バロックな話

バロック音楽/バッハとチェンバロ演奏、あるいは音楽のいびつな雑感

バッハの駄作

2007年03月10日 | バッハ

 大作曲家として知られるバッハもすべての曲が素晴らしいかといえば、そうではない。バッハの天才は彼自身も述べているように、たゆまぬ努力によって獲得した力なのである。

 若き時代の初期の作品には、とてもバッハとは思えないような駄作の鍵盤楽器曲が幾つか残されている(ただしそのうちの幾つかには偽作も含まれている可能性もある)。ただ、その駄作でも、当時の作曲家たちの曲とはどこかが違うのも確かだ。たとえばバッハ特有の強力な推進力が感じられる曲があったりする。この違いは彼固有の芸術家精神によるものだろうか。

 また初期の作品には、天才の片鱗を伺わせる広大なファンタジーを内包する曲も存在する。駄作と傑作とが入り混じり、苦悩する若きバッハの姿がそこにはある。作曲を途中放棄した楽譜が残されていたりすることからも、たぶんバッハ自ら曲の出来の良し悪しを十分に分かっていたのだろうと思う。

 そして彼は自分の向かうべき方向をしっかりと自覚し、最良の方法でその道を進んだからこそ、天才の名にふさわしい名曲を残すことができたのだと思う。彼の貪欲とも見える音楽人生には、寄り道なんかしている暇も無かったのだろう。