頭で,白い泡粒の世界が広がっていた

 


いつもは乗らないテトラに渡った

釣り座の安全を確認してから,ようやくキャストを開始するが

風を受け,ラインが大きくたわむ

慌ててラインがテトラに絡まないようにスラックを取り

ルアーを直線上に引く


周辺に轟く波の衝突音

足下が白波で洗われるたびに鼓動が早くなる

恐怖心を思い切りのキャスティングで掻き消しながら

ハンドルを握る指先に全神経を集中させ

ルアーが潮に絡む位置を探る

 

ようやく引き抵抗を感じるポイントを探り当てる

レンジを下げてデッドスローで誘う


気が付けば遥か対岸の外灯にオレンジ色の灯がともっている

西からは海原と空の境界が分からないほどの漆黒の闇が押し寄せてくる



息を殺し,慎重なリトリーブ


ふっと息を吐いた瞬間

微細なアタリ

直後に激震


きた




 


駐車場には,開式の30分前に着いた

胸元のポケットに手を入れ,香典を確認する

駐車場には続々と車が入ってくる

誘導係が電飾棒を振りながら

慌ただしく駐車場を駆け回っているのを横目に

おもむろに会場に入る

受け付けで黙礼とともに香典を渡し,ホールに入る

まっすぐ正面を見る

J氏は,凛とした表情で遺影に収まっていた


お店が急に休業になった知らせを聞いて,予感はしていた

西海一の一本釣り漁師だったJ氏には,よく話をしてもらった

J氏の釣行話の数々は今でも鮮明に覚えている

どの話も豪快な話ばかりで

毎回,固唾をのんで話の顛末を聞いていた

時には,スズキの釣れるポイントを余すところなく教えてくれたり

たわいない世間話に花を咲かせたりすることもあった


J氏は数年前に病が見つかり,船を下りた

もう漁ができない

その残酷な現実にJ氏は苦しみ

海を見るだけで,何度も気が狂いそうになったという


随分と時間が経ってから

「やっと海を触れるようになった」

と,辛い苦しみを経てようやく現実を受け入れられるようになった心情を

そう語っていた

 

 

「釣果に限らず結果を出そうと思うのなら

 常に人の先を進まなければならない

 人と同じことはするな」

この言葉は,きっと一生忘れられない


本人にとって私は暇つぶしの話相手だったかもしれないが

私はいつも嬉しかった

毎回,話を聞いた後は興奮冷めやらず

家に帰ってからは妻に先ほど聞いたばかり話を

まるで自分のことのように熱く語っていた

 

釣りをする者なら,そして男ならこうありたいと

憧れの思いを抱かせてくれるほど魅力的な人であった



思い出が頭を駆け巡っていたかと思うと

気が付けば僧侶は経を唱え終え,法話を始めていた


その中で,人は死後「浄土に行く」のではなく

「浄土に帰る」と話していた

 

なるほど


あるべきところに戻るのか

それならば,J氏はきっと海に帰ったのだろう


生涯,こよなく海と釣りを愛してきたJ氏である 

きっとまた

船上で竿先を見つめながら大物のアラを狙っているのだろうか

それとも若いころ夢中だったスズキを追っているのだろうか

 

生き生きと海に帰るJ氏を想像すると

塞いでいた気持ちが少し,救われるような気がした






底で暴れて,なかなか上がってこない

テトラ下に潜り込まれないように,ロッドを斜め前に突き出し

ランディングポイントまで引き込む

やっと浮上してきたかと思えば

冬のシーバスには珍しくエラ洗いで抵抗する


絶対にばらしたくない


ロッドを握りしめる手が震えている

ひたすらフックアウトしないことだけを祈りながら

徐々に手前に寄せる

 

ライトを海面に照射する

テトラ際の渦の中からシーバスが姿を現す

タモを海中に投下し,寄せる波に乗せて

ようやくネットの中に収めた


よし

自然と安堵の声が漏れる


震えが残る手で丁寧にフックを外し

動悸が収まるまでしばらく魚体を眺める


シーバスは,観念したのか落ち着き払っていたが

銀鱗の瑞々しい輝きから力強い生の躍動を感じた



最初の1匹は海に返そうと思っていた

日頃釣果の乏しいアングラーがリリースだなんて

妙に恥ずかしい気もしたが

それでもせめて最初の1匹は海に返したかった


命拾いをしたシーバスは,何事もなかったかのように

静かに尾を振り,深い海の底へ戻っていった


シーバスを見送り,しばらく呆然と立ち尽くす


ゆっくりと深呼吸をしてから

ロッドを大きく振りかぶり,ルアーを飛ばす

着水と同時に,スラックを巻き取り

スローリトリーブ




さあ,こい






 



最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (タコ)
2018-01-03 21:12:58
歳を取るにつれ辛い別れが増えていきますね。
花さんも釣行に際しては十分な安全確保をお願いします。
返信する
タコさん,どうも (花見月)
2018-01-04 23:38:09
まだまだ教わりたいこと,話したいことがたくさんあったのですが,本当に残念です・・。
返信する
色々あるもんだ・・・ (しげりん「)
2018-01-26 23:50:20
人との出会いで
得るもの
失うもの
色々いあるわさ!

学習して
日々勉強だね。

俺もまだ道半ば・・・

がんばろうね!
返信する
しげりんさん,どうも~ (花見月)
2018-01-27 19:17:55
身近にいた人が亡くなると,とっても考えさせられますね。

たくさんのことを勉強させていただきました。

まだまだ教わりたいことがあったのですが,本当に残念です・・
返信する

コメントを投稿