経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

‘本家本元’であることを伝える

2013-04-07 | 企業経営と知的財産
 一昨日、パートナーを務めている日本IT特許組合主催のシェアNo.1の秘訣に参加し、イーパーセル・北野社長のお話を聴講してきました。
 イーパーセルといえば、知財関連の方には記憶のある方も多いかもしれませんが、米国でグーグル等の大手ITベンダー13社に特許訴訟を起こし、ほとんどの企業との間でライセンス契約を締結したことで知られているベンチャー企業です。日本企業→米国企業、ベンチャー企業→大手ITベンダーと、特許の世界では考えにくい逆方向の特許訴訟、ライセンスに関するニュースということで、各所でセンセーショナルにとり上げられましたが、その狙いについて社長ご自身が赤裸々に語ってくださいました。
 グーグルで「イーパーセル」を検索すると、関連するキーワードに「イーパーセル パテントトロール」と出てくるなど、どうも特許訴訟、ライセンスといったキーワードから、特許で稼ぐことを目的とした企業というイメージで捉えられていることがあるようです。しかし、そうしたイメージは訴訟の部分だけに注目した場合に生じやすい誤解であって、特許訴訟云々について考える前に、まず同社が電子宅配便のサービスを提供する事業会社であること、そしてその分野の技術開発に世界で最も早く取り組んできた開発型のベンチャー企業であることを理解しておかなければいけません。
 この特許訴訟の狙いは、2012年11月15日付日経産業新聞の記事にも書かれているとおり、特許訴訟をきっかけに知名度を向上させること、さらに言えば、この分野の技術開発を世界的にリードしてきたのが同社であるのを証明し、それを広く伝えることにあったのです。その背景について詳しく語ってくださいましたが、米国で創業した頃に、世界的な大手ITベンダーとコンペになったことがあり、これもまた世界的な大企業であるユーザーが、大手ITベンダーを差し置いて製品本位でイーパーセルを選択した。そして、「技術面でNO.1だからイーパーセルを選んだが、No.2になるようなことがあればいつでも乗り換える。だから必死でやれ!」と檄を飛ばされたそうです。そういうベンチャーを育てる風土がある米国に対して、日本企業は実績主義で、技術面は評価されたとしても会社の知名度不足でなかなか採用が決まらない。そうした日本企業を動かすためには何が必要なのか。それは‘グローバルスタンダード’というブランド力であると考え、世界の大手ITベンダーがイーパーセルの特許ライセンスを受けている、という事実から‘グローバルスタンダード’であることを示し、保守的な日本企業を動かそうと考えて、この訴訟に踏み切った、という経緯だそうです(「日本企業は保守的でベンチャーを育てる風土が・・・」とか嘆いているばかりでなく、じゃあどうすればよいかと考えて行動しているところが同社の凄いところです)。要するに、何よりも大事なことは本業である電子宅配便の事業を拡大することであって、特許ライセンスはその事業拡大を後押しするための手段に過ぎない、つまり、イーパーセルはパテントトロールでも何でもなくて、自社開発の製品・サービスで世界に挑んでいる事業会社である、ということです。
 こうした特許権をはじめとする知的財産権の効果について、拙著では「顧客にオリジナリティを伝えるはたらき」(「元気な中小企業はここが違う!」P.112~121、「経営に効く7つの知財力」P.105~109)として解説していますが、重要なことは、ここでいう特許の存在のPRは、カタログやパッケージに「特許取得」「特許出願中」と表示して人目を惹こう、ライバルを牽制しよう、といったそういう次元の話ではありません。特許の存在によって、この分野を開拓してきたのは我が社であり、我が社こそが‘本家本元’である、と顧客に伝えることが、本質的な目的です。相撲でいえば立ち合いの張り手のような、特許だといってちょっとびっくりさせてやろうといった作戦とは次元が違う話なのです。その特許について、業界大手がライセンスを受けていれば、客観的に認められていることの何よりもの証になります。そこまでできる企業は限られてくるでしょうが、こういった特許の使い方もありだ、ということを示してくれる、たいへん有益なお話を伺うことができました。

元気な中小企業はここが違う! (KINZAIバリュー叢書)
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