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■高橋弘子第11回個展『たぶん世界に私しかいない』(2017年5月17日~29日、札幌)

2017年05月29日 01時01分01秒 | 展覧会の紹介-絵画、版画、イラスト
1.絵の全体像

 札幌の高橋弘子さんの制作・発表ペースは依然としてすさまじい。ちょうど1年前の個展が第8回だった。ほかにも、グループ展に出品している。
 今回の個展は、140×700センチの大作アクリル画「たぶん世界に私しかいない」1点のみという、非常に潔い会場構成。
 キュレーターとして、札幌国際芸術祭2014のスタッフで、現在は横浜トリエンナーレ2017のアシスタント・キュレーターを務める大下祐司さんが参画しているのが目を引く。道内の個展で、キュレーター名がクレジットされていることは、非常に珍しい。
 大下さんは長文のテキストも寄せており、表裏に印刷した紙を持ち帰ることもできる。

 会場の長辺から逆算して割り出した作品サイズなのだろう。
 F120号を4枚つなげたよりも大きい計算となり、相当な迫力だ。

 岩場のような荒涼とした土地が作品の舞台。
 画面左側に1頭のオオカミがいる。
 画面のほぼ中央で、戦っている2頭の黒いオオカミが描かれ、この大きな作品の中でも中心となるような最も目立つモチーフだ。
 さらに、その右側手前にわなのような物が描かれ、画面右サイドの山の上には、幽霊のような白っぽいオオカミがいる。
 画面全体に、白く細い縦線が描かれ、雨が降っているように見える。

 全体として、絵の横幅は相当なものなのに、モチーフの数は絞っているといえる。


2.2頭の黒いオオカミ

 これまでも彼女の絵の多くにオオカミが登場していた。
 今回のオオカミがこれまでと一番異なっているのは、このメインの2頭を見ると一目瞭然である。
 これまで高橋さんが描いてきたオオカミは細かい毛並みなども描写されていた。
 しかし今回は黒で平坦に着色され、かなりデフォルメがなされている。

 この2頭は、互いの首を嚙み切るように死闘を演じている。
 だから、残酷な描写を避けたという見方も不可能ではないが、これまでの高橋さんなら、グロテスクさもいとわずリアルに描いたはずであろう。

 むしろこの黒一色の描写は、ラスコーの洞窟壁画などを想起させる。
 従来も高橋さんの絵のオオカミは、どこか神話のような雰囲気を宿していたが、今回の描法変更により、その性質がいっそう強まったのではないかと思われる。

 そもそも現実においてオオカミはお互いを死に至らしめるほどの戦いをするだろうか?
 縄張り争いはする動物は多い。しかし、殺しあいまでする高等動物は人間だけらしい。
 そう考えると、この2頭は、博物学的、現実的な存在というよりも、ますます概念的、観念的な存在としてのオオカミであるといわねばなるまい。


3.展覧会とテキスト

 ところで、大下さんが寄せたテキスト「火葬場、そこにまだ灰のない骨のために」は、シートン、アリストテレス、プラトンからデリダまでを縦横無尽に引用し、人間と動物の生と死について考察した、力のこもった論考である。
 安易な要約を拒む文章であるが、骨を生きているうちに見ることのできない不条理さのうちに、骨が精神的なものでありうる可能性に言及している。

 筆者がこのテキストを擁護するのは、そもそも道内の美術界で、とりわけ近年、このようなテキストの需要が極端に減っているように思われるからという面もある。
 ここまで長文のテキストを会場に置く例は少ないと思うが、展覧会の案内はがきなどに、美術評論家による紹介文を添えることは、札幌でも東京でもかつては広く行われてきた。
 しかし、東京では、団体公募展系から現代アート系へのシフトが少しずつ進む中で、こういった文章の需要が増える一方、札幌や道内では、目にする機会がむしろ減少していっているように感じられる。

 最近では、帯広コンテンポラリーアートの図録は、主催者側のテキストだけで、評論は一切載っていないし、昨年で幕を閉じた「北海道現代具象展」の図録に至ってはテキストが皆無である。
 地元紙も1紙がなくなり、もう1紙も本格的な展覧会評をあまり載せなくなって久しい。
 美術にまつわる文章の量が絶対的に足りないのだ。

 展覧会の案内はがきに付す気の利いた紹介文もなく、自主企画の展覧会の図録に載せる評論文も無いようでは、北海道の美術シーンは21世紀に入って、ますます中央から引き離されていくのではないかと感じてしまう。
 これについて、実作者や鑑賞する側、キュレーター、ギャラリストの意見を聞いてみたいと思う。



2017年5月17日(水)~29日(月)午後1時~10時30分、火休み
ギャラリー犬養(豊平区豊平3の1)


http://hirokotakahashi.net/
□twitter @harutoki_k

高橋弘子第8回個展『DAMAGED』 (2016)
高橋弘子第2回個展「Subjective observation」(2015)




・地下鉄東西線「菊水駅」から約700メートル、徒歩9分
・中央バス「豊平橋」から約180メートル、徒歩3分

・地下鉄東豊線「学園前駅」から約1キロ、徒歩13分

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