花日和 Hana-biyori

『もう生まれたくない』読書会レポ

昨年の12月28日、つまり年末の追い込み忙しい夜というのに、読書会を敢行してとっても面白かったです。しかしもう日が経ちすぎで諸々うろ覚えの単なるメモなので、ニュアンスなど微妙に違っていたらすみませんです。

でもいくらかでも覚えておきたいので残しますね。

【長嶋有『もう生まれたくない』2017年6月発行、講談社】読書会 参加者6名

2011年から数年間、ある大学で知り合う数人の男女たちが接する「死」と、日常と思いを、それぞれの視点で描く小説。長嶋有は芥川龍之介賞、川端康成文学賞、谷崎潤一郎賞を受賞、本作は第15回本屋大賞受賞。

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・あえて整理しない思いを言葉にしている。不安感を掻き立てられる。時代の雰囲気を描写するのが上手い。しかし小説の登場人物たちにまったく共感しない。物語のその後、ネガティブな想像しか浮かばない。それでも生きていく、というものを描いている。長嶋有って怖いわ。

・全体的に上手い。毎日のように訃報がある。今年だけじゃなく、毎年死ぬ。人って死ぬんだな、でも日常は続いていくんだ、と思った。共感するのは、遊里奈の「隙間が怖い」、ゴシップは好きでもその有名人が好きなわけじゃない、というところもわかる~。

・言葉がすべて的確で、描写の解像度が高い。他人の日常や思いをものすごく精妙に掬い取って書かれている。あるあるあるある、そうだそうだとデティールを味わっているうちに(あっという間に)読み終わってしまった。克明な他者の日常を追体験しましたというかんじ。これといった感想が出てこない。

・共感するのは隙間が怖い遊里奈ちゃん。落ちる恐怖ではなく、「何か落とす」という恐怖。自分の生きている日常を克明に描いたらこうなる。小説というよりエッセイと呼んでも良いような。

・私は長嶋有のファンで、どの辺が好きなのかと言えば文章をものすごく克明に書くところ。しかも劇的なことが無いまま克明に書く。わかりやすい面白さが無いままこれをやるというのは、小説という文章表現でどこまで書けるのか、かなり覚悟を持ってやっていると思う。表現の仕方として面白い。感情が薄いあるあるはある。

・固有名詞が出てくることで、その時代の思い出が浮かび上がる。私は固有名詞が出てくる小説が好きで、長嶋有は固有名詞の使い方が日本ではトップレベルに上手い。固有名詞が出ると普遍性が無くなるということと戦っている。表現できないギリギリを攻めている。

・チエーホフの「舞台に銃を出したらその銃を使う必要がある」という言葉がある(うろ覚え)が、「銃が出てきても使われないときは使われない」ことを描いている。あまりエモーショナルじゃないところもいい。このくらい距離があり、熱量が低いほうが読みやすい。

・タイトルの「もう生まれたくない」が一番共感する。この人生を1からやり直したくないという思い。アグレッシブに人生を進める人もいるがそうではない人もいる、そういう気持ち。共感した言葉のひとつは単行本p104、根津神子(ねずみこ)の思い。

「旺盛に生きなくてよいと最初に思ったのはいつからだろうかと考えながら横断歩道を渡った」


このほか、夫を急な事故でなくした女性が飲むお酒の種類、描写によってアル中が深まっていくのがわかる、という指摘など、面白かったです。「訃報がモチーフになっている話で、日々誰かが死んでいる、人は意外と脈絡なく死んじゃう、死が偏在している、平熱な感じ」「人は葬式の帰りにこの定食屋に寄ろうとか考えるもの」といった声など、まだまだたくさん面白く共感する意見がありました。

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私は、自分だけで読んでいたときは『もう生まれたくない』って、もう死んでいる人、死者目線の重い言葉だと思っていたのですが、確かに「また1からやり直したくない」という気持ちという捉え方もあるのだな、むしろそのほうがしっくりくる、と気づかされました。

読んでいるときは確実に面白いけれど、これといったヒキや大きな展開があるわけではないので、確かに感想が難しい小説でした。でも、「確実に上手い」ことは一致した感想だったように思います。本当に、人って意外とあっけなく死んでしまう、それが特別なことではなく紡がれる日常描写に織り込まれている、それで読ませる、というのは並大抵なことじゃないですよね。

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次回はガラッと変わってライトノベル?上遠野 浩平『海賊島事件 the man in pirate’s island 』 (講談社タイガ文庫)でございます。シリーズものの1つなのでネタバレどうなの?文章どうなの?悪く言われても落ち込まない?という各方面からの不安の声も乗り越えて決定です!私はまだ読んでいません!

コメント一覧

スウ
はづきさん ありがとうございます!
読書会ではづきさんのコメントを聞くのいつも楽しみにしています。それこそ言葉を尽くして色々教えていただけるので~。

上遠野浩平は初めて読みます!正直私も不安(笑)ですがそこまで推すなら読まなきゃですねえ。今日から読みますよ、ええ。
はづき真理
いつもありがとうございます! 今回いつにもまして総括が難しかったかと……!

そして不安を乗り越えて上遠野浩平でっす。自分はもう2回再読しました!笑 厳しい意見どんとこいです。
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