経営の視点から考える「知財発想法」

これからのビジネスパーソンに求められる「知財発想法」について考える

X社からの相談事例~解説編

2011-08-09 | 企業経営と知的財産
 では、昨日のケースについて、どういう意図で作成したかの解説を。
 まず、「経営(事業)の課題」ではなく、「知財の課題」に直接答えてしまうパターンから。2つのアイデアの技術内容をより詳しくヒアリングする、技術資料の提出を求める、まずは先行技術調査から始める、といった回答です。勿論、知財に関する相談窓口なので、こうした相談者のリクエストに対する誠実な対応を、直ちに間違いであると指摘しようというものではありませんし、現実の世界にこうでなければならないという正解があるわけではありません。あくまである視点を提示しようとするケースの作成者の立場からということですが、ここでは特許出願ができるかという相談にストレートに応える前に、これらのアイデアを特許出願することがX社にとってどのような意味があるのかを問うてみるべきでは、というのが第1のポイントになります。
 第1のポイントについては、「特許をとって社長はどうしたいんですか、というところから質問します」というご回答も結構多かったのですが、では1つ目のアイデアと2つ目のアイデアを同列に見てよいのか。そうした切り口から、2つ目のアイデアはいかにもX社の事業と関連性がなさそうなので、十分に練られたアイデアである可能性は低そう、特許を取得したとしても活かす方法がなさそう、よってX社の事業に関連する1つ目のアイデアを中心にヒアリングを進める、といったご意見もありました。
 ここで第2のポイントですが、1つ目のアイデアはX社の事業に関連するということで、そのまま出願する方向で話を進めてしまってよいのでしょうか。実はここに落とし穴を用意してあって、金属加工で食べているX社が、同社の得意とする特殊な金属加工を可能にする装置について特許出願をした場合、本業である金属加工の仕事にどのような影響が生じ得るでしょうか。装置が普及することによって、金属加工の仕事がなくなってしまうことはないでしょうか。その前提で、装置メーカーに業態を転換する覚悟はあるのでしょうか。特許が取れなかった場合、加工のノウハウが競合に流出してしまっただけ、という事態を生じさせてしまうことはないでしょうか。特許を出願した後にどのような状況が生じ得るのか、自社の経営(事業)に対する影響をよく検討することが必要でしょう、というのがこのケースで想定した第2のポイントです。「経営から考える」「事業に活かす」とかいうとちょっと身構えてしまいますが、何も事業計画書を作りましょうとか、SWOT分析をやりましょうとかいった大袈裟な話ではなく、特許出願に関する詳細を詰める前に、事業に与える影響を想像してみることに意味があるのでは、ということです。「知的財産経営の定着に向けて」で紹介させていただいた㈱アカネの砂本社長へのインタビューでは、「特許以外の要素をよく見極めて出願の判断をすべき」、言い換えれば、事業化までの道程がイメージできないような特許を出願しても休眠特許になってしまう可能性が高い、といったお話がありました。砂本社長は20年近くのご経験からそのように考えるようになったとのお話でしたが、この「特許以外の要素も含めて事業化のイメージができるか」という問いかけこそが、事業に活かすという切り口から相談窓口に求められていることではないかと思います。