花日和 Hana-biyori

子ぶたのトリュフ

『子ぶたのトリュフ』ヘレン・ピータース/エリー・スノードン:絵/もりうちすみこ:訳(さ・え・ら書房)

今年の中学年(3,4年生)の課題図書です。

「ベイブ」みたいな、擬人化された子ぶた自身が活躍するお話かと思いきや、イギリスの農場を舞台に、家畜と共に生きる様子を描くリアリティ寄りのお話でした。

あらすじ> 主人公の少女、ジャスミンのおうちは牛をたくさん飼っている農場。お母さんは家畜の獣医さんです。ある日、お母さんの仕事でカーターさんの農場についていったジャスミンは、産まれたばかりの子ぶたたちの中で、他の子ぶたに潰されて今にも死にそうなこぶたを見つけます。急いでカーターさんに知らせましたが、カーターさんは「適者生存が自然の掟だ」と言って子ぶたを助けようとしません。ジャスミンは何とか子のこぶたを助けようと思いきった行動にでるのでした。

* * *

作者のヘレン・ピータースは、イギリスの南東部、サセックスの農場で育ったとのことで、家畜の世話や知識、農家の人たちの振るまいが生き生きと描かれています。単なる「農場のイメージ」ではないことが端々にうかがえます。

ジャスミンが子ぶたを何とか生かそうと世話をする一連の行動も具体的。瀕死の子ぶたをオーブンで温める場面に驚きましたが、実際にやっていたことなのでしょう。大きなオーブンは4つの部分に分かれており、それぞれ違う温度に保たれていたので、常に低いほうの釜に低体温の恐れがある動物の赤ちゃんを入れていたようです。

さて、物語は子ぶただけでなく猫やにわとり、モルモットや犬まで、ジャスミンにそれはそれは愛されて世話をされている場面が丁寧に描かれ、ジャスミンの動物好きが本当によくわかります。

子やぎにやるための粉ミルクはあまいにおいがすることを、友だちのトムに言ったあとのセリフがいいです。

「ああ、このにおいをかぐと、動物の赤ちゃんにミルクをあげたくてたまらなくなるわ」

甘い香りで自分が何かを食べたくなるのではなく、動物の赤ちゃんの世話をしたくてウズウズするというのだから、相当な筋金入りです。

親友のトムも動物好きで、ペットの前で言葉を選んでいた場面がよかった。

ただ、農場は自然に囲まれており、動物と共に暮らすことは楽しいことばかりではないことも、ちゃんと描かれます。ジャスミンの気持ちを思って、ちょっと泣きそうになった場面もありました。

ファンタジーではなく、派手な起伏もさほどないので、細かい描写や農場の生活のあれこれを楽しめるかどうかが、子どもが面白く読めるかどうかの分かれ道でしょう。動物好きの子なら、きっと引き込まれるお話だと思います。
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