原則的には、中央銀行は政府とは一線を画した、独立性の高い機関です。アベノミクスという政策に従属した立場というわけではありません。
なので、アベノミクスの失敗を言う時、日銀の政策範囲について、これを安倍総理個人の失政であるとまでは、責任を負わせることはできません。総理には、日銀に対し指揮監督できる権限はないわけです。
たとえ、黒田総裁誕生から日銀の異次元緩和策採用というものが、実質的に安倍政権が生んだものであるとしても、政策担当者は日銀であり、異次元緩和を止めさせたいなら、日銀に対してその批判を向けるべきです。
黒田日銀としても、安倍政権の経済政策指向と全く平仄が合わないということでは金融政策効果の発揮が阻害されると考えるでしょうから、政府と協調的な政策は求められますが、政府には命令できる権限がなく、日銀=アベノミクスでもないので、全責任を安倍総理に帰することは難しいでしょう。
「金融政策が失敗なので経済指標が悪いんだ」という主張をしたいなら、日銀が責任を負う立場にあり、安倍政権は悪くないと言うに等しくなります。
2)「アベノミクス」の3本の矢とは何か?
まず、議論の土台として、安倍が宣言してたのが「アベノミクス」で、安倍が言った経済政策だから間違っているんだ、というようなことではありません。
>http://www.kantei.go.jp/jp/headline/seichosenryaku/sanbonnoya.html
経済政策を大きく分けると、誰が分類しても、大体同じで、次の3つになります。
ア)金融政策
イ)財政政策
ウ)構造政策
ア)は、その大半を日銀が担当します。主なものは金利操作、国債関連のオペ、資産買入等です。かつて為替介入というのがありましたが、どちらかと言えば財務省の仕事ですので、実質的には財政政策でしょうか。広義には、為替に関係する政策は日銀が行うでしょう(例えば中央銀行間のスワップ)。
イ)は分かり易いのが、公共事業というやつですね。或いは、バラマキと批判されるもの、です。
ウ)は、多くの財政政策が一時的な支出に対し、構造改革などの言葉で言われたり、成長戦略とか言われる、持続性のある政策がこの範疇になるでしょうか。
アベノミクスが掲げた「3本の矢」とは、簡単に言うと、これを順番に並べたもの、です。
ア)が日銀の異次元緩和策、イ)が10兆円規模の一時的財政刺激策、ウ)が法人税減税や投資促進税制など、です。
イ)とウ)にまたがるものとしては、年金資金の配分変更です。主として、リスク投資を拡大する、ということになります。積立金運用は、財政政策的側面と、入ってくる年金保険料である投資割合を維持するという持続的政策(構造政策)面がある為です。
短期的刺激策にとどまりがちな、イ)は旧式のケインズ政策的と批判されがちですが、古い政策とて効果が期待できないわけではありません。未だにアスピリンもペニシリンも効果があるのと大差ありません。
日銀は、金利操作が既にゼロに張り付いてしまっているわけですから、操作レンジがほぼゼロということで、通常の「金利引き下げ」といった教科書的政策選択の余地がありませんでした。従って、量で調節、資産買入等、非伝統的政策しかなかった(遂にはマイナス金利政策採用となりました)わけです。
従って、安倍以外であろうと、経済政策を述べてみよ、と言われたら、誰が答える立場にあろうとも、ア~ウを言えば間違っているわけではなく、いたって普通の考え方である、と言えるでしょう。
ただ批判としては、イ)の財政政策が、いわゆる無駄遣いというのがあって、一般家庭でも同じではないかと。父ちゃんが好きなホビー関連とか釣竿とかゴルフクラブとかばかりにお金を使って、もっと優先順位の高い支出をケチケチするというのは非難されがち、ということですね。各論的には色々とあるでしょう。
消費税増税は、財政政策と構造政策の両面でしょう。財政政策としては、かなり大きな負の政策となってしまったということです。これは、本来の「3本の矢」に入っていたものではないでしょう。
3)2013年以降に効果があったことは何か?
これまでのところ、「アベノミクスの失敗」として批判されており、当方も総合的に見ればそのような判断をしています。しかし、何らの効果が見られなかった、というものではありません。
>http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2016/qe161/pdf/gaiyou1611.pdf
ざっと挙げると、次のようなことが言えるかと思います。
・名目GDP(成長率)がプラスに転じたこと
・GDPデフレーター、国内需要デフレーターがプラス圏になったこと
・CPIがプラス化したこと
・足元で雇用者報酬(名目、実質)がプラスに転化
これらは、主に金融政策効果が徐々に発揮されてきた、と見ることは可能です。
金融政策がデフレには効き目がない、といった単純なものではなく、曲がりなりにもインフレ方向へと向かってきている、ということだろうと思います。長期に渡りGDPデフレーターのマイナス圏推移だったことを思えば、大きな前進だろうと思います。
特に重要なのは、名目GDP成長率のプラス化(実質超え)です。海外取引とか国の債務管理という面からすると、影響は小さくありません。
日銀が決定的な政策効果を挙げた、ということではありませんが、他にこれといって手段がないので、やむを得ない面はあるでしょう。ある程度持続するよりないかと思います。
物価上昇がデフレ期以前に戻って、ある程度定常的にプラス圏で推移するように維持できるまでは、手を尽くすよりないわけです。実質成長率がゼロ近傍で推移したとしても、マイナスの名目GDP成長率である必然性はどこにもない、ということです。人口構成の変動とか、そういう問題ではありません。
4)アベノミクスの何が悪かったのか?
プラス面があったと考えますが、トータルでは失敗だったと言えます。その理由を述べます。
①消費税増税を政権に就く道具に利用したこと
最大の罪は権力闘争の材料として、消費税増税やTPP参加を利用したことです。総理の座に就く為なら、増税を認め、TPP反対と口先だけ言っておいて参加を強引に決めてもよい、ということですね。
たとえアベノミクスの経済政策の一部に良い面があろうとも、民主主義の仕組みに根本的に反しており、政治姿勢として許すことはできません。そればかりか、余勢をかって、法への挑戦と、国会の倫理すら破壊するに至りました。
野田政権と協力して、増税を叶えたことは、アベノミクス以前の決定的な大失敗であり、権力獲得の為ならどんなことをしてもかまわないと考えるような政治姿勢は、経済のみならず、あらゆる部分において認めるわけにはいきません。
②増税を可能にする為に財政支出を利用したこと
13年3月くらいまでには、株価上昇、安倍政権へのマスコミの礼讃&アベノミクス大宣伝効果もあって、消費は上向きました。その後も経済指標の良い数字が維持できるよう、10兆円規模の財政出動を行い、公的需要で実質GDPの良好な数字を支えたわけです。
景気条項のクリアの為に、ゲタを履かせたというわけです。
これは増税がない状況だったなら、もうちょっと平準化して財政支出を組み合わせ、物価のプラス圏への後押しをしてもよいかなと思うところで、助走スピードを上げるという点では必ずしも間違いとは思っていません。
けれども、安倍政権が望んだのは、スケジュール通りの増税であり、増税達成の為なら経済指標を上向かせることもやり、その為に財政刺激策を使った―特に建設業界などだろう―という点が、その動機と目的に誤りがあったと思います。
③財政刺激策で上向かせた結果の反動減
前年に下支えした財政支出は途絶えたので、公的需要が剥落した結果は酷いマイナス成長へと転落した。元々、駆け込み需要の後、2四半期程度は凹むのを覚悟してはいたものの、低迷は続いた。前年公需のゲタがここで響き、14年度のマイナス成長が想定外の大きさとなった。
その結果、賃金の伸びが物価上昇に追い付いていなかったのも加わり、家計消費低迷が決定的となった。
④大企業のみ優遇する政策
デフレ脱却過程では、金融政策の影響により通貨安を招くであろうことは、事前に推測されていた。実際、そのように推移した。
また、賃金上昇より物価上昇が先に波及すると、実質所得減少となる為、経済へのマイナス要因となることも、事前の想定通りだった。
為替では円安が進むこととなり、それが輸出比率の圧倒的に高い大企業にとって強い追い風となり、中小零細や輸入の多い企業にとってマイナスとなった。その上で、法人税引き下げや投資減税等は、大企業に有利な政策ばかりが優先的に選好された。
つまり、輸出系大企業は、円安と構造政策(規制緩和などの成長戦略というもの、減税等)面で、圧倒的有利な立場を占めた。
その有利さを活かして、経済面での貢献があったかと言えば、それは全く違っていた。外需(純輸出)の成長への寄与度はほぼゼロであり、日本経済全体で見れば犠牲は大きく、得るものは乏しかった。
かえって、通貨安が交易条件悪化を加速した為、国内経済は犠牲となった。輸出系大企業の言い分通りに、彼らにとって有利な政策を並べたが、成長寄与はほぼ無きに等しく、いずれも失敗に終わったと言えよう。
デフレ期の分を年金給付額引き下げ、というのも、物価上昇率以下に伸びを抑える、というのではなく純減であると、効果が名目引き下げ率以上の減少となるので消費抑制への打撃となったであろう。
⑤唯一良かった点は、賃上げ要請
これだけは、マシな政策だった。金がかからないしw
日本の決定的な問題点は、やはり「持続的所得の増加」が実現できていないこと。名目賃金を上げ続ける必要があるので、ある程度機械的に最低賃金引き上げを継続して、横並び体制を政策的に実現する方がよい。
また、労働規制を強化することで、年金保険料の漏れとか、労働時間規制からの不払い賃金を減らせる。労働政策は、ある種の構造政策なので、将来的な恒常所得増加を確保する意味においても、重要である。


『生活の党』支援道民(浜菊会) @hamagikukai