私が子供の頃の事です。
私の住む家は東京と言っても下町で、両親は小さな家庭内工業を営んでいました。
私の家の斜め前は、耳鼻科のお医者さんでした。
耳鼻科のお医者さんには、一人娘のA子ちゃんがいました。
すぐにビービー泣く子でした。
一緒に走って遅れると泣き、何かやってうまく行かないと泣く。
私より2つくらい年下だったと思います。
私は、そのA子ちゃんともよく遊びました。
遊ぶというより遊んであげたと言った方がぴったりかな?
でも、お父さんである耳鼻科の院長は、自分の娘を私のような町工場の娘と遊ばせるのはあまり賛成ではなかったようです。
彼女は、学習院大学の付属小学校に通学していました。
当時、私の地域で私立の小学校へ電車通学する、ましてや学習院となると、それはかなり珍しいことでした。
要は、私たちとは「格」が違うってことでしょうか?
ある日、私とA子ちゃんが遊んでいる時に、私の母から用事を頼まれました。
確か自転車屋さんに何かを届けたような気がします。
私たち二人に自転車屋さんのおばさんが
「お母さんのお手伝い?偉いわねぇ。おりこうさんの二人にお駄賃をあげましょうね」
と言って、私たちに10円ずつくれました。
私はうれしかった!
家に帰って母に報告しました。
母も
「良かったね!」
と言ってくれました。
それを見て、彼女も家に報告に行きました。
すると院長先生が出てきて
「ウチは、他人からお金をもらうような家じゃない。そんなお金、返して来なさい!」
と彼女に言いました。
彼女は泣いて、「嫌だ」と言いました。
院長は何度か返してくるように言いましたが、彼女が泣いているので、
「返してこないなら、こんなお金捨てなさい!」
と言って、いきなりその10円玉を取りあげて、遠くに放り投げました。
私はうれしさが、一気に吹っ飛びました。
10円玉をくれたおばさんの笑顔が浮かびました。
「良かったね」と言ってくれた母の笑顔も浮かびました。
そして、悲しくなりました。
そんなことがきっかけで、耳鼻科のお嬢様とは、疎遠になりました。
この話には、まだ続きがあります。
それから約20年後、私は結婚して家を離れました。
ある日、テレビを見ていたら、ニュース番組にその耳鼻科が出てきました。
私の目は釘付けになりました。
その耳鼻科に住み込みで勤務していた看護婦さんに横恋慕した男が、ガソリンを撒いて火をつけ、その院長を撒き沿いにして自殺を計ったのです。
驚きました。
男は、「帰りなさい!」と怒鳴る院長を抱え込んで、火の中に入ったのでした。
看護婦さんは全身やけどで重体、院長とその男は焼死しました。
ニュースには、顔見知りの近所のおばちゃんが登場してコメントをしていたりして、それもまた驚きました。
あわてて実家に電話すると、両親は近火見舞いのお客さんの対応で取り込み中でした。
ニュースによると、院長は「とても良い人」ということでしたが、私にはあまり良い印象は、ありませんでした。
もっとも人はどんな人でも亡くなれば仏様ですから、院長も仏様になったんだなと思います。
耳鼻科は全焼し、残された一家は近所への挨拶もなしに、いつの間にかどこかへ行ってしまったそうです。
私の住む家は東京と言っても下町で、両親は小さな家庭内工業を営んでいました。
私の家の斜め前は、耳鼻科のお医者さんでした。
耳鼻科のお医者さんには、一人娘のA子ちゃんがいました。
すぐにビービー泣く子でした。
一緒に走って遅れると泣き、何かやってうまく行かないと泣く。
私より2つくらい年下だったと思います。
私は、そのA子ちゃんともよく遊びました。
遊ぶというより遊んであげたと言った方がぴったりかな?
でも、お父さんである耳鼻科の院長は、自分の娘を私のような町工場の娘と遊ばせるのはあまり賛成ではなかったようです。
彼女は、学習院大学の付属小学校に通学していました。
当時、私の地域で私立の小学校へ電車通学する、ましてや学習院となると、それはかなり珍しいことでした。
要は、私たちとは「格」が違うってことでしょうか?
ある日、私とA子ちゃんが遊んでいる時に、私の母から用事を頼まれました。
確か自転車屋さんに何かを届けたような気がします。
私たち二人に自転車屋さんのおばさんが
「お母さんのお手伝い?偉いわねぇ。おりこうさんの二人にお駄賃をあげましょうね」
と言って、私たちに10円ずつくれました。
私はうれしかった!
家に帰って母に報告しました。
母も
「良かったね!」
と言ってくれました。
それを見て、彼女も家に報告に行きました。
すると院長先生が出てきて
「ウチは、他人からお金をもらうような家じゃない。そんなお金、返して来なさい!」
と彼女に言いました。
彼女は泣いて、「嫌だ」と言いました。
院長は何度か返してくるように言いましたが、彼女が泣いているので、
「返してこないなら、こんなお金捨てなさい!」
と言って、いきなりその10円玉を取りあげて、遠くに放り投げました。
私はうれしさが、一気に吹っ飛びました。
10円玉をくれたおばさんの笑顔が浮かびました。
「良かったね」と言ってくれた母の笑顔も浮かびました。
そして、悲しくなりました。
そんなことがきっかけで、耳鼻科のお嬢様とは、疎遠になりました。
この話には、まだ続きがあります。
それから約20年後、私は結婚して家を離れました。
ある日、テレビを見ていたら、ニュース番組にその耳鼻科が出てきました。
私の目は釘付けになりました。
その耳鼻科に住み込みで勤務していた看護婦さんに横恋慕した男が、ガソリンを撒いて火をつけ、その院長を撒き沿いにして自殺を計ったのです。
驚きました。
男は、「帰りなさい!」と怒鳴る院長を抱え込んで、火の中に入ったのでした。
看護婦さんは全身やけどで重体、院長とその男は焼死しました。
ニュースには、顔見知りの近所のおばちゃんが登場してコメントをしていたりして、それもまた驚きました。
あわてて実家に電話すると、両親は近火見舞いのお客さんの対応で取り込み中でした。
ニュースによると、院長は「とても良い人」ということでしたが、私にはあまり良い印象は、ありませんでした。
もっとも人はどんな人でも亡くなれば仏様ですから、院長も仏様になったんだなと思います。
耳鼻科は全焼し、残された一家は近所への挨拶もなしに、いつの間にかどこかへ行ってしまったそうです。