家庭内暴力の報道が多いなあと感じる。わたしの家庭には暴力はなかった。父がわたしが幼い頃に肝硬変で亡くなったからである。父の記憶は、いっさいない。父は召集されて中国戦線に動員された。陸軍砲兵であったので、おそらく直接中国の人びとを殺害したことはなかったのではないかと思う。
ところで、直接中国大陸その他で、ふつうの庶民を殺した日本兵士は多いはずだ。「三光作戦」とか、「南京虐殺事件」とか、日本軍兵士は、あたかもイスラエルがガザのパレスチナ人を無差別に殺しているように、同じようなことをしていたからだ。
加害者としての日本軍兵士に、わたしは何度か聞き取りをしたことがあるが、ほとんどの人は戦場での話しを避けた。言えないことをした、ということなのだろう。
ところが、加害者としての日本軍兵士も、そういう残虐な行為をすることによって、みずからの精神を深く傷つけたのである。それは日本だけではなく、ベトナム戦争その他に従軍したアメリカ軍兵士にも同じこと、戦争によるPTSDが発生しているからだ。
帰国した元兵士たちのなかには、無気力のまま一生を過ごしたり、あるいは家庭内で暴力を振るったり、戦争で体験したことが引き金となっての精神の異常が発生した。
戦場での暴力が、帰国しての家庭内での暴力となり、そしてその暴力が子どもたちにも伝えられていく。暴力のある家庭で育った子どもが長じて暴力を振るうことが多い。
戦場の暴力は、日本国内で消えてはいないのである。
【狂った父親】凄絶な戦地の記憶 家族に向いた狂気 復員兵のPTSD 『精神疾患』発症 幻聴や幻覚に悩まされた復員兵 終戦後「カルテ」の焼却を命じた軍 軍医たちがひそかに保管〈カンテレNEWS〉