らんかみち

童話から老話まで

人間国宝の茶碗はとんでも値段

2009年08月20日 | 陶芸
「さて先生、この井戸茶碗をぼくはいくらで買い求めたでしょうか」
 いつぞや買った古井戸茶碗を、陶芸クラブの重鎮であらせられる要釉斎先生に見せて聞きました。
「君ぃ、儂を試そうというのかね! まあそれも良かろう、どうせ素人の君のことじゃ、ふっかけられて3万円か5万をドブに捨てたかのぅ」
 先生はぼくを買いかぶっておいでのご様子、ぼくはそれほどリッチでもなければ放漫でもないのに、ご自身の物差しでぼくを計られては赤面の至りです。
「いえ、それが先生、1500円だったんです」
「君ぃ、そういうジャンケンの後出しみたいな振る舞いには鉄槌をもって……ふむ、しかし古井戸茶碗の条件を全て満たしておる……なかなか良い買いものをしたんではないかね」

 ぼくの持っていった茶碗でひとしきり盛り上がっているところへ、リッチマン氏の登場。ぼくの井戸茶碗を嘗め回すようにながめて、
「儂も井戸茶碗にぞっこんの頃があってのぅ、ある日のこと人間国宝の個展に行ったら茶碗に上中下と値が付けられとったとせいや、その下くらいの作品を一つ買うた。それがなんぼか当ててみ?」
 人間国宝なんて人には生涯に亘って縁は無いと思うのでちょっと分かりませんが、
「そうですねぇ、ふっかけられて30万か50万くらいドブ、いやお買い上げなさったのでは」
「よいよいじゃねや! 儂をだれと思うとるんかい、250万ぞ、一つが。売れ筋は400万と言うとったな、最高は800万とも。あの頃は金回りが良すぎて、儂ものぼせ上がっとってぇ……」

 その後リッチマン氏にろくろを指導していただいたんですが、要釉斎先生といい、とんでもない人たちとぼくは付き合ってるんだろうか。1500円の茶碗を買って「良い買い物」などと浮かれていたのが恥ずかしい。
 明日は急きょ本焼することに決まりました。素焼きもしてないし、今日挽いた作品も釉薬の生がけで本焼します。通常は何人かのグループで一窯を焚くんですが、だれもぼくと一緒に焼いてやろうと愛の手を差し伸べてくれないので仕方ありません。あんなとんでもないやつと一緒に焼けるか、と思われているのかもしれませんねぇ……。