らんかみち

童話から老話まで

池の鯉が盗まれる平和な土地

2012年07月30日 | 暮らしの落とし穴
 昨年末からこの春先まで奇妙な事件が多発していた。スクラップ同然の自転車が盗まれ、300m先で乗り捨てられる。バイクが盗まれ、ひょんなところで発見されて戻ってきたと思ったら、合い鍵が作られていたらしく、再度盗まれたがまた戻ってきた。飲食店から包丁が盗まれて電気屋で発見された。
 他にも店舗狙いの空き巣が多発し、業を煮やした経営者が監視カメラを設置して賊の写真撮影に成功したものの、犯人が特定できるような写りではなかった。しかしストロボの閃光に恐れをなしたか、その後同様の被害は報告されていない。

 ホシが挙がらないのでぼくも立場上嫌みの一つもいわれたわけだが、駐在さんは針のむしろが痛かったはず。犯人像をプロファイリングしてみるんだが、土地勘のある若い男と出た。しかし村人の中には「外国人説」に傾く人もある。滅多なことをいわないでほしいがなと願っていたのに、血気盛んな人が外国人を雇用している事業所に怒鳴り込んだらしい。

 外国の方々は日本に出稼ぎに来ているわけで、畑を作ったり潮干狩りをしてやりくりしている。バイクのパーツを盗むような暇はないはずだ。遊びで自転車を盗んで乗り捨てている時間があるなら残業で稼ぐはず。だから一連の事件は地元の若造の仕業だと思うのだ。がしか、今回の事件はどうだか分からない。

「おい損長、うちの庭の池で飼うとった錦鯉が消えとるじゃないか」と、村人から苦情の電話が。「鯉に羽が生えてとんで逃げたと思うか」と、はらわたが煮えくりかえっている様子が伝わってくる。
 錦鯉というからには高値がつくのかと思いきや、それほどの上物でもないらしく、「食うために盗られたにちがいない」とおっしゃる。

 なるほど、鯉の洗いなら今の時候にぴったりだ。浴衣のお姉ちゃんなんかを前に、きりりと冷えた純米吟醸をちびりとやりながら、これまたよく冷えた鯉の洗いをつまむ。たまらんねぇ、これが、これこそ日本の夏って、粋だねぇ!
「バカ者、犯人は外国人に決まっておろうが!」
 被害者のお怒りの声で我に返ったが、排外的な推測ならだれにでも真っ先に出せる。だからこそ後回しにしたい結論なのだ。

 グローバル化っていうけど、都会だけのことじゃなく、人口密度の低い田舎から先に外国人の比率が大きくなるってことはないのだろうか。外国人を雇用できる産業があればこその話だが、うちの村はその条件に適合しているかもしれない。
 ま、しかしだ、庭の池の鯉を盗むような幼稚な犯罪が成立するってのは、平和といえば平和な田舎なのかねぇ……。