北鎌倉円覚寺山門 夏目漱石「門」に書かれている。(古田けいじ撮影)
■水煙俳句フェス二日目/11月25日(日)
□鎌倉文学散策吟行
①池田加代子記
<6:30 ホテル出発 -(タクシー)-横浜駅-(JR)-北鎌倉駅 「円覚寺」>
フェスティバル2日目も朝から快晴に恵まれ、すばらしい吟行日和となりました。
早朝、先生のお部屋にサンドイッチやおにぎりなどの朝食が用意され、どなたも前日のお疲れを感じさせず、着々と準備を整えられました。6時半にはホテルから4台のタクシーに分乗し横浜駅まで。横浜からJR横須賀線に乗り30分ほどで、鎌倉吟行のスタートとなる「円覚寺」のある北鎌倉の駅へ到着しました。円覚寺開門の8時まで少し時間がありましたので、近くの東慶寺の方まで信之先生が皆さんをご案内されました。東慶寺境内の奥には西田幾多郎、鈴木大拙など、多くの思想家、文人の墓所があります。円覚寺開門時間の少し前に、皆さんがお戻りになったところで、藤田荘二さんが合流されて、総勢14名の吟行がはじまりました。
円覚寺は臨済宗大本山であり、鎌倉五山第二位の大寺です。総門を入り、三門そして仏殿へと、大きな気持のいい空間が広がっています。歩みをすすめれば、たった今掃き清めたばかりの箒目の美しさに禅寺らしい緊張感も感じられました。北鎌倉の清々しい空気の中では、鳥の声も鋭く聞こえ、気温も横浜より低く感じられます。境内では50分ほど時間をとって、方丈庭の巨大な柏槙(びゃくしん)の老樹、国宝の「舎利殿」、「洪鐘(おおがね)」、漱石の参禅した「帰源院」を、正子先生にご案内いただきました。
「洪鐘」のある高台は見晴らしのいい場所ですが、皆さんのお心がけの良さの賜物でしょうか、美しく冠雪した富士を望むことができました。新幹線からご覧になった方々のお話によると、昨日の富士は雪が少なかったようですが、今朝は雪の量も増えていたようで何よりでした。洪鐘の傍には柊が白い小花をつけているなど、豊富な句材を得て、みなさんつぎつぎと俳句をつくっておいでのようでした。
<8:50 円覚寺前-(バス)-鎌倉駅-(バス)-大仏前 「高徳院」>
円覚寺前からはバスを乗り継ぎ、次の目的地は大仏で有名な長谷の高徳院です。今回の吟行はバスや電車を細かく乗り継いでのものでしたが、愛代さんが事前に調べてご用意くださった「鎌倉フリー環境手形」は、特定区間であれば自由に乗り降りできるというもので、乗り降りが大変スムーズで安心でした。バスを乗り継ぐ吟行もなかなか楽しいものです。
高徳院境内では、星野立子の句碑「大佛の冬日は山に移りけり」と、川端康成の「山の音」にも出てきますが、与謝野晶子の有名な歌碑「鎌倉や御仏なれど釈迦牟尼は美男におはす夏木立かな」を正子先生にご案内いただきました。(晶子の歌では釈迦牟尼ですが、阿弥陀如来坐像です。)
露座の大仏の丸い背中の後ろには、この日はこの上なく真っ青な空が広がり、いつまでも向き合っていたいような大らかさがありました。
<大仏前-(バス)-長谷下車 「川端康成旧居・鎌倉文学館・虚子庵跡・由比ヶ浜」>
再びバスに一区間だけ乗り、川端康成旧居へ。裏山の甘縄神明神社は「山の音」のなかで信吾の家の裏山の神社として描かれています。そのまま、愛代さんのご案内に従って、静かな住宅地の中を鎌倉文学館まで歩きました。鎌倉文学館は旧前田侯爵鎌倉別邸を改築し、鎌倉にゆかりの深い文士たちの資料が展示されているところで、現在は中原中也展が開催されています。館内の展示物もさることながら、芝生と薔薇園を隔てて海の見える絶景が楽しめます。どなたもそれぞれ、文学に浸ったり、薔薇園を歩いたりと、ゆったりした良い時間を過ごしました。
ここからは由比ヶ浜まで、南の方へ明るい方へ、ぽかぽかと気持ちよい日差しの中を下りました。途中立ち寄っていただいた、高濱虚子庵跡は江ノ電の踏み切りのすぐ際にあって、「波音の由比ヶ浜より初電車」の小さな句碑が立っています。虚子の生活からの線路の近さと浜辺の近さに驚き、この句をいっそう近く感じることができたように思います。
そのまま信之先生のご先導で、昼食句会を行う「わかみや」の場所を教えていただき、直ぐ前面の由比ヶ浜に出ました。きらきらと目の前に広がる海も空も、走り出したくなるような開放感に溢れています。海を向いたベンチで光りを浴びながら、句友の皆様ととても幸せな気持で昼食までの時間を過ごしました。
<昼食・句会・江ノ電>
「わかみや」にて五句投句し、選を楽しませていただいた後、ビールで乾杯となり、和気藹々と名物のしらす丼を堪能しました。どなたの句にも今日の鎌倉がいきいきと映っていて、吟行の選は本当に楽しいです。食後に時間の関係で、正子先生の選と高点句のみ発表され、昼食句会は終了しました。古田けいじさんと高橋秀之さんはご予定があるということで、ここでお別れとなりました。
その後このまま江ノ電の由比ヶ浜駅から鎌倉駅に戻る予定でしたが、信之先生のご提案で、せっかくなので遠方からの方に江ノ島を観ていただこういうことになり、藤沢行きに乗り、江ノ島駅で折り返して鎌倉へ戻ることにしました。観光日和のため車内が混んではいましたが、窓に膨らむ七里ヶ浜や江ノ島の景観や、家々に触れそうな江ノ電の楽しさを味わっていただくことができたのではないかと思います。藤沢からお帰りになる渋谷洋介さんとは江ノ島駅でお別れいたしました。
<鎌倉駅-(JR)-横浜駅>
帰路、JR横浜駅で原順子さん、そして新幹線でお帰りになる黒谷光子さんと多田有花さんともお別れし、飛行機でお帰りの藤田洋子さん、井上治代さん、岩本康子さんの乗った羽田行きのバスをお見送りさせていただいて、名残惜しくも今回の吟行の全行程を終えました。
吟行の記録をとのことで、思い出すままにだらだらと書き連ねてしまいましたが、事前の入念な調査とご準備があってこその楽しい吟行であったと、信之先生、正子先生、愛代様には、心より感謝しお礼申しあげます。そして、楽しい時間を過ごさせてくださった句友の皆様にも、感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございました。またお会いできる日をこころより楽しみにしております。
②藤田洋子記
「鎌倉吟行記」はすでに加代子様が詳しく報告してくださいましたので、ご案内していただいた主だった場所を少しだけ自身の拙句を入れて振り返ってみました。
早朝、日曜日の北鎌倉駅はやや寒さは覚えるものの、人通りもなく、今日の吟行の始まりに、程よく気持ちの引き締まる思いがいたしました。
朝霜の北鎌倉に降り立ちぬ
東慶寺は拝観前で境内にこそ入れませんでしたが、こじんまりとした茅葺きの山門、門前に色づく紅葉の枝、咲き始めの山茶花などその昔の尼寺としてのゆかしさを感じさせてくれるものでした。寺苑の朝の清々しさは言うまでもありません。
山門の小さき寺の薄紅葉
円覚寺は東慶寺とは対照的な鎌倉武士の仏教信仰の気概をも感じる広大な敷地の大寺でした。古刹の朝の清浄さに包まれて、鳥の声も近くに、鮮やかな紫の冬牡丹や姫蔓蕎麦の花の彩りを楽しみながらゆっくり散策できました。やはり富士を眺めた「洪鐘」、漱石の参禅した「帰源院」は印象的でした。
禅寺に朝日差しきて冬紅葉
バスで鎌倉の街を通って高徳院に着く頃は、人出も多くなり、すっかり日も昇って、きれいに澄んだ空のもと大仏を仰ぎました。幾多の時代を経ても崇敬され続けた大仏の威厳さをあらためて見る思いでした。正子先生の立子の俳句鑑賞を思い出しつつ立子句碑、晶子歌碑も巡りました。栴檀の実が金色に輝いていました。
どこからも大仏見えて冬晴るる
大仏をあとに、川端康成旧居、閑静な住宅地を歩いて、自然に囲まれ海の望める鎌倉文学館へ。錚錚たる文士たちの直筆や文学資料の展示、心に沁みる中也展、柔らかな窓の日差しに心安らぐようなひとときでした。
中也読む文学館の冬日差し
文学館からゆっくり徒歩で虚子庵跡へ。
師の後ろ歩く鎌倉路地小春
明るい日差しの中、小さくも存在感のある虚子句碑でした。歩きながら虚子の生活風土を感じつつ、以前より句の理解をできたように思います。
そして、由比ヶ浜へ。
ゆったりと由比の冬波寄せきたる
朝から数時間の吟行ではありましたが、鎌倉の歴史、自然、地理などあらためて知りながら、目にふれるもの全てが心に残る風景となり、大切な旅のひとときとなりました。この日のために尽力をしてくださった信之先生、正子先生、お世話いただいた皆様に心より感謝いたします。また、ご一緒いただいた皆様、ともに楽しいひとときをありがとうございました。
●鎌倉吟行入賞句
【最優秀】
万両や日の昇りくる帰源院/多田有花(北鎌倉円覚寺・漱石参禅)
【優秀7句】
空広し枝の先より紅葉して/井上治代(北鎌倉東慶寺)
石蕗の黄に朝の木漏れ日掃き寄せる/藤田荘二(北鎌倉円覚寺)
大仏に冬空の青限りなく/池田加代子(大仏高徳院)
大佛を仰ぎ楝(おうち)の実を見上げ/黒谷光子(大仏高徳院)
立子の碑しずまりており石蕗の花/渋谷洋介(大仏高徳院)
ゆったりと由比の冬波寄せきたる/藤田洋子(由比ヶ浜)
横須賀線窓に芒のみな解け/臼井愛代(北鎌倉辺り)
■鎌倉吟行写真集
□古田けいじ撮影
http://www.myalbum.jp/Pc/Albm_Dspy.aspx?albumID=1cd265e3a0da&imageID=d4db75c8a425
左より 東慶寺山門/円覚寺舎利殿/円覚寺洪鐘(おおがね)/円覚寺帰源院/鎌倉由比ヶ浜虚子庵跡(クリックし拡大してください)