経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

ちょっと宣伝(ビデオ編)

2006-11-17 | お知らせ
 以前にもご紹介させていただいた日本IT特許組合制作の「ソフトウェアビジネスのための知財・実践マニュアル」が、パッケージ内容を見直してお求め安い価格(30,000円)に大幅値下げとなりました。
 このマニュアルは、20件強のテーマ毎に10分前後のビデオクリップで構成されており、見たいときに見たい部分だけ確認できる、というのが特徴です。独立系のソフトウェアベンダーの中には、特許といっても何をやればいいのかわからない、特許に詳しい担当者もいない、といった状況にある企業が少なくないのではないでしょうか。解説書を買ったとしても都度紐解くのも面倒だし、セミナーに出ている時間もない、セミナーに出たところで一度にいろんな話を聞いても頭に入らない、といった事情を想定して、それならばPC上で必要な場合にアイコンをクリックすれば必要なテーマだけ10分で確認できるという仕組みがよいのではないか、と現場の使い勝手重視のコンセプトで作成した商品です。
 知財業務への取り組みを始めたいというソフトウェア関連企業を想定して作成しましたので、ご興味のある方には是非お試しをいただければ幸いです。

特許切れと株価

2006-11-15 | 知的財産と投資
 本日の日経金融新聞の最終面に「市場が問う特許切れ対策」として、医薬大手企業の主力製品の特許切れの時期と株価の関係が整理されています。株価のPER(1株あたり利益の何倍で買われているかのレシオ)は2グループに分かれていて、
 高PER(35~40倍)グループ;第一三共、中外、塩野義
 低PER(20倍代)グループ;武田、アステラス、エーザイ
となっているそうです。このように分かれている理由が、それぞれ米国特許の存続期限との関係で説明できるとのことで、ここまで特許が企業価値にダイレクトに影響するというのは、理屈ではわかってるつもりでしたが、他の業界の特許を扱う立場からはちょっと驚きです。後発医薬品の普及している米国では、特許切れ後数年で売上が8割くらい減ってしまうこともあるらしいので、確かに大変ですね。
 記事によると、現在医薬アナリストが作成している業績予想は向こう5年分で、期末にその翌年の予想を始めるとのこと。ということは、先回りして分析しておけば特許屋にも投資のチャンスありでしょうか?!

「木を見て森を見ず」防止策

2006-11-14 | 企業経営と知的財産
 昨日は知財デューデリについて考えましたが、デューデリでも知財業務を始めるときでも同じことだと思いますが、ベンチャー企業の知財の状況を診断する際には「木を見て森を見ず」ということにならないことが肝心だと思います。
 そのために私がよく使う手法ですが、最初にこういう順序でヒアリングをすることが有効ではないかと思います。このヒアリングは役員レベル、できれば社長を対象に行いたいところです。
 まず、
御社の商品(サービス)が顧客から選ばれる理由は何ですか?
と尋ねることによって、その企業の差別化要因となっている要素(コアとなる知的財産であることが多い)を探ります。差別化要因が知的財産ではない場合は、知財屋の出番はあまりなさそうですが。
 続いて、
その強みが他社に模倣される可能性はありませんか?
と尋ねて、参入障壁の状況を探ります。模倣される可能性がないという回答が返ってきて、その根拠が説得的なものであれば経営者の基本認識に問題はないということでしょうが、ノウハウ的なものである場合は営業秘密の管理体制がチェックポイントの一つになってきます。
 模倣される可能性がありそうだという回答の場合は、その差別化要因が知的財産権で保護できないか、現在保有している知的財産権は有効に機能しそうか、といった検討を進めることになってきます。この部分をどこまで詰めるかは、目的と与えられた時間によって違ってくることになるでしょう。

 企業が知財業務に取り組む目的は、権利のコレクションではなく、収益の源となる差別化要因を守ることです。基本的な位置付けを最初にしっかりと把握できるように、ヒアリングの入り方は重要だと思います。

知財デューデリ

2006-11-13 | 書籍を読む
 先週末に「法務デューデリジェンスの実務」を購入しました。読みたかった部分は知的財産権についての1章(40ページ程度)だけだったので、4,600円はちょっと高いなーと悩みましたが、なかなか得難い情報なのでやむを得ません。
 で、その中味ですが、魔法のようなデューデリの手法は披露されておらず、「時間に制限のある中でリスク分析には限度があり、対象企業の認識の程度と管理状況を中心に確認するしかない」というのが主な内容でした。期待外れ(?)であったかもしれませんが、日頃の自分のアプローチとほぼ同じ感じだったので、この説明には大いに納得です。
 この技術、この特許が命綱、といったバイオベンチャーみたいなケースを除くと、ある企業の知財リスクを分析するのに個別の内容まで踏み込んで確認するのはちょっと難しいと思います。「知財リスクは誰にだってある」という前提で、対象企業がどういう認識でどういう方針で知財業務を行っているかといったことを評価するしかないでしょうし、不確定要因が多くてどう転ぶかわからない個別事案の内容をあれこれ検討するより、そうした部分の評価のほうが実際のところは有益であるようにも思います。
 そう考えると、知財デューデリには、「この業種の、この規模の企業であれば、この程度の認識や管理はなされているべきである」といった相場感が必要ということになりそうです。知財デューデリを仕事としてやっていくためには、日常業務の中でもそうした視点でクライアント(特に中小・ベンチャー企業)の状況を見るクセをつけておいて、相場観を養っておくことが必要なのでしょう。

M&Aを成功に導く法務デューデリジェンスの実務
長島大野常松法律事務所
中央経済社

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売れるか、知財戦略ファンド。

2006-11-12 | 知的財産と金融
 日経の記事から、「光る知財」なるファンドが発売されたのを見つけました。「知的財産戦略の視点を銘柄選択や企業分析に組み込んだ株式投信は類例が少なく」とのことですが、確かに他に例を聞いたことがありません。投資対象となるような大企業の知的財産戦略をどうやって分析するのか、現状では有価証券報告書のような開示資料が無いに等しいので、ボトムアップで分析するとたいへんなコストがかかって信託報酬が高額になってしまいそうです。ところが、信託報酬は約1.6%/年とのことなので、まあ株式投信としては普通の水準です。では、どうやって評価に織り込むのだろうか?、という気がしないでもありませんが。さて、どんな銘柄が組み入れ上位になるのでしょうか。

 いわゆる「知財ファイナンス」が普及するための課題について、「価値評価が難しい」の一言で済まされてしまうことが少なくありませんが、私は最も本質的なポイントは「知財に投資したいと思う投資家がどれだけ現れるか」ということにあると考えています。これまでの知財ファイナンスの実績を見ると、アニメや映画などを対象にしたファンドが多くなっていますが、これは投資家に「この作品は好きだから投資してみようかな」というイメージが湧きやすく、投資家を集めやすいことが大きな理由の一つになっているのではないでしょうか。理論上いくら優れた価値評価方法が開発されても、そもそもの投資対象がよくわからないものであるならば、投資したいと思う投資家を集めることができず、結局のところその金融商品の普及は難しくなってしまうのではないでしょうか。考えて見れば、株式の価値だって未だに正確な価値評価手法なんて誰にもわかりはしないのに、株式(企業)に投資したいと思う投資家がたくさん存在しているからこそ、株式を用いたファイナンスが成り立つのだと思います。
 そう考えてみると、このファンドが売れるかどうかということは、投資家の知財に対する興味、つまり知財ファイナンス普及の可能性を図る試金石の一つになるのかもしれません。

粗利40%

2006-11-10 | 企業経営と知的財産
 今日の某番組で、キヤノン電子の酒巻社長が登場されていました。酒巻社長の就任後は業績は右肩上がりで、株価もグングン上昇しているそうです。
 業績好調の秘密について、
① 無駄なコストを徹底して省いていること
② キヤノン向けでない自社製品の拡販に成功していること
を挙げていました。②はキャノン向け(主にカメラ部品)より利益率が高いらしくて、具体的にはスキャナが絶好調ということだそうです。「粗利はどれくらいですか?」と問われて、儲け過ぎと叩かれてもということでちょっと困っておられましたが、「まぁ40%くらい・・・」とのことです。スキャナはコピー機のようにトナーで稼ぐというわけにはいかないでしょうし、本体だけ正味で40%の粗利がとれるというのは凄いです。
 となると、この高い粗利の理由を知りたくなりますが、あのキヤノングループのことですから、やはり特許でしょうか?
 出願人「キヤノン電子」、要約+請求の範囲「スキャナ」で検索して、公開公報が32件、特許公報はなんと0件です。う~ん、製造ノウハウか何かなのか、それともライバルの少ない市場(そんなことはなさそうですが)をうまく選択したのでしょうか?

レンガ職人

2006-11-09 | 書籍を読む
 花王の社長を長く務められた常盤氏の「コトづくりのちから」には、モノづくりを成功させるポイントは、技術者のモチベーションを高めるコトづくりにある、といったことが説明されています。
 この本の序でとりあげられている小話が、ちょっと面白いです。

 ある旅人がレンガを積んでいる職人に「何をしてるんですか」と話しかけたところ、
 1人目は「レンガを積んでるんだ」と言い、
 2人目は「家を造っているんでさぁ」と言い、
 3人目は「新しい町をつくってるんですよ」と言った。

 これを読んでいたら、

 ある特許事務所で明細書を書いている弁理士に「何をしてるんですか」と話しかけたところ、
 1人目は「クレーム書いてるんだ」と言い、
 2人目は「回避できない強い特許を造っているんでさぁ」と言い、
 3人目は「新しい事業を支える準備をしてるんですよ」と言った。

なんてことを考えてしまいました。
 まぁ、現実問題としては目の前の作業に没頭せざるを得ないわけですが、どこまで見えているかということでモチベーションが違ってくるというのは、どの世界でも普遍的な事実なのではないかと思います。

コトづくりのちから

日経BP社

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これぞ知的創造サイクル?

2006-11-07 | 新聞・雑誌記事を読む
 今日の日経に、早稲田大学のTLOのライセンス収入を原資にして、同大学発のベンチャーに出資する制度がスタートしたという記事が掲載されていました。これぞ知的創造サイクル、と興味深く読んでみたのですが、記事の内容を読んでみるとちょっとベンチャー投資の常識からは考えにくい制度となっているようです。
 記事によると、ライセンスにより得た利益の700万円を100万円を上限として7社に投資するそうです。大学の持株比率は2割未満に抑えるとのことですが、となると出資先はいくらぐらいの資本金の企業が想定されているのでしょうか。いくら大学発のアーリーステージのベンチャー企業とはいっても、100万円の出資を受けるために申請書類を準備したり年1回の事業報告を義務づけられたりするということは、経済合理性の観点からは選択し難い制度のように思います。上場によってキャピタルゲインが得られれば再投資に充てる方針とのことですが、100万円では20倍になったとしてもキャピタルゲインは2000万円以下、上場までの間の運営経費や上場できない案件の償却原資を差し引くと、普通に考えると再投資の原資など無いに等しいのではないかと思います。
 千里の道も一歩から、ということで、何ごとも始めることに意味があるということかもしれませんが、あまりに民間の経済感覚とのギャップが大きいと、「やっぱり大学は・・・」といった流れに引き戻されてしまいかねない懸念もあるように思うのですが・・・。

LVMH

2006-11-06 | 知的財産と投資
 タイトルの「LVMH」ですが、「モエヘネシー・ルイヴィトン」、あのルイ・ヴィトンを傘下におく高級ブランド・コングロマリットのことです。数日前の大和証券のSTOCKNEWSを読んで初めて知ったのですが、「モエ」はドンペリのモエ・デ・シャンドン、「ヘネシー」は洋酒のヘネシーのことで、これらは実は全て同じ企業グループが扱っていたのですね。その他にも、アパレルではセリーヌ、ジバンシィ、ケンゾー、フェンディ、ダナ・キャラン、化粧品ではクリスチャン・ディオールなども全て傘下にあるそうで、我ながらまだまだ世間知らずであることを思い知らされます。
 同社は、当たり外れの多いアパレル部門では多くのブランドを組合せてリスクを分散し、洋酒や化粧品など複数の部門を持つことで、さらに収益の安定を実現しているとのことです。同社に投資するということは、殆どデパートの1階に投資するようなものですね。リスクヘッジという観点からみると、理想的な経営ということになるのかもしれませんが、投資の醍醐味ということを考えると、「ルイ・ヴィトンのブランド価値に投資したい」というニーズには応えられないということになってしまいます。これに対して、コーチだとブランドそのものズバリ、ということになりそうですが。日本でいえば、サザビーがLVMH型のマルチブランドで、確かにリスク分散の効いた手堅い経営で収益も安定していますが、この分野ではちょっと欧米企業のスケールに日本企業は太刀打ちできませんね。

アドバイザー的コンサルタント

2006-11-05 | 書籍を読む
 「ミッション」を読みました。ビジネスものの小説で、プロの小説家の著作ではないのでストーリー自体がどうというものではないのですが、仕事に対する考え方を中心とした登場人物の心情、特に経営改革のために外部から参加するコンサルタントの心情にはいろいろ参考になる部分がある、なかなか面白い(amusingではなくinteretingという意味で)本でした。
 前に「知財コンサルタント」についての記事を書きましたが、個人的にはクライアントの知財業務への関わり方として、「コンサルタント」という立場を名乗ることはあまり好きではありません。コンサルタントというと、戦略系コンサルティングファームのイメージが強く、短期間で分析から提言まで整合性のあるシナリオをとりまとめて方向性を示すことが主要な仕事と理解しているのですが、知財の実務を経験するにつれ、知財業務に関して一番難しいことは、方向性を考えるというコンサルタントの担う部分よりも、それをいかに効果的に実践するかという日常業務の部分にあると感じるようになっています。そのため、クライアントの知財業務に関わる場合には、短期集中型・分析型の「コンサルタント」というよりも、中長期継続型・実践型の「アドバイザー」的なコミットをしたいと考えています。
 この本を読んで、特にコンサルタント役の登場人物の言葉や仕事への姿勢から感じたことは、まぁあたり前のことではあるのですが、「コンサルタント」か「アドバイザー」かということは言葉の問題に過ぎず、要は実質的な姿勢や仕事への関わり方が肝心であるということです。アドバイザー的コンサルタントとでもいうようなあり方について、ここに一言でとりまとめるのはちょっと難しいのですが、有益な示唆を受けたように思います。