経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

たかが特許、されど特許。

2007-02-09 | 知財発想法
 弁理士のような立場でいつも特許から事業を見ていると、特許というものが事業にとって非常に重要な要素であると感じられるのものです。よって、中小企業・ベンチャー企業などから相談を受けると、「特許は大切ですよ」という大前提で話が始まることになる。
 一方で、VCで投資をしていた頃の経験からすると、ベンチャー企業の経営で特許がシリアスな問題として顕在化してくるということは滅多にありません。企業が成長するかどうかは、経営者の資質、社内のムード、市場の環境、市場でのポジショニングなどのほうが余程重要ですので、経営者の立場から見ると「たかが特許」となってくるのはやむを得ないところかと思います。
 「たかが特許」というのは、事業の成否を決めるには他にも重要な要因がたくさんあるという意味では真理であると思いますが、一方で「特許」というものは事業環境を少しでも有利にするために「使える道具の一つ」であることも事実です。自社に有利な事業環境というものは、何か1つの決定的な要因で決まるというものではなく、様々な要因を積み上げて醸成されていくものであることが通常です。「特許」というものはその要因の1つ、「されど特許」と言えるものだと思います。
 何を言っているのやらよくわからない記事になってきましたが、特許を経営上の成果に結び付けていくためには、「たかが特許、されど特許。」という感覚を関係者間で共有することが重要ではないか、と思う今日この頃です。

知財の世界で「革命」は起こっているのか?

2007-02-07 | 知財業界
 ずいぶん大袈裟なタイトルになってしまいましたが、前回の記事でも紹介した「これから何が起こるのか」で「情報革命」について論じる中で、「革命」という言葉について、
 「権力の移行
こそが、革命の本質であると説明されています。

 つまり、「情報革命」の本質とは、インターネットなどの情報技術の普及によって情報へのアクセスが容易になり、情報の提供者から利用者へ権力の移行が行われたことにある、ということになります。さらにWeb2.0の世界では、情報の利用者が提供者の役割も担うことになり、両者の区別すら曖昧になっていきます。
 一方、以前に読んだ「知財革命」では、技術の高度化に伴う知的財産の価値の高まりが、「革命」であると表現されています。この点について、少しばかり違和感を感じたのですが(あくまで「革命」という言葉を使うことについての違和感ですが)、「革命とは、既にあるものが拡大することではなく、今あるものが新たなものに置き換わることである」という潜在的な意識が働いていたからなのかもしれません。

 では、「権力の移行」という意味で、知財の世界で「革命」は起こっているのか。
 既に起こっているとまでは言えるかどうかはわかりませんが、「知財2.0」の記事で言及したように、これまでは専門家に任せきりであった知財の世界が、広くビジネスパーソンのビジネス活動の中でも意識されるようになっていくことは、ある意味「革命的」な動きであると言えるのではないでしょうか。

「知識」と「智恵」

2007-02-05 | 書籍を読む
 このブログで2度ほど取り上げた田坂広志氏の新刊、「これから何が起こるのか」から、もう一点紹介したいと思います。

 第7章「知識社会では『知識』が価値を失っていく」の章ですが、弁理士のような知財の専門職にとって、深く考えさせられる内容となっています。
 これからの時代、「知識」を提供する仕事の多くはコンピュータに代替されていくということは、大前研一氏の「ハイ・コンセプト」にも紹介されていますが、本書ではさらに踏み込んで、これからの時代の専門職に求められる資質についても考察が加えられています。
 ポイントを端的にいうと、顧客が専門職に本当に求めているものは「知識」ではなく「智恵」であるということです。つまり、何を知っているかという知識ではなく(専門職なら知っているのは当たり前)、どのように解決するかという智恵こそが、顧客が専門職に仕事を依頼する理由であるとでも言えるでしょうか。そして、その「智恵」はさらに、「技術」と「心得」の2つの要素からなるものであるとされています。ここでいう「心得」とは、「弁理士倫理」のような形式的な話ではなく、一人の職業人としての理念や姿勢みたいなものだと言ってもいいでしょう。

 知財の世界でも、「資格だけで食えない時代」がやってくると言われています。そうした厳しい環境の中で、「知識」で差別化することに走るのも一つの道であるのかもしれませんが、特に若手の知財人には「智恵」の大切さについても、是非考えてみることをお勧めします。

注)常用漢字では「知恵」ですが、出典に従い「智恵」とします。

これから何が起こるのか

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リスクの担い手

2007-02-04 | 知的財産と金融
 金曜日の日経金融に、新規上場企業として、「アサックス」という不動産担保融資に特化した金融機関が紹介されています。不動産担保に特化してノウハウを蓄積することで、銀行では融資が難しい融資先に対しても、原則無担保の商工ローンより安い金利での融資を可能にするというビジネスモデルで成長を続けているそうです。
 考えてみると、質屋さんも動産担保に特化することで迅速な融資を可能にしているのが特徴ですから、ビジネスモデルの基本的な仕組みは同じといってもよいでしょう。であれば、同じビジネスモデルに則って、知的財産担保に特化し、銀行では融資が困難なベンチャー企業への融資専門の金融機関というのが出てきてもよさそうです。ところが、知財担保に特化した取組みを進めている機関は、政府系で少々特殊なミッションを担っている政策投資銀行くらいで、民間レベルでの本格的な取組みについては聞いたことがありません。
 「知財ファイナンス」が本格化してきたといっても、その担い手として登場している機関の多くは、その評価やアレンジを謳っているものであるように思います。ファイナンスが成立するための大前提となるのは、リスクの担い手となる投資家であって、知財ファイナンスについては投資家セクターの盛り上がりがあまり感じられないことが、普及が進まない最大のネックなのではないでしょうか。評価やアレンジのノウハウがあるのであれば、本来なら自らが第一にリスクの担い手となり、アサックスのようなビジネスモデルが成り立ちえるように思います。知財ファイナンスの世界も、自らがリスクの担い手として手を上げる機関が次々と現れてきたときこそが、本格的な普及の第一歩になるといえるのではないでしょうか。

知財の囲い込み

2007-02-02 | 知財発想法
 知財Awarenessの新日本監査法人さんの「先端技術系企業の株式公開」のコラムに、なかなかいいことが書いてあります。特に、最後からの4パラグラフ、「ところで,無形の知的財産が会社の内外に次々に生まれる過程で,この知財の囲い込みの巧拙が・・・」以降の部分です。
 特許出願の意義というと、独占実施が可能になるというメリットがまず第1にあげられることが一般的だと思いますが、このブログの2回目3回目の記事にも書いたように、もっと根本的な部分で大事なポイントがあります。それは、技術開発の成果というものは、特許出願や営業秘密管理などの形で可視化し、企業の財産であることを明確にしないと、簡単に流出し得るもの(というかそもそも企業に帰属すらしていないもの)であるからです。企業が土地を購入して工場を建てれば当然のように企業の名義で登記が行われるように、知的財産のマネージメントというものは、企業が投資を行って得た資産を保全するための基本動作といってもよいものです。外部からの調達資金で得た開発成果を個人や他の法人の名義で権利化するなどというのは、もちろん論外でしょう。特許出願、さらには知的財産マネジメントの必要性は、まずこの点から語られるべきものであると思います。
 私が金融機関にいた頃は、まだまだこのあたりの認識が不十分であることが多いように感じていましたが、「独占の可能性」や「侵害のリスク」以前の問題として、この部分に着目されているこのコラムの指摘は非常に的を得たものであると思います。

発明はヒット商品を生むのか?

2007-02-01 | 知財発想法
 先日の記事でご紹介した「これから何が起こるのか」で、「商品生態系」という、非常に興味深い考え方が示されています。「商品生態系」とは、単位の商品やサービスではなく、顧客ニーズを中心に結び付いた様々な商品やサービスのことであると定義され、市場での競争の構図は、「『商品』対『商品』」から「『商品生態系』対『商品生態系』」へと移行していると捉えています。このような環境の下では、商品として良いものを作れば売れるというわけにはいかない。顧客ニーズに結び付いた商品生態系を作り出していくことが必要だ、とされています。
 確かに、近年の代表的なヒット商品であるiPodにしても、大発明によって生まれた単独の商品としてヒットしたわけではなく、PCやブロードバンドの普及をうまく捉え、ネットワーク化された商品群の中に洗練されデザインでうまく顧客ニーズにはまってヒットした、というものであると思います。

 このような競争環境の変化を考えると、知財の世界でよく語られる「発明がヒット商品を生む」という発想も、少し見直していく必要があるのではないでしょうか。特許の効果を説明する書籍やパンフレットなどで、「特許が支えたヒット商品」として紹介されている商品には、何かレトロなものが多いように感じられるのも、こうした環境の変化が影響しているのかもしれません。
 これからの時代は、
 「発明がヒット商品を生む。」
という単純な構図ではなく、
 「優れた商品生態系から多くのヒット商品が生まれる。その商品生態系の中で、様々な発明が生息している。
という風に捉えるべきことが多くなるのではないかと思います。
 少し視点を変えてみると、
 「知的財産権(特許権)で縄張りをくくった中からヒット商品が生まれる」
のではなく、
 「ヒット商品を生む環境である商品生態系の中での縄張りを知的財産権(特許権)で固めていく
というふうに言い換えることもできるのではないでしょうか。