経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

選択肢を広げる

2012-08-19 | 企業経営と知的財産
 日経ビジネスにヤマトホールディングス・木川社長の「需要創出のサイクルを回す」という連載が掲載されています。興味深い記事ですが、ここで説明されている「需要創出のサイクル」とは、
1. オンリーワンの商品・サービスを生み出す
2. ライバルの参入を促し、市場を広げる
3. 差別化を図り、圧倒的なナンバーワンになる
4. デファクトスタンダードになる
というもので、知財屋的には、「2.ライバルの参入を促し・・・」がちょっとドキッとするところです。あんた、いつも「知財で参入障壁を築くことが大事なんです」なんて言ってるけど、違うじゃないの、って声が聞こえてきそうで。
 勿論、ここでは「3.差別化を図り・・・」とも言っているので、そこで「壁」を作ることの意味も出てくるわけですが、いずれにせよビジネスの世界は「参入障壁」一辺倒ではないということです。需要を創り、市場を広げるのは自分の力だけでは限界があることが多いし、競争という視点で見た場合にも、まったく競合=比較の対象がないよりも、少し後ろにいて引き立ててくれる競合が存在するほうが、優れた部分が際立ってブランドイメージも育みやすい、というわけです。素材や部品の分野で、中小企業が本当にオンリーワンになったりすると、もしもの場合を考慮して一社購買を嫌う大企業は、かえって取引を嫌がるようになるという話もあり、オンリーワンであり続けることがビジネスの成功につながるとは限りません。
 この「2.ライバルの参入を促し・・・」と「3.差別化を図り・・・」は、イマ風にいえば「オープンとクローズの使い分け」ということですが、じゃあ知財権を抑えておくと何がいいんだ、と問われた場合、最も適切な答え方というのは、「選択肢を広げることができる」というものなのではないでしょうか。権利を確保してあるから、オープンにもクローズにもできるわけだし、オープンにした場合にも「本家、元締めはうちですよ」と示すこともできれば、先の一社購買を嫌われる素材や部品のようなケースでは自社でライセンス先をコントロールしながら複数の供給先を確保することもできるはずです。こうだからいい、と最初から1つの形に決めつけることはできないけれども、「選択肢が広がる」ことだけは確実にいえるからです。

 このように考えてみると、結局のところ事業の成否に直結するのは、広がった選択肢を基盤にして、どのようなビジネスモデルを構築し、需要創造と自社のポジショニングをしていくかという事業戦略です。‘知財活用’、‘知財で稼ぐ’、‘知財経営’といった知財自体が事業を規定するかのような表現より、シンプルに「選択肢を広げましょう」と語りかけるほうが、かえって経営者の腑に落ちやすいのではないでしょうか。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。