落語や歌舞伎の演目をモチーフにした、ちょっと怪談ぽい連作短編集。客観的な視点でユーモアを感じさせつつジェンダー問題を的確に織り交ぜているのがみどころ。
死者と生者の社員がいる謎の会社があって、そこからシングルマザーの子育てサポート(実は幽霊)が派遣されてくるとか、この世では見過ごされている女が生きる過酷な歪みを一つ一つ掬い上げている。
死んで(または人外覚醒し)はじめて自由や解放感が得られた女性たちが多く描かれ、皮肉を感じつつも納得感も強かった。
印象深かったのは『クズハの一生』で、すごい実力があるのに出力抑えて生きてきた女性の人生。後半、会社の若い男性に憐れみを向けるところは、息子のいる私としては胸がざわざわしてしまう。
――クズハがOLをしていたときと、社会はだいぶ変化した。今では、男でさえ正社員になるのが難しいらしい。悪い意味で、平等になった。女が上がらず、男が下がってきた。かつては女にしか見えなかったはずの天井が、この青年にも見えていることがクズハにもわかった。(p135~136)
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個人的にいちばん好きなのは、すべて死後の3人が語る構成の『楽しそう』。
幽霊や死後の世界の者が活躍する物語って、わたしが見てきた中では“生きている人のため”に死者が行動するというものが多かったと思う。けど、これは本人が本人のために死後を満喫している話で新鮮だった。
かつて妻だった女性、その夫、後妻の女性の一人語り。人は死んで未練を残すと思われがちだけど、死んでからのほうがそれぞれに「楽しそう」なのだ。
それだけ現世が息苦しいということが浮き彫りになってしまうわけだけど、つまりそいうものを突き付けている話なんだろう。生きているよりずっとましな死後の世界、あまり魅力を感じるのは危険だけれど。
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