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しつこく「北斎と広重展」

2006年04月10日 23時21分23秒 | 展覧会の紹介-絵画、版画、イラスト
 永井荷風の「江戸芸術論」を読んでいたらおもしろい記述に出あった。
 北斎と広重の二大風景画家をくらべたくだり。

 
北斎の画風は強く硬く広重は軟かく静なり。(中略)北斎は描くに先立ちて深く意識し、多く期待し、常に苦心して、何らか新意匠新工夫をなさずんば止まざる画家なるべし。然るに広重は更に意を用ふるなく唯見るがまま興の動くがままに筆を執りたるに似たり。


 なるほどね。

 たとえば、おなじ日本橋を描くにしても、北斎はあくまで風景を主にしているのに対し、広重は人物を大きく扱い、楽しげに描いている。

 突風を題材にした北斎の「冨嶽三十六景 駿州江尻」と広重の「東海道五拾三次之内 四日市 三重川」を比べても、おなじような違いがある。
 一瞬にして宙に吹き飛んでいく紙の情景のおもしろさを描いた北斎。転がる笠を追って走る男の様子がユーモラスな広重。

 あるいは、北斎は男性的、広重は女性的といえるかもしれない。

 ところで、先に引用した荷風の「江戸芸術論」は、題名からは判断できないけれど、じつはほとんどが浮世絵の話である。
 あくまで反時代的だったこの大小説家がいかに浮世絵を愛していたかがわかり興味深い。文語体なのでわかい読者にはつらいかもしれないが。

 浮世絵は隠然として政府の迫害に屈服せざりし平民の意気を示しその凱歌を奏するものならずや。(11-12ページ)

 希臘の美術はアポロンを神となしたる国土に発生し、浮世絵は虫けら同然なる町人の手によりて、日当り悪しき横町の借家に制作せられぬ。いまや時代は全く変革せられたりと称すれども、要するにそは外観のみ。一度(ひとたび)合理の眼(まなこ)を以てその外皮を看破せば武断政治の精神は毫(ごう)も百年以前と異ることなし。江戸木版画の悲しき色彩が、全く時間の懸隔なく深くわが胸底に浸み入りて常に親密なる囁きを伝ふる所以けだし偶然にあらざるべし。(13ページ)

 そして荷風は、いかに街並みや生活様式が洋風化しようとも、日本の風土がある限り、浮世絵は永遠だと説く。
 まだまだ引きたい部分はあるが、興味のある人は実物を読んでほしい。岩波文庫から出ている。


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6 コメント

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現代に置き換えても (川上@道都書房)
2006-04-12 00:06:21
>浮世絵は虫けら同然なる町人の手によりて、日当り悪しき横町の借家に制作せられぬ。



現代美術にも当てはまりますね。文化国家を謳いながらも、芸術活動に関する所得税控除もないような国が、文化を標榜できるのだろうか。文化普及の芸術出版や美術の発表のための作家側の経費が、企業の交際費や企業メセナ活動の損金とは違って所得税の控除対象にならないような事では文化活動が景気の動向に左右される下地を作っている様な気がするのですが。

まあ、現代美術は奥深くには非(反)体制側の作業ではあると思いますが。
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Unknown (ねむいヤナイ@北海道美術ネット)
2006-04-12 08:59:43
 まあ日本は文化国家ではないでしょう。土建国家でしょうね。
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興味深く (ohta)
2006-04-12 16:43:29
今まであまり浮世絵の類を見る機会はなかったのですが本サイトの記述で興味深く入口に立てた気がします。(感謝

日本は土建国家ですか 笑。

道路や建物を造ることはできるけれどそこで行われる成果を評価基準にしないですね。
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ohtaさんへ (ねむいヤナイ@北海道美術ネット)
2006-04-13 22:49:46
>本サイトの記述で興味深く入口に立てた気がします。



亀レス失礼。

そうおっしゃっていただけるとうれしいです。

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只今読書中です (Juni)
2006-04-17 13:55:43
岩波文庫は全巻あります!のくすみ書房で買ってきました。久々の文語体です~。でも、漢文のような歯切れの良い文章は、読んでいて心地よいですね。



昨年、日本橋、江戸橋周辺を歩き、首都高速の下敷きとなった無残な姿をしっかり見てきました。プロジェクトXでは「このおかげでオリンピックは大成功」等ありましたけど、永井荷風氏がご覧になったら、なんとおっしゃったでしょうね。

今、地下道、ビル内通過など、立替案も出てるようですが・・・・・。



昔、姉の中学の国語の教師の口癖が、「文化果つる国、日本。日本のチベット北海道!」だったそうです。
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首都高速 (ねむいヤナイ@北海道美術ネット)
2006-04-17 22:46:58
 わー、「江戸芸術論」わざわざ買ったんですか、ありがとうございます。

 浮世絵のころの面影は、いまの東京にはほとんどないですね。
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