はなこのアンテナ@無知の知

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賞賛されるべき彼らの功績~後進に歩むべき道筋を示す

2009年11月03日 | はなこ的考察―良いこと探し
 先日、三遊亭円楽師匠が亡くなられた。壮年期は芸の道に精進しつつも、それ以外での苦労が絶えず、晩年は度重なる病との闘いだったようだ。それでもファンの前では柔和な表情を崩さなかった。心からご冥福をお祈り申し上げしたい。

 円楽師匠は落語家として超一流だったが、その特筆すべき功績は、後進の育成にあったと言う。円楽一門の噺の上手さには定評がある。特に愛弟子の三遊亭楽太郎を、彼の大学時代から手塩にかけて、来年には自らの名跡「三遊亭円楽」を継がせるまでに育て上げた。「別に私と同じでなくていい。楽太郎なりの円楽を創り上げればいい」と言う師匠の言葉に、弟子への深い愛情が読み取れる。この楽太郎をはじめ、10月に真打ちに昇進したばかりの王楽まで、実に27人の弟子を育て上げた。そして落語では本来禁じ手である高座での涙も、自ら語る人情噺で感極まってのことだったらしく、それをして評論家に「それもこれも師匠の情の濃さから」と言わしめる人柄が偲ばれる。

 また、通夜に出席した前出の楽太郎はマスコミの囲み取材を受け、師匠の別の功績について、最も長く身近にいた弟子として誇らしげに語っている。その功績とは、テレビ番組「笑点」の司会を長年務めただけでなく、全国を隈無く回って落語の普及に努めたことである。今でこそ落語家の地方公演は珍しくないが、その先鞭を付けたのが円楽師匠だったと言うのである。師匠がつけた道筋を辿るべく、楽太郎は自らプロデュースした「博多天神落語まつり」で福岡に滞在中に、師匠の訃報に接している。「師匠の小言をもう聞けないのが悲しい」と涙ながらに語る楽太郎の言葉が切ない。

 時をほぼ同じくして、名伯楽と謳われた野村克也監督も勇退された。こちらは自ら望んでの道ではなかったようだが、最近ではマーくんこと、田中将大投手を若手でもトップクラスの選手に育て上げ、また、一度は他球団でお払い箱になった怪我や不振に喘ぐ選手を数多く「野村再生工場」と称された指導で見事に復活させたりと、その選手育成の手腕は高く評価されている。さらに東北楽天イーグルスと言う新興のチームを、僅か4年でクライマックスシリーズで戦えるチームにまで強くした点も、もっともっと高く評価されていいはずだ。

 勇退時に自ら「俺は人を残した(選手を育てた)と言う意味で、球界にちょっとは貢献できたかな」と謙遜されていたが、数多くの選手を育て、プロ野球を活性化させたと言う意味で、その功績は多大である。スター性に優る王、長島と同時代に現役生活を送ったことで過小評価されがちだが、選手としても超一流であったはずだ。選手としても監督としても、日本プロ野球史に、その名を残す人であることは間違いないだろう。

 そして、最後に名前を挙げたいのはThe King of Popこと、マイケル・ジャクソン。6月に急逝した彼の、7月に開催予定だったライブのリハーサル映像が、現在ドキュメンタリー映画として公開され大ヒット中だが、その映像を見るにつけ、彼が後進のアーティストに与えた多大な影響を思わずにはいられない。

  映画『This Is It』には、彼のライブでメインダンサーを務めるダンサーのオーディションのシーンが織り込まれているが、何十人と言うダンサーがステージ上で一斉に踊る姿は圧巻である。マイケルの名の下に世界中から集まった、才能溢れる若手ダンサー達。

 素人目には誰もが抜群の上手さで、どう選別して行くのか見当もつかない。しかしプロたる審査員はその鋭い眼差しで、次々と瞬時に当落を決めて行く。そして審査員のひとりはこう言い放つのだ。「高い技術力が求められるのは当然で、さらにダンサー自身に”華”がなければダメ」と。

 それを裏付けるように、ライブ・リハーサルのステージ上に現れた10人余りのダンサー達は、それぞれが強烈な存在感を放っていた。それでもマイケルがその中に加わると、中心でひときわ光り輝くのだ。そのカリスマ性たるや、ダンサーのみならず、その場に立ち会った音楽、演出、美術、技術等、それぞれの分野で既に超一流と認められている人々でさえ、しばし忘我するほど。

 マイケルがステージ上で歌唱に専念する時、ダンサー達は客席側でその一部始終を見ているわけだが、皆、憧れと至福の表情で見入っている。その映像を、まさに特等席にいる彼らを、映画館の客席にいる観客は羨望の眼差しで見つめ続けるのだ。

 既に多くの人が指摘していることかもしれないが、マイケルが超一流なのは、そのアーティストとしての才能だけではない。仕事に対する真摯な姿勢(プロ意識の高さ)、共に働くスタッフ・キャストへの細やかな気遣い(リハーサルはマイケルの穏やかな人柄もあって和やかな雰囲気の中で行われている。ひとりひとりが生気を漲らせながら、自らのベストパフォーマンスを目指して程よい緊張感に包まれているのが見て取れる)、そして誰もが認める偉大なアーティストでありながら、自らを「地球上に生きる生命体のひとつに過ぎない」と位置づける謙虚さと言った、ひとりの人間としての在り方なのだ。その類い希なる才能と人間性から生まれる作品の世界観のスケールの大きさと想いの深さに、今回改めて圧倒されたと言っていい。

 この10年は彼の特異な面のみが大きく取り沙汰され、偉大なアーティスト、マイケルにとっては「失われた10年」とも言うべき歳月だったが、同時に世界最高のエンターテインメントを求める人々にとっても、その損失が悔やまれる10年であったと思う。それを否応なく思い知らされるのが、公開中の映画『This Is It』なのだ。リハーサル映像でさえ、天才マイケルと「時代の先端を行く才能集団」が織りなすパフォーマンスの素晴らしさに興奮を覚えるのだから、完成形だったら一体どれほど素晴らしい(Amazing & Exciting)ライブであったのか、想像するだに残念で仕方がない。

 しかし、濃密なライブ・リハーサルを通して、マイケル・ジャクソンと言う超一流の人間の一挙手一投足を間近に見たスタッフ・キャストは、マイケルから計り知れないほどの薫陶を受けたであろうことは想像に難くない。それは彼らの今後の、その道のプロとしての活動のみならず、ひとりの人間としの生き様にも深く関わるような、人生でも一度あるかないかの衝撃的な体験であったのではないか?

 まさに身を以てマイケル・ジャクソンはアーティストとして、同時にひとりの人間としての在り方(在るべき姿)を、後進に示したのだと思う。その意味で、マイケル・ジャクソンも、今後のエンターテインメント界で活躍するであろう多くの新たな才能を発掘し、感化する重要な役割を果たして、この世を去ったと言えるのではないだろうか?天国のマイケルに惜しみない賞賛の拍手を送ると共に深く感謝したい。 


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