華's 徒然日記

日々の出来事を、気が向いたときに、徒然なるままに書き記していこうと思います。

キャッチボール

2010-04-19 00:00:00 | 超短編
男が、オフィスビルの屋上からソフトボールを投げている。何か大声で喚くわけでもなく、何か標的があるわけでもなく、黙々と、無差別にボールを投げている。
通りを行き交う人々は、突然、大雨に見舞われたように近くの建物へ避難する。人が散り散りに居なくなっても、男はボールを投げ続ける。コンクリートに跳ね返り、並木の緑を揺らし、車に潰されたりしながら道路に白球が散乱していく。
しばらくして、男はボールを投げる手を止める。ボールの代わりに、靴や携帯電話が地上に落ちる。シャツがひらひらと舞い、ジーンズが枝に引っかかり、やがて男は全裸になる。
投げるものが尽きた男は、金網をよじ登り、屋上の淵に立つ。男はソフトボールの行方を一つひとつ確認するように、地上に目を配らせる。白い水溜りを救うものが誰もいないことを知ると男はどこか諦めたように肩を落とす。間もなく、人々の視線の先がビルから空へ、空から地面へ目まぐるしく変化する。男は道路にうつぶせになり、キャッチボールの夢を見ながら、眠りにつく。