2010年8月22日(日)12:46(読売新聞)
冬の霧氷などで知られ、登山客らに人気のある奈良県御杖村・三峰山(1235メートル)で、猛毒で知られるトリカブトの仲間「カワチブシ」(キンポウゲ科)の花が山頂付近の草原「八丁平」に咲き始めた。
一帯には「バイケイソウ」(ユリ科)や「アセビ」(ツツジ科)など、毒性の強い植物の群落が広がる。
近年になって増えている野生のニホンジカの食害が原因とみられ、同村の職員や研究者らは「このままでは、草原が毒草だらけになる」と危機感を募らせている。
かつては湿地だった谷状の草原中心部には、スズタケ(イネ科)やリンドウ(リンドウ科)、オミナエシ(オミナエシ科)、ヤマシロギク(キク科)など多様な植物が生育していた。
しかし、今では有毒植物をはじめ、イネ科やカヤツリグサ科、イグサ科といった草食動物の食害に強い種類に限られている。
登山者からは、開花期に異臭を放つバイケイソウなどを前に「毒草ばかりで異様な光景」と嘆く声も上がる。
三峰山は日本山岳会が選定した「日本三百名山」で、村では霧氷のほか、春のゴヨウツツジを目玉に観光PRをしているだけに「イメージダウンは大きい」と困惑、産業建設課の古谷嘉章主任は「過去の状態と比較できる調査資料もなく、具体策が浮かばない」と頭を抱えている。
奈良県内のニホンジカの生息数は4万7000~9万3000頭とみられ、宇陀地域や吉野を中心に増え続けている。
奈良植物研究会の御宮知伸彦さんは「食害によって短い下草だけが残り、日照量が増えることで草原の乾燥化が進む。
その結果、低、中高木が育たなくなり、有毒植物がさらに増えて植生が変わってしまう」と指摘している。
同じ台高山系で上北山村の大台ヶ原(1695メートル)でも同様に問題化しており、シャクナゲの花芽まで食べられる深刻な事態に。
県大台ヶ原管理事務所の田垣内政信さんは「ブナなどの苗も食べられ、次の世代の木々が育たなくなるため、駆除や防護ネットの設置などで対応している。
八丁平は大台ヶ原に比べて範囲が狭いので、駆除の効果が期待できるのではないか」と話している。
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近年、北海道の道東や日高地方にもエゾシカの被害が多くなってきているようです。
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