

深良水門(上)と湖尻水門(下)
天然ダムとして利水もされている芦ノ湖の不思議。
火砕流がなだれ落ち、いわば天然のアースダムが形成された芦ノ湖の湖尻。この天然堰体部分に湖尻水門が設けられ早川へと通じている。
しかし話によるとこの水門を水が流れることはなく、早川の水源にはなっていないというから驚いた。現地に赴いてみると確かに水門は閉じられており、早川への流量調節のようなこともやっていないようだった。
一方、湖尻水門から湖岸遊歩道で1.5kmほど進んだところにある深良水門の方へ行ってみると、芦ノ湖の水が音をたてて流れ出ていた。
この水門は芦ノ湖の水を静岡側へと導く深良用水の取水口。
築造は江戸時代で、まさに手とノミだけで掘り抜かれた全長1280mの水道トンネルを含む用水である。


もともと静岡側は降った雨水がすぐにしみこんでなくなってしまう溶岩台地の土壌で、水不足に悩まされていた。はるばる芦ノ湖から導水する計画を思いついたのは地元の名主。静岡側とはいえ当時は神奈川側の小田原藩に属していたこともあって、藩の許可と江戸商人の資金的、技術的協力を得て4年の歳月をかけて完成させた。
そういった歴史があるとはいえ、神奈川にある芦ノ湖の水利権が今なお静岡側に完全に握られているというのも、ちょっと気の毒な話である。
それともうひとつ気づいてしまった。
芦ノ湖のそもそもの流出河川である神奈川の早川は二級河川。河川法においては「湖」という区分はない。従って芦ノ湖も二級河川に分類される。なのに、小さな素掘りトンネルを流れ出た先は一級河川。河川区分は法律なのでしかたないとはいえ、これも少し気の毒な気が。
深良用水は世界灌漑施設遺産および全国疎水百選に選定されている。



