花日和 Hana-biyori

くまの子ウーフ

『くまの子ウーフ』神沢利子:作/井上洋介:絵


くまの子「ウーフ」が、のんびり考えたり遊んだりしている日常を描いたおはなし。昼寝から目が覚めるといきなり「木はいいなあ。木になりたいなあ」と考え、さらにハチとかサカナになりたがり、魚にからかわれて泣いてお家に帰ってお母さんになぐさめられるウーフ。

かわいいです…。
どちらかというとちょっとどこか抜けているかんじの、のんびりやさんのくまの子は、みているだけでほんわかした気持ちになります。これも家庭文庫の今月の課題本。

いじわる役のきつねのツネタが、ちょうちょを死なせてしまって泣いているウーフにきびしいツッコミをするところ、なかなかぐっときました。

とんぼをとって遊んでいて羽がもげて死んじゃったときは泣かなかったのに、おしりでてんとうむしをつぶしても笑っていたのに、
「へんなウーフ。さかなもぱくぱくたべるくせして、は、ちょうちょだけ、どうしてかわいそうなの。おかしいや。」
確かに、かなりの矛盾をついています。ウーフは、「しらない…」といって、泣くしかありません。うさぎのミミちゃんが「ひどいわ、ツネタちゃん。せっかくウーちゃんが泣いてるのに」ととがめると、
「せっかくなんて、へんだね。まあ、どうぞないてるといいや。こんばん、ビフテキたべるときは、もっとわんわんなくんだぞ」
とダメ押しの一撃です。これに正確に対抗できる言葉を私は知りません。

ウーフは、「ううっ、ううっ」と泣くばかり。その後の描写もまたなんとも言えません。ちょうちょのお墓に供えていたドロップにアリがたかり、それをウーフが「だめだってば」となめてしまうのですが、

口の中で、たすけてくれえ 戸をあけてくれえ と、小さな声がしたようでした。
ウーフはいきをとめて、なみだのたまった目をまるくしました。


これでこの章は終わりです。びっくりしたウーフ、自分が本当に何気なく殺生していることに気付いたのでしょうか。
 
* * *

キツツキが結婚して子育てするときのエピソード、「たからがふえるといそがしい」も、良かったです。

キツツキのゲラさんは、お嫁さんという「たからもの」をみつけたとき結婚して、ウーフに祝福のハーモニカを吹いてもらうお話が前段として別にあります。その後たまごが生まれ、それを蛇から守り、ひなが孵れば餌を運ぶのに大忙し。林には、以前「ころろろーん」と響いたのんびりした音はなく、ただもう いそがし いそがし いそがし といっているように聞こえました。とあります。

「ゲラさんのたからものは、あのおよめさんひとりだったのに。」
と、ウーフは感心してうなりました。
「たからがふえちゃったんだ!たからがふえると、どろぼうの番もしなくちゃいけないし、いろいろといそがしくなるんだなあ!」

とウーフが気付くところが微笑ましく、親の立場としてはそのとおり、と納得しきりです。

* * *

「くま一ぴきは ねずみ百ぴきぶんか」では、ちょっと哲学的な問いがなされています。働くことの意味も同時に考えてもらおうとしているのかな。

干ばつになり、水が足りない中、ウーフの家では井戸の水を森の皆に快くわけてあげます。それなのに、キツネ一家は干上がった川で魚をづかみどり、町に売りに行ってひともうけするといいます。ぼくもとウーフが言うと「うちのなわばりだからだめ」と止められてしまい、納得のいかないウーフ。

そんな折、ウーフ家の井戸のモーターが壊れ、直している間ミミちゃんの家の井戸に貰いに行きます。が、ねずみに「そんな大きなバケツじゃうちの分がなくなっちゃう。いつもねずみ百ぴきぶん飲んだり食べたり。これだからクマは」と文句を言われ、すごすごと遠慮するウーフ。

モーターが直り、ウーフのお父さんは皆にもわけてあげようねとウーフを諭します。

貯水池をつくるのに働きに行くと言うお父さんに、ウーフが「くまは百ぴきぶんたべるから、百ぴきぶんはたらけば、いいんだ。そうだね、おとうさん」と言うと、おとうさんは笑いながら言いました。
「いいんだよ。ねずみは、ねずみ一ぴきぶん、きつねは、きつね一ぴきぶん、はたらくのさ。だれのなんびきぶんなんかじゃないんだよ。おとうさんはくまだから、くまの一ぴきぶん。ウーフなら、くまの子一ぴきぶんさ。みんなが一ぴきぶん、しっかりはたらけばいいんだ。や、にじがむこうの上までかかったよ。」

誰かのぶん余計に働くなんてしなくても、自分ができる力の範囲でしっかりやればいいんだと言い聞かせるのがいいですね。ちょっとじんときました。
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