羽黒蛇、大相撲について語るブログ

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平成27年・2015年3月場所前(真石博之)

2015年02月28日 | 相撲評論、真石博之
3月場所の資料をお送りいたします



○大鵬を凌ぐ優勝回数への意欲を匂わせるように、白鵬の初日と二日目は気合いが入った強い相撲でした。 ところが5日目、勢の捨て身の肩透かしに前に落ち、当然、物言いがつくべき危うい勝利。続く6日目は、遠藤に立ち合いで張り手を見舞ったあと、離れてからはかち上げと前場所の豪栄道戦を再現した横綱らしからぬ乱暴な相撲。さらに7日目の高安戦では叩かれて物言いがつく微妙な勝利と不安定な中盤でした。






○しかし、その後は持ち直して安定した相撲で勝ち続け、優勝に王手がかかった13日目の稀勢の里との取り直し後の一番は、押しこんだ後に稀勢の里のおっつけに大きくぐらついて体が浮いたものの、即座に体勢を立て直し、結局は、廻し一枚分は高い稀勢の里の腰高につけこんで両ハズで押し出しました。そして、史上最多の61本の懸賞が懸った千秋楽の鶴竜戦は、慎重な上にも慎重で、最後には頭までつける1分を越す長い相撲をとり、10場所ぶりの全勝で優勝33回の新記録に花を添えました。






○この大横綱には、先天的な身体能力の高さ、スポーツIQの高さ、それに達成意欲の高さがあると思います。

モンゴル初の五輪メダリストの父親の優れたDNAを受け継ぎ、192cmの身長は大鵬を5cm上回ります。しかも、相撲にはもってこいの胴長。そして筋肉は、相手の力を吸収する柔らかさと、敵を跳ね返す鋼の硬さを併せ持つといわれます。相手の動きに対応する俊敏な動きは、研究機関での反射神経の測定で証明済みです。この身体能力の高さに加え、相撲独特のすり足・テッポウの基本稽古を欠かさないことが、昇進後45場所休場なしの偉業となっているのでしょう。スポーツIQの高さは、まだ関取に上る前に宮城野親方が「言ったことを直ぐに身につける」と語ったことに表れていますが、それは、普段の受け答えにも窺えます。達成意欲の高さは言を俟ちません。



○鶴竜は2日目に力をつけてきた宝富士に投げ捨てられ、6日目には栃煌山に押し上げられて引いてしまう一方的な負けで、弱い横綱を印象づけました。琴奨菊、稀勢の里にも敗れて、結局、10勝5敗。昇進して5場所。横綱に相応しい12勝をあげたのは1場所だけで、あとは9勝、10勝、11勝2回です。



○日馬富士は7連勝のあとの中日に、常幸龍を土俵際まで追い込んだところで突き落としを喰って敗れはしたものの、中盤までは鋭い立ち合いからのど輪で相手を起こして一気に押す良い相撲が目立ちました。しかし、11日目、この立ち合いで出たところを、大きな碧山に叩かれて頭を押さえつけられ、あっけなく2秒での負け。横綱戦を連敗して11勝4敗。白鵬とは大差のある2横綱に変りはありませんでした。



○稀勢の里は3日目に、自らは上手を取りながら、上手を取れていない照ノ富士に下手から振られて完敗。やはり自分より大きな相手に弱いのです。9日目には、琴奨菊に突き落とされたというよりも、自分の膝が不自然に前に折れたような負け方でした。上記の通り、白鵬に善戦はしたものの、日馬富士の鋭い突っ込みに3秒で真後ろに押し倒され、仰向けに土俵下に落とされる屈辱的な敗北を喫しました。白鵬に逆襲を許したのも、軽量の日馬富士に一気に持っていかれたのも、原因は腰高です。十年一日、最強日本人力士が抱える課題は変りません。



○場所前の出羽海一門の連合稽古で飛び抜けた強さを見せた豪栄道。カド番ながら、「優勝を目指す」と語ったそうですが、照ノ富士にきめ倒されての完敗、栃ノ心にも力負け、逸ノ城には右を差されて万事休す。格下相手の6日目までに3敗を喫し、後半は、稀勢の里、日馬富士、白鵬、鶴竜に歯が立たず、5勝7敗の窮地に立ち至りました。ここまで来て「腹を決めた」とのことで、2連勝のあと千秋楽で琴奨菊を一気に寄り倒し、何とか大関として地元大阪に帰れることになりました。しかし、大関3場所での通算成績は21勝24敗、平均7勝8敗です。昇進直後の力士に特有の勢いがないのです。14場所連続でつとめた関脇時代も、9勝以上をあげたのは5場所だけで、8勝が7場所、7勝ながら番付運に恵まれて関脇に留まったのが2場所ありました。この力士は大関よりも強い関脇が似合うのかもしれません。



○「今年の目標は大関」と口にした栃煌山。琴奨菊と鶴竜を破って、6日目までの横綱大関戦を2勝4敗で乗り切ったものの、力のある新興勢力である照ノ富士、宝富士、逸ノ城にことごとく敗れてしまい、千秋楽には妙義龍を押しこんだところで叩き込まれて負け越し。致命的といえる身体の硬さなのでしょうか。



○初場所は客の入りが良く、「18年ぶりに15日間とも満員御礼」と報道されました。18年ぶりということは、「若貴人気」以来ということです。ハワイ出身で2メートルを越える巨漢横綱・曙を追撃するのが、日本人で、しかも初代若乃花の甥であり初代貴ノ花の息子である若乃花・貴乃花兄弟という、これ以上のシナリオは望めないドラマによって、平成元年から9年まで666日も「満員御礼」が続いたのです。

ところで、私が観戦した初場所3日目は、全体を見渡せる二階席から眺めると、一階は桝席後方の2、3列が空いていて約85%の入り、二階は約65%の入りで、満員とは程遠いものでした。「満員御礼」のうち、わざわざ「札止め」と呼ばれのが「切符完売」で本当の満員。ただの「満員御礼」は満員ではないのです。空席の状況を確認もせずに、「18年ぶりに15日間とも満員御礼」と動かし難い歴史的事実のように報道する相撲記者は、相撲協会の発表を鵜呑みにする人たちなのです。ですから、「収賄の疑いがあった小林顧問を解雇しない北の湖理事長を追及せよ」と注文をするのなら、社会部記者にすべきなのです。



○今や日本のチョコレートの年間売り上げの半分を売りきる Valentine Day。聖者Valentineの日に、キリスト教国では小さな贈り物をする風習はあるものの、女性が男性にチョコを贈ることはなく、これは東京大田区にあるメリーチョコレートが発案したとの説が有力で、神戸のモロゾフの説もあるそうです。また、ワインのボジョレー・ヌヴォーを運賃の高い飛行機に乗せてまで運ぶのは日本だけという大騒ぎの裏には、あの酒屋さんがいるのでしょうか。さらに、ここ数年、どこの地域にも突然そろいだした七福神は、神社本庁と広告代理店が組んでいるのでしょうか。どれもこれも、目くじらを立てることではありませんが、眉に唾を塗った方がよさそうなことが世の中にはあるもので、大相撲の「満員御礼」もその一つです。



○立呼出しの秀男が定年退職したあと、拓郎が副立呼出しのまま結びの二番をつとめています。拓郎の声も少し怪しいのですが、今やNo.2になった次郎の音痴ぶりはすさまじく、四股名を呼び上げる30秒ほどの間に音程が揺れに揺れ、聴く方の気分が悪くなりますので、ほぼ公害です。土俵づくりが得意とききますから、そちらに専念させるべきです。技能の世界なのに、技能を無視して昇進させることには反対です。



○とケチをつけましたが、相撲内容のある好取組が増えて、大相撲が面白くなってきたと思います。それは、関脇以下で力をつけた力士が増えたためです。脚のような腕で突っ張る碧山、稽古をせずに評判を落としているものの怪物にはかわりない逸ノ城、2大関を倒して上位で唯一勝ち越したもう一人の怪物照ノ富士、惜しくも新三役を逸したものの地力急上昇の宝富士、立ち合いの圧力を多少はつけて一気に押されなくなった遠藤、幕下下位から戻ってきて今が一番強い栃ノ心、上位にいれば必ず横綱大関を喰う栃煌山、敢闘精神の塊の嘉風、相変わらず何でもござれの安美錦と、多士済々の役者が揃ってきたのは嬉しいことです。



                              平成27年2月24日   真石 博之