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是恒さくら「石の知る辺―本・刺繍・写真展 アメリカ・ニューヨーク州ロングアイランド先住民シネコックに鯨の物語をたずねて」(2021年1月5~24日、網走)

2021年01月23日 09時51分52秒 | 展覧会の紹介-現代美術
 「是恒さくら」で当ブログ内を検索すると、2019年の「樽前Arty」(苫小牧)に手芸の講師で来ていたのか~とか、道立北方民族博物館で先住民族の織物の講座を開くというツイッターの告知とか、思わぬところに名前が出てきて驚きます。
 筆者の記憶にあったのは、2019年に宮城県石巻市で見た REBORN ART FESTIVALでした。アラスカの大学で先住民族のアートを学び(というか、そういう学科があること自体驚き)、文化人類学でもありアートでもあるような手法で、クジラと人間のかかわりについて追いかけ続けているようです。

 これまで、宮城県の牡鹿半島(石巻市)や唐桑半島(気仙沼市)、和歌山県太地、ポイントホープ(アラスカ)など、クジラに縁のある土地を巡ってきた是枝さん。網走にも何度か足を運んでいます(網走には地元捕鯨業者があって、年5頭ほどを捕獲しています)。
 今回は、2019年に米国の先住民ネーションを訪れた際の文章と写真51枚、刺繍ししゅう数点、是枝さんによるテキストや刺繍図版を掲載したリトルプレス(=小さな雑誌)「ありふれたくじら」Vol.6を展示しています。
 そして、北方民族博物館所蔵の、ベーリング海のカヤック骨組みがどーんと置かれています。
(石巻で発表されていたような映像はありません)

 この、先住民のコミュニティである「シネコック・インディアン・ネーション」なんですが、地図で見ると、びっくりするほどニューヨークに近いんですよ。



 テキストと写真の末尾はタイムズスクエアの情景で締めくくられています。

 刺繍作品ではいちばん大きな作品「泳ぐ木」に心ひかれました。手書き地図とクジラと風景とが渾然一体となったような図柄。
 近代ではありえないのに、昔ながらの世界観では、地図と風景と動物・人間がいっしょになっているのは、なんだかとてもよく分かるような気がするんですよね。

 テキスト・写真で、個人的に一番ショックだったのは、ジェイソンズ・ロックという岩の説明でした。
「この岩にはいつも小さな水たまりがあるという。ジェイソンという名の先住民が、イースト・ハンプトンからサグハーバーへと旅する途中、ここに立ち寄り水を飲んだのだという」
とありました。

 もう、人の名も地名も、白人流に変わっているんですよね。先住民族に固有の名前とは思えない。
 先住民族の墓地をリゾート地にしちゃってるというのも衝撃でしたが、言い伝えの中の人名すら西洋に奪われてしまっているのか…。


 捕鯨の話はどうしてもセンシティブになりがちで
「クジラを捕るなんて残酷だ」
「捕鯨は日本の伝統文化だ」
というありがちな対立の枠組みに回収されてしまいがちですが、長い歴史をみれば、人間とクジラはたしかにさまざまな土地で物語を紡いできたわけです。単純な議論に落とし込む前に、その物語に、じっと耳を傾けていくことが大切だということが、是枝さんの作業というか営みから、しみじみと伝わってきます。

 北方民族博物館では「ありふれたくじら」vol.6も販売されています。小さな雑誌で1600円ぐらいしますが、アートだと思うと安いです。
 日本語と英語のテキストと刺繍だけで、写真はいっさい載っていないので、今回の展示に足を運ぶ意味はあると思います。


2021年1月5日(火)~24日(日)午前9時半~午後4時半、12日と18日は休館
道立北方民族博物館ロビー(網走市字潮見309-1)

□SAKURA KORETSUNE https://www.sakurakoretsune.com/

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過去の関連記事へのリンク
リボーンアート・フェスティバル 山形藝術界隈。 2019年秋の旅(24)



・網走駅から網走バス「観光施設めぐりバス」で乗車14分、「北方民族博物館」で降車すぐ。370円
※季節により本数、時刻が変わります

・JR網走駅から約4.2キロ、徒歩53分


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